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力の使い方  作者: やす
三年の夏
168/474

#167~力の舞台~

『カシャ』『カシャ』『パシャ』……

株主達が一斉にデジカメや携帯電話のカメラを使い、限無会長の後ろに降りているスクリーンを撮影しだす。

一心不乱に大広間の北側、限無会長の後ろにあるスクリーンを撮る様は一種異様な光景で、誰も席を立とうとしない。

「「「「「「「……」」」」」」」

水上や限無会長、一樹旦那様や、二月奥様、三城奥様、四期奥様は終始無言だが、水上は誰もトイレに立たない所を見計らい、手に持っているマイクを顔の前に持って来ると口を開く。

『株主の皆さま、プロジェクターの画はそのままに、照明を明るく致します。急な明転で足を踏み外さない様にご注意ください。お手洗いの他に、トイレの左側・右手奥にある階段付近ではお飲み物をご用意しております。お飲み物やお手洗いはご自由に利用頂けますが、決算報告会中はトイレ休憩の時間を作る予定はございませんので、その点はご留意下さい。』

水上の声を合図に大広間が明るくなる。


「うむ……便所に行くか……」

そんな独り言を言って立ち上がるのは1人、清田校長だ。

『ガッ……』『ガッ……』『ガッ……』……

そんな清田校長が引き金になったのか、それに続いて立ち上がる者が数人現れる。

大広間の右手にはキッチンから伸びている階段があり、そこからは舞や美衣と同じ衣装のエプロンドレスに袖を通す女性がお盆に紙コップを乗せて上がってきている。

勿論だがその女性たちは皆成人は過ぎている大人ばかりで舞や美衣とは違い、その所作にはプロ意識を持っているのが見て解る。

彼女らは水上が代表を務める”ゴルドラファミリー”の一員で、家事全般やこういった”催し”の運営は慣れている者達であった。

水上はマイクを握りなおして報告会をつづける。

『では、株主の皆様からゴルドラグループ企業への質問や要望を承ります。何かございましたら、挙手でお知らせください。』

『……』「……っ……」

トイレや飲み物の提供からすぐに質問等を募るのは金山家への質問を減らす目論見があるのだが、その甲斐空しく何人かの株主達が手を挙げていた。

水上はそれらに対応する動きを話し始める。

「では順番にマイクを持った者を向かわせますので、マイクを渡されるまで挙手を保った状態でお願い致します。先に質問や要望された方と同じ質問・要望で発言を控える方は手を下げて頂ければ幸いです。」

水上の言葉が終わるのと同時に、大広間の端々等、どこからともなく人が現れる。

それはエプロンドレスを纏った女性だけでなく、スーツを着る男性も混じっていた。

”ゴルドラファミリー”には家事全般が出来る女性以外にも、力仕事が出来る男性も多く在籍している。

そう言った人も派遣できるという”ゴルドラファミリー”の宣伝も兼ねているのだが、男性株主だけならずに女性の株主達においても”エプロンドレスを身にまとっている女性”に来てほしいと思っている様である。

それはエプロンドレスを着た者達の動きが洗練されているが故に、逆にスーツ姿の男性はどちらかと言うと動きがぎこちない者が多い。


「はい、どうも……」

エプロンドレスを着た女性からマイクを受け取った中年男性が椅子に座りながらマイクを通して話す。

『……えー……”ゴルドラハウス”の業績不振はどこで帳尻を合わせているのですか?他の企業に投資をしている身としては負債を作るのか……これから作るかもしれない可能性がある所がグループ内にあるのは不安でしょうがありません。事業縮小を視野に入れた対応を検討して欲しい所です……ねぇ?会長さん?』

端的に言ってそれは四期奥様が代表を務める会社”ゴルドラハウス”のゴルドラグループからの脱退要請だ。

利益を上げられない会社はゴルドラグループには要らないと言う要望である。

『っ……はっ、はい、限無会長への要望としてお答えいただきます。』

水上は中年男性の要望を判断し、それを答えるのはグループの代表取締役の限無会長が応えるべきかとマイクを渡す様に美衣へ目くばせしている。

「待ってください!私から一つ、訂正させていただきます……」「……っ……」

だが、それは当の”ゴルドラハウス”代表の四期奥様が応えた。

エプロンドレスの美衣はすかさず、限無会長へ渡そうとしていたマイクを四期奥様に渡す。

本来は指名された限無会長が応えるべき要望だが、美衣は四期奥様が好きな為に勝手にそう動いてしまったらしい。


「どうもありがとう。……」

四期奥様は気を利かせた美衣にお礼を軽く言い、中年男性に向かってマイクの尻尾を向ける。

『……ゴルドラハウスは負債を抱えておりません。また、事業に関しての投資や資金繰りは今の所ありませんし、細かい出費は利益で相殺出来ております。これからも大きくお金のかかる事業は考えておりませんので”ゴルドラグループ”の合計業績に関しては値を下げる事はあるかもしれませんが、資産を借りる等で足を引っ張る事はございません。それでも私たち・清虹市民の家代わりになっている”ゴルドラハウス”をなくしたいお考えですか?』

四期奥様は業績自体は黒字経営出来ているのだから良いではないか?と言っている。対する中年男性はマイクをそのままに言葉を返す。

「でもねぇ?……私の記憶が確かなら、十何年前、つまりはゴルドラハウスが出来た時、限無さんは”十年で業績は倍になる!”って言ってたと思うけど……蓋を開けてみれば”十年で業績は倍”どころか”純利益は半分”になってるし……限無さんらしくないと言うか……一時は上がり始めたみたいだけれど……上がった途端に下がりだしちゃうし……ほんとに経営できるのかい?貴女は限無さんの娘らしくないと言うかねぇ……」

その中年男性は自分が投資していない”ゴルドラハウス”の創設時に限無会長が言った事・利益の変動を読み解いて指摘している。

自分の投資した企業だけでなく、その関連会社まで調べ上げているのは見上げた理にかなった一般的な投資家と言えるだろう。


四期奥様が代表を務める”ゴルドラハウス”と密接にかかわっているのは姉の二月奥様が社長を務める”ゴルドラE&I”だ。

もしかしたらそこに投資している人なのかもしれない。

『い、いえ、私の経営手腕が足りないばかり、貴方様が言われる事はごもっともかもしれませんが……「待ちなさい!私が答えよう。……」……はい……』

そこで大きな肉声を挙げるのは本来応えるべき代表取締役会長こと、限無会長だ。

限無会長は立ち上がり、言葉を返し始める。

今度黙るのは四期奥様だった。


「”ゴルドラハウス”がここまでの体たらくな業績なのは私の失敗だ。確かに私は”十年で業績は倍”と言った。そこは認めよう。しかし、言ったのはそれだけではない。「限無会長……」うむ……」

限無会長が大声で話し続けるのを阻止したのは水上だ。自分が持っていたマイクを手渡し、限無会長はマイクに向かって声を続ける。

『……私は”このまま行けば業績は二倍”と言ったのだ。しかし、制度を変えるバカがおってな……「っ……」……まぁ、その者に”ゴルドラハウス”を預けた私が悪いのは変わらん。それをただすためにもここで決算報告会を開いたのだがらな。』

限無会長の言葉は中年男性から”ゴルドラハウス”の代表を務める者に向ける。

つまりは四期奥様だ。

限無会長はここ清虹市で決算報告会を開いた理由・原因を聞く。

「貴様、ゴルドラハウスの一部が行ってる”児童養護施設”の規定を緩めたな?折角清虹市の条例として”児童養護施設を利用する児童は全ての金が工面される代わりに、その後一生貰える給与の10%を返納金として計上する”を”その後給与の10パーセントを返納し、完済できた額と認められれば返納する義務を取りやめる”としたらしいな?清虹市の条例は変わらんのになぜ変えた?」


捨て子が多い清虹市としての資金繰り苦肉の策として金山家が清虹市に打診した条例だ。

金山家が身よりの無い子供達の幼稚園から大学卒業までのおおよそで二千万円を肩代わりする代わりに、大卒の人が一生で稼ぐ金額が約二億円ほど、その十パーセントで大体二千万円である。

何事もなければ一生をかけて完遂出来る仕組みであり、その分、多く払う人と完済できない人がいる仕組みだった。


その”多く払う人”を減らす決定を四期奥様は勝手にしてしまい、”ゴルドラハウス”の財政を圧迫している。

”法力”と言う、日本で清虹市唯一と言っても差し支えない産業があるために出来ている条例である。

そこに目を付けて慈善事業と一攫千金の策を練った限無会長だったのだが、あろう事か四期奥様はその策を壊しにかかっていた。

清虹市に捨て子が多い理由は清虹市が創造された時に発生した”先住民”との衝突である。

法力で海の底から作られた清虹半島だが、”先住民”との衝突があったのだ。


四期奥様は忽然とした態度で限無会長に言い返す。

「一生の支払いは酷すぎます!終わりの無い債務支払いはやる気がそがれてしまうだけです!現に支払いが完遂した人でも善意で支払い続けてくれている方がいますし、割合的に見れば今の方が返済人数は多いです。」

法力教育は日本だけで見ると清虹市の一強だ。勿論他の地域でも法力が扱える人物・法術師はたくさんいるが、こと法力の教師免許を発行している数では清虹市の独占状態に近い。

日本で法力を学ぶなら清虹市が最先端である。

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