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力の使い方  作者: やす
三年の夏
166/474

#165~力の失敗~

「では最後に……四期奥様はどうでしょう?何か報告する事はございますか?……秋穂お嬢様もそちらに居られる事ですし、秋穂お嬢様のご結婚報告等がありましたでしょうか?」

水上は四期奥様と秋穂に言葉を振る。ホストだからと娘の秋穂が参加するのは珍しい。

「なっ!……」「いえ、秋穂はここにいて貰っているだけです。……報告と言いますか……下の子の、春香について良いですか?……」

秋穂は唐突にそんな話を振られ、驚きの声を上げるのだが、残念ながら”そんな浮いた”話が秋穂には音沙汰無い。

ここから四期奥様がこの集まりをなし崩し的ではあるが、許した理由を説明する。


それにそういう”浮ついた”話があるのはむしろ春香の方だ。

彼女は前にここ・金山邸で雨田勝也に『ずっと一生一緒に居たい、死ぬまで言ってやる』等と、ジャージ集団と秋穂たちが対峙し、春香とそのジャージ集団の一人が”応酬している”時に言っていたのだから……

秋穂は容姿端麗・才色兼備・文武両道・良い家柄の令嬢と、超々世の男性が放っておかない女性なのだが……とんと男の噂が無い。

見た目に反して料理はあまり得意では無かったり、男勝りな腕力と精神が邪魔をしているのは明白だが、問題はそれだけではないのだ。

原因は凪乃が過保護にもべったりとくっ付いて行動を共にする事・秋穂に怪我をさせてはならぬと料理をさせない事……がそうさせているのだが、そんな事は露ほども気付けていない秋穂である。


「春香は「なんだ?……春香に婚約か?あの子はお前や二月と違い、私に似て出来た者だと思ったが?……そんな幼い頃から浮ついた精神は持っておるまい?」……いっ、いえ!……春香に婚約なんてさせません、あの子がそうしたいと言うなら別ですが……報告する事……いえ、お力を貸して頂きたいのです。……」

四期奥様は少しの間を置いた後、意を決したようにして春香の事情を話し始める。

「……春香は昨日、清虹市で犯罪を犯す悪漢達に学校で攫われてしまいました……”お父様の”お力を貸してください。……うちは最近、”大きな出費”をしたのもあって…人を雇えず……あの子を助ける為に何もできていなくて……」

限無会長の詰問が四期奥様の言葉を遮るが、四期奥様は言葉に詰まりながらも”事実”と”お願い”を述べる。

四期奥様の”大きな出費”とは清敬学校の水系法力研究所に資金提供した事である。

それは勝也の母、雨田澄玲を家に長く居られるようにする為だ。

雨田勝也は春香が孤立しない様に構って貰っている。

それを思えばそこまで大した金額でも無く、日々の出費を一年程でも抑えれば補てん出来る懐事象だっただと思っていたがタイミングが悪すぎた。

さらに四期奥様は彼女が経営する会社の制度を少し緩くした為に一時的に金欠気味なのだ。

そのおかげてと言うか、そのせいで限無会長がここに訪れているかも知れないのだが……


『……』『はぁ?……』『ん?……』『……ふん。』

一樹旦那様や、二月奥様、三城奥様はそれぞれに思ってもいない事を聞いたリアクションを取る。

だが、限無会長だけは訳知り顔だ。

四期奥様の持ち点は五点、ここで春香が死亡すればマイナス二点の二倍でマイナス四点、持ち点一点となれば、金山家当主の跡目争いは一気に出遅れる。

四期奥様に至っては”金山家のすべて”等は欲していないが春香を失うのは考えられない。

それは皆が解っている事なので四期奥様の足を引っ張る四期奥様の兄妹はいないのだが……


誰も四期奥様の言葉を疑っていない。

水上は独り、誰にも聞こえない声量で言葉を紡ぐ。

「……やはり、本当でしたか……半信半疑だったのですが……」

水上は疑う様な誰も聞こえないような小さな独り言だ。

だが、それを聞き咎める者が一人。

「……水上?どういう事だ?私からの情報を半信半疑か?……それに四期、貴様は何度言えばわかる?……私の事は”会長”と呼べと!!それが人にモノを頼む態度か?!」

四期奥様は譲らずに限無会長を”お父様”と呼んでいる。

限無会長を”お父様”と呼ぶのは彼女だけで、他の兄妹は皆”会長”と呼ぶ。


四期奥様は言葉を返す。

「い、いえ……申し訳ありません……”お父様”……ですが、貴方を”父”と呼ぶのは私だけですし……それを辞めてしまっては……」

それは限無会長が息子・娘達に強要している呼び方に関する決まりだからだが……

「……”お爺様!”……」

ここで黙って居られない者が声を上げる。秋穂だ。彼女は言葉を続けた。

「……お願いします!春香を助けてあげてください!春香が連れ去られたおかげで春香の”友達”と、風間さん……いえ、凪乃さんがショックを受けているのです。自分の血の繋がった孫が傷つけられて、黙っている”お爺様”ではないでしょう?”お爺様”は金山家の繁栄を約束されているハズです!」「秋穂!!」

四期奥様の隣に居た秋穂が限無会長に叫びだす。

”血を大事にしている金山家の当主にあるまじき態度ではないのか!”と。

しかし、四期奥様はそれを窘める様に秋穂の名前を言って娘を止めようとしていた。

それは、秋穂は三つの失敗を犯しているからだ。

一つ目は・春香の”友達”=勝也の存在を匂わせた事。

二つ目は・風間家が引き取った拾い子の”凪乃”を引き合いに出した事。

三つめは・四期奥様のせいでもあるが、限無会長を”お爺様”呼ばわりした事。

限無会長は自分の血を分けた者に対して悪く言う事はあっても、最終的には必ず何らかの手助けをする。

勿論それに対しての対価が必要とされ、対価が無ければそれ相応の理由を限無会長が作って世話をしてくれる。

その対価を支払うつもりで四期奥様は限無会長にお願いをする事にしたのだが、限無会長はその反動なのか、他の血を持つ者が関わるのを極端に嫌う性分があった。


「ふん、もういい……」

限無会長は秋穂と四期奥様の顔を吟味した後にその口を開く。

「……やはり、トビの子はトビか……水上、決算報告会を始めなさい。”加減算報告会”はこれにて終了だ。それぞれの持ち点に変更は無しとする。」

「っ……はい。……申し訳ありません……」

水上は限無会長の言葉を疑う様に取られる言葉を発してしまった為に、何らかの罰を待っていたが、それも無く今日のメインイベント開始を告げられた。


水上は戸惑いながらも決算報告会の準備に取り掛かる。

「……では外に集まっている株主達をこちらに呼び始めます。十分程お時間を頂きます。……では、失礼します。」

『……もしもし、ええ、始めて頂戴……』

水上は断りを入れてから携帯電話を取り出すと、どこかへ電話をかけ始める。

電話の先は金山邸の正面の門で人を誘導するスタッフだ。

彼女の会社の従業員か、水上家の者であるらしい。

皆一様に、それは制服の様に、エプロンドレスを着ている者達だ。



『ブゥゥン……』『キンッ!』『ガーッ……』『がやがや……』

大広間の端にあるエレベーターが開く、エレベーターから訪れた人達を合図に、

階段からも人達が”ワラワラがやがや”と出始める。


半数が中高年の人たちで、若くても精々が三、四十代の大人達だ。

彼らの手には細長く折り畳まれたパイプ椅子があり、それはテーブル付きのアウトドアにも使えるリクライニングパイプチェアーである。

株主達1人1人へこれを出入り口で渡しているらしい。

小奇麗な衣装と同じく、どれも新品の様に光り輝いていており、使い勝手と見た目は良さそうなモノだ。

何よりもその大きさに反して軽いらしく、お歳を召した貴婦人でも軽々と持ち上げている。

『んっ!……』

それを確かめる様に見た二月奥様が、椅子から立ち上がると大声を出し始める。

「皆さま、ようこそいらっしゃいました。皆さんのお手にあるチェアーは私の会社・ゴルドラE&Iの製品です。おひとり様一脚のご提供なので、ご家族や贈り物に御入用の際はお近くのホームセンターや家具用品店でお買い上げください。今後ともわがゴルドラグループをご愛用頂きますようにお願いします。」

二月奥様は自分の会社の宣伝をしている。

二月奥様の経営している会社はゴルドラE&I(いーあんどあい)と言う。化粧品や日用品・雑貨・衣類・電子製品を製造販売する会社らしい。

『っ……』

それに続けて立ち上がるのは隣のテーブルに座る者だ。

「この建物は、わがゴルドラグループの基幹企業である、”ゴルドラ”が土地の整備から手掛けて建てた物です。この建物は清虹市の黎明期からですから……築五十年を超えています。内装は多少手を入れていますが、建物の主要な部分は一切補強や修繕をしていません。わが社の歴史は古く、現会長で先代の金山現無が、わが社の前身・旧”ゴールドラッシュ”次代に建てた物です。山の麓に土地を持ってらっしゃる方や、新築の家を建てたい方は、”土地の整備から建築”までの”ゴルドラ”をご用命ください。……間もなく始まります、”決算報告晩餐会を存分にお楽しみください。」

『パチパチパチパチ……』

一樹旦那様が来賓した株主達に頭を下げながら言葉を紡ぐと、各々の判断で開けられた空間に椅子を置いて着席していた株主達は作業を止めて、拍手を始める。

本当はホストである四期奥様が来賓した株主達へ言うセリフなのだが、一樹旦那様は自分を売り込むタイミングを心得ているらしい。

『……』

一樹旦那様は優雅に一礼してから椅子に腰を落とす。



『美味しいご馳走……』

「帰ったらごはん作るから……厘ちゃん!ね?」

金山邸の外、門の外には取り残された厘と澄玲の二人だけが残っている。

清田校長と話していたのは”失敗”だったかもしれないと、遅まきながら澄玲は気づくのであった。

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