#162~待った末に持った力~
#160~力を持つ人達~のBパート的なお話で
#158~力を待つ人達~の続きとなります。
「賢人さん。今夜、二階で金山グループ企業の決算期報告会が行われるらしいわ……金山家の主催するイベントとして、株主の方も呼んでいるみたい……今、外には人が集まっているそうなの……」
四期奥様は待ちに徹しているリビングに階段で降りてくると、早口でそうまくし立てる。
「……なっ!嘘だろう?そんな事……」「なっ……」「……」
リビングには四期奥様の他に、金山賢人、清虹署の女刑事二人、一ノ瀬警部と信濃警部補がいる。
金山邸にいる他の者として挙げると
風間景と法力警察官アドバイザーの飯吹金子はキッチンで料理していて、
秋穂や金山家の血筋の者達は二階の大広間に集まっている最中、
凪乃は一階の小さな部屋で眠っており、
水上率いる使用人集団は金山邸内の西側、小さな部屋が並ぶ廊下から金山邸の周辺に展開して人を誘導したり屋敷周辺を清掃したりしている。
四期奥様は急ぐ様にして言葉を続けた。
「……と、ともかく、私は決算期報告会へ出席します。準備をしてから二階に駆けつけなくっちゃ……着替えないと駄目ね……、あぁ!もう!こんな事してる暇ないのに!……あ、飴も持って行かなくちゃ……」
四期奥様は凪乃の寝ている小部屋の隣にある部屋へ向かう為、キッチンや応接間とは別の扉に向かう。
そこは化粧室やクローゼット部屋等の金山邸で普段使う物が置かれている物置みたいな部屋だ。
そして、最後に挙げるのは金山市長の第一秘書である平岩だ。
彼は勝也を迎える為と、風間景の”お友達”に対応するため、金山邸の地下駐車場にある三つの玄関の内の一つ、リビングと階段で繋がる玄関にいる。
ここには車が出入りするシャッターの開閉操作盤と、シャッターに埋め込まれたカメラからの映像を映すモニターがあった。
平岩はそれを見ている様子である。
「……ふんっ!?……あれは……ふんっ!……」
平岩の見るモニターには気になる集団が一瞬だけ映る。
黒いパーカーやギラギラした文字が印刷されたシャツにズボン、顔にそりこみや、どう見ても”事故”にしては説明できない傷を必要以上に見せびらかしている者……
と攻撃的な雰囲気の面子が数十人規模で固まっていた。
歳はおおよそ二十~三十の集団で、この者達だけが浮いている様に思える。
時折画面から見切れて、金山邸の正面にある門辺りには
ランニングしている者・犬を散歩させている者・何かのコスプレかと思えるような服を着ている者・ある程度お年を召した男性や女性……
と、バラエティに富んだ往来が見える。
「……ふんっ!……何か……あるのか?……ふんっ!……」
しかし平岩は今現時点で外の往来の情報を持っていない。
いきり声はスクワットをしながら外の観察を続けているからだった。
彼は暇さえあれば筋トレに勤しむ癖がある。
「……おぅ、ここに居たか?……」
平岩が上を見ると、階段からキッチンに籠っているハズの景が登場する。
下ごしらえに区切りをつけたのか、幾分か落ち着いている様に見えた。
景は平岩に向けて言葉を続ける。
「……リビングでは誘拐犯からの電話待ちで……他には特になんも出来ねぇ、してねぇみたいだし……何も出来ねぇから俺もここで待たせてもらうよ?」
「あれ?仕込みは終わったのですか?」
平岩は景に尋ねる。
「おうよ。後は煮込みを待つだけなんだが、”言われた事はやる!”って言う言葉を信じてあの乳姉ちゃんに見させてる。……まぁ時間になったら火を止めるだけだから失敗しようも無い事だからな。あの姉ちゃん、ふざけてどうしようもねぇが、料理は一通り出来るらしい。こういっちゃなんだが……意外だよな?」
景はキッチンでの作業を一通り終え、一旦リビングに戻るも、その場の雰囲気を感じ取ってここに訪れたらしい。
彼は料理に関しては人を信じないタチなので珍しい事なのだが、平岩はその事をよくは知らない。
「……そうですか……彼女は料理は出来るのですか……」
平岩は飯吹が料理スキルを持っている事に驚いた。
彼は賢人から景の料理スキルと人を見る目ぐらいは聞かされている。その事は疑っている様子はない。
平岩はもう一つの事について自分の知っている事を話す。
「……実は私もリビングにいるのが辛くて……金山市長は昨日から寝ずの強行をしていますから、もっと辛いハズです……四期さんは四期さんで金山家に翻弄されているそうですね……」
景は一階の状況を説明するが、それは平岩も知っている所であり、避難してきた自分達以上に四期奥様や金山市長は辛いだろうという事を言っていた。
現状こちらからする事……いや、出来る事はほぼ無い。
それこそ出来る事は、草の根分けてでも春香を探すぐらいだろう。
さらに付け加えれば、清虹署から女刑事達が着た事で四期奥様はいろいろと彼女らに提案や要請をするのだが、女刑事二人は”それは難しい”等と言って、余計に不毛な言い争いが散発している。
どちらの言い分も全くおかしい対応ではない為に、結局は誘拐犯からの連絡待ちしか出来ずにいた。
「で?……お前さんは何を見てるんだ?」
景は平岩の視線の先を聞く。
モニターには金山邸の裏にある山と、西に広がるいくつかの住宅や、日本の本土が遠くに見えているだけだ。
今は人が映っていないのだが、平岩は正直に答える。
「これはシャッターの外の状況です。こちらはあまり人が来ることは無いですが、意外と車と人は通るモノでして……今朝、春香さんの”お友達”が来ていたので……いろいろと勘違いしていた我々は一旦帰って貰ったので……その子が来るかを見ています。」
平岩は勝也を”お友達”と形容して、自分のしている事を答える。
スクワットは景が来た時点で既にやめていた。
「……あぁ、さっき凪乃が驚いてた奴か…………それに、そんなカメラなんてソコに取り付けたのか……昔は無かったんだがな……確かにそこで外の様子が分かると車の出し入れに便利かもな。……ちなみにアンタが見始めてからはどんな奴が通ってるんだ?」
景は昔ここに居た時は無かった物がある事に驚き、誰がここまで来ているのか聞いた。
この地下駐車場に繋がる道はたまにしか人が通らない。知的好奇心もあったのだろう。
平岩はこれにも答える。
「いろいろな方が来てますね……山に近い住宅街の日曜ですから……通る人はほんど同じような人達です。サイクリングロードを通ってランニングの折り返しで走っている人や、犬の散歩……あとは……何かあるのか、少し身なりの変わった人たちが来ています。……エキセントリック……と言いますか……ギラギラと言いますか……キラキラした服を来ている集団も……あぁ、彼らですね。」
平岩はそんな集団がまたこちらに来ている所を移すモニターを、景に見せる。
景は反応した。
「……あぁ、こいつらだよ。国近がここに寄こすって言う奴らは……ちょっとそこを開けてくれ。俺が話を付けてくる。」
「えっ?あの人たちが……てっきり風間さんと同じような、料理好きな人達かと思っていましたが……は、はい、今開けます。」
景は自分の靴を履くと平岩に駐車場の扉を開ける様に言った。
平岩は国近が寄こした面子に驚くも、操作盤にある開閉ボタンを押す。
『ウィー……』「おぅ!色々と手伝ってくれてありがとうよ。」『ガバン!』
駐車場の扉は稼働音を響かせながら開いていき、景は感謝の言葉を言いながら駐車場を隔てる金属扉を開けた。
金属扉を開けたその先は景が乗って来た白い軽トラは既に端に停められ、視界は暗いながらも良好だ。
『ウィーーーーー……』
駐車場の外と隔てる扉が自動で開いている最中である。
駐車場の天井にある蛍光灯が自動で付いて薄暗い駐車場内を見せる中、車の出入り口からは眩い外の光が入ってくる。
「あん?あいつは……」
そのシャッターの前には少年が一人立っていた。
シャッターに埋め込まれているカメラからは死角になっていた様だ。
日中の汗ばむ陽光を全身に浴びていた為か、頬が若干赤い。
いつからかは解らないが彼は待っていたのだ。この扉が開くのを。
「おい、お前さんのお客さんみたいだぞ?早く行ってやれ。」
景は金属扉を開けながら平岩にそれを教えていた。




