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力の使い方  作者: やす
三年の夏
162/474

#161~力の微笑~

『ブゥゥン……』『キンッ!』『ガーッ……』

エレベーターが二階に到着すると、その扉を開ける。

「ふぅふぅ……二階に到着しましたぁ!……はぁはぁ……」

やはりエプロンドレスに身を包んだ女の子がエレベーター嬢よろしくの声を上げる様だ。

「……ぇ……はぁはぁ……金山ぁ……四期奥様ですぅ……ふぅ、ふぅ……ぅぅっむ……」

舞は疲れてきているのか、四期奥様の所だけはかなり声を小さく絞っている。息が切れ切れだからだろう。


このエレベーターで登場するのは舞の紹介によると四期奥様だ。彼女の正装はなかなかお目に掛かれないドレス姿となっている。

それは、極彩色の肩だしスカートドレスで胸元には四角を重ねた黄金ブローチが光る特注だ。

髪までは時間の関係でセット出来ずにそのまま下げているだけとなっている。


……そんな出で立ちを想像している秋穂である。

四期奥様の美貌を惜しげもなく着飾ったその姿は”似ている”と自負している秋穂であっても鼻高々な麗人の姿で、四期奥様はエレベーターから二階の大広間・絨毯を踏みしめて登場する。

……はず……登場するはずなのだが……


「……ん?」「四期でしょ?」「何をやっているのかしら?」「お……お母さま?」「……?」

四期奥様はなかなか大広間に姿を見せようとしない。

『そんな所で何か問題があるはずないだろ?』と思っている大広間の面々・長テーブルの椅子に座っている兄妹達でさえも、何事かとエレベーターに目を向けている。

ホスト代理としてテーブルの横に立っている秋穂は何があったか皆目見当がついていない。

進行役としてその近くに立っている水上は自分の娘の不手際ではないかと目じりに皺を寄せてエレベーターをにらんでいる。

『……』

誰も動こうとせずに時間だけが過ぎ……


「……何をしているの?舞?!出て来なさいっ!」

一向に沈黙しか返してこないのにしびれを切らしたのは水上だった。

母として・金山家に仕える者として、舞の後先考えずに大声をあげる事・それゆえにすぐ声を枯れさせている事にも苛立ちを募らせているのだ。

それゆえに舞へ呼びかける声はまた一段ときつい印象があった。


「……はっ……ふぁい!」

そうしてエレベーターからは少し変な返事が聞こえると、舞はエレベーターから飛び出してくる。

飛び出してきた舞には一見しておかしな所は見られない。

「皆さん、遅れてごめんなさい。……」

それに続けて今度こそ四期奥様がエレベーターから現れた。

大広間の全員に向けての言葉で、言葉には続きがまだある。

「……お久しぶりです。急な事で遅れてしまいましたが、”今日は”出席させて頂きます。」

四期奥様の姿は先程秋穂が想像した以上に神々しく、言葉では言い表せられないようなそこはかとない愛嬌を見せる四期奥様だ。


「お母様……」

秋穂は今年で42歳になる母親だが、これほどまで綺麗にしている姿を未だ数回しか見た事が無い。

今の母を見る秋穂はこれまでの考えを改めている。”私は今の母の様に、こんなに綺麗なハズがない……”と。

秋穂の隣からは『四期奥様……』と苦悶の声が漏れるのを聞いた。

「ほぉ?……」「ふん!……」「くっ……」

一樹、二月、三城の四期奥様の兄・姉らの三人はそれぞれに思う所がある反応であり、久しぶりに会った妹へ対する良い感情を持ち合わせていない。


「ねっ?……」

四期奥様は前にいる女の子、水上舞に何やら言葉を掛けている。

「っ!……あっ、はい!失礼します!」

その声は調子を取り戻したかの様に明瞭だ。

舞は走ってエレベーターに戻り、エレベーターを動かす為にまたも大声を発する。

「一階に参りますっ!ドアがしまりますっ!」

叫び声……と言うより、綺麗な大声を発してからエレベーターが動き出す。

『ブゥゥン……』『ガーッ……』


四期奥様は大広間にいる面々を見ると、指示を出し始めた。

「秋穂さん?もういいわ。そこのテーブルの椅子に座りなさい。水上さんも自分のテーブルへ。」

「はい。失礼します。」「はい。お母様……」

水上と、いつもとは違う呼び方で呼ばれた秋穂は、言われた椅子に移動する。


それと入れ替わる様にして四期奥様は大広間の端に立ち、この集まりを進行させる。

「んしょ……」『パカッ……』「ブゥゥン………ンン」

四期奥様はノートパソコンを開き、何かを操作すると天井に備え付けられているプロジェクターと大広間にある北の壁からスクリーンを登場させる。


『ブゥゥー……』

その後にはまた別の機械の音が流れてくる。

『ゥゥン……』『キンッ!』『ガーッ……』

「二階に到着しました。金山現無会長様です。」

『カタッ、カタッ……』

舞の完璧な紹介の声の後、大広間の絨毯には靴下の足が下ろされる。


その人物を簡単に言い表せば、老紳士。

黒いスーツに茶色いコート、白いハットで白髪を隠し、髭は無くとも年季と重い風格を漂わせる男性・金山限無会長の登場だ。

細い眉で頬はこけすぎない程度に細く、肌は綺麗に磨かれており、病気を知らない健康体である。

老体とは思えない様に背筋を伸ばしているのは十分な筋力と、その不屈の風貌に相応しい闘志を持っているのだろう。

何か他に説明を付けるとしたら、目力がとてつもなく強い。

別に睨んでいるわけではないのに、”睨まれてる?”と錯覚してしまう顔だ。

八十代の老体だがそれを言い表すと”王者の風格”を携えている。

そんな見る者を射すくめるような顔だが、絵になる整った顔を持っている。

「結構……」

限無会長は短くそう呟くと、白いハットを持ち上げて戻した手にそれを残す様にして帽子を脱ぐ。

「はっ、」

エレベーターから続いて出てきた三十代後半の男性が、それをタイムラグも無い様に間も置かずに受け取った。

限無会長はそれに構わず言葉を続ける。

火口(ひぐち)……」

白いハットを受け取った男性は『はっ』っと返事をすると、そのまま限無会長に近寄って限無会長の言葉を聞いている。


そのやり取りに水を差す者が一人いた。

「お父様?お久しぶりです。四期です。お元気でしたか?」

「っ!四期奥様!”会長”を”お父様”と呼ぶのはお止め下さい。」

火口と呼ばれた男性・会長の秘書である火口(ひぐち)(かず)は四期奥様に呼び方を是正する。


「……ふん!もういい。……久しぶりだな?……四期?今日は逃げそびれたか?」

限無会長は火口に言葉を代弁させるのをやめて、自分で声を出し始める。

言葉とは裏腹に、顔には微笑を携えている。

四期奥様は言葉が返ってくるとは思わなかったが、それを悟られない早さで言葉を返す。

「いいえ?お父様?今日はこちらも用事がありましたのでそちらの要望を飲む事にしました。」

対する四期奥様は違う性質の微笑を携えて返答した。


可愛く言えば親子喧嘩が、

怖く言えば命のやり取りをするような戦いが幕を開ける。

本当に関係ない話になりますが

うちのBDHDDレコーダーが壊れました……泣けます……

多くの番組はBD-REに逃がしてますが……消えた番組は戻ってきません……

はぁ…………(´TωT`)

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