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力の使い方  作者: やす
三年の夏
156/474

#155~力の刺客~

時刻は正午を大分過ぎた頃。

日増しに日中の熱さきがキツくなってきたが、温度が和らぎ始める頃である。

『ピンポーン!』

金山邸の正面玄関ではハンドバックを持つスーツ姿の女性が一人、インターホンを鳴らした。

『…………、はい……』

インターホンからは女性の声が流れてくる。

「ご無沙汰しております。水上です。風間さんからお聞きになっているかと思いますが、今晩の決算報告会を取り仕切る任は私が預かっております。会場の下見をさせて頂きます。」

インターホンに向かって用件を述べる女性・水上(みなかみ)(あい)は眼鏡と、おでこを光らせる。

髪を横に流して玉のように綺麗な肌のおでこが目立っている。

歳は30頃の、やり手の女性然としていた。

『……はい……今開けます』

インターホンのスピーカーから流れてくる女性の声は元気が無い。


『ガチャ』「お久しぶりです。」「んっ?」

金山邸の玄関扉からは頭に包帯姿の凪乃が出る。

水上は凪乃のそんな姿を見て眉間に皺を寄せている。

「……こんにちは……」

凪乃が挨拶を行うと、

門まで歩き、

「今開けます。」『ガッ……』

凪乃は淡々と言葉を紡ぐと門を手で引っ張り始めた。

「……こんにちは。……ですが、ちょっと待ってください?……ここは電動で開閉が行える門ですよね?なぜ手動で開けるのか教えて貰えませんか?凪乃さん?」

水上は凪乃を”凪乃さん”と呼んで、なぜ手で門を開けるのか聞いた。

「……は、はい、数日前に襲撃事件がありまして……その時に門を壊されてしまいました。……それから動かせなくなっています……」

「なっ!何故それを放っておいたのですかっ!……はぁ……貴女は”警護の”風間性を名乗らせて貰っているのでしょう?それに”壊された”と言いますが、壊れている様に見えませんね?これはどういう事なのですか?」

凪乃は叱られた子犬の様にぼそぼそと理由を述べ、それを聞いた水上は激昂する。

凪乃は包帯姿も相まって、かなり憔悴している様に思えた。

「は、はい……秋穂お嬢様の法力で直して頂きました。報告は四期奥様が”報告しないでいい”とおっしゃって頂いて……」

「ちっ……噂の魔法・法力でこんな事も出来るのですか…………」

水上は舌打ち交じりに憤慨している。法力で出来る事を知らない様子だ。

市外の人間は法力に関して無知である事が多い。


水上は言葉を返す。

「……報告しなかったのは四期奥様の温情で不問とします。……ですが差し迫った問題として会長をお迎えするのにこれでは宜しくありません。他にはどこか壊れているのですか?」

「はい……警報装置が壁ごと……崩落して壊れています……隙間風などは四期奥様の法力で塞いでくれていますし、これに関しては外から見ても分かりません。」

「ちっ……これだから法力の都市は……ならば警報システムの復旧はどうなっているのですか?壁は直せても機械は法力でどうこう出来る物ではありませんよね?……」

水上は尚も食って掛かる様にして凪乃を責めている。

凪乃は『っ……それは……』と返答できずにいる様だ。

「……ちっ!もう良いです!……こちらから本社に修理を頼みます!……確か、近くの所で……」

水上はハンドバックから携帯電話を取り出し、通話を始めた。

『……急なお電話申し訳ありません。金山邸の……はい、そうです。お願いします。……では急ぎでお願いします。はい、では後ほど。』


通話を終わらせて凪乃に顔を戻すと言葉を続ける。

「……すぐにこちらに向かってくれるそうです。貴女が説明して修理を依頼してください。……早く開けてくれませんか?”凪乃さん”?」

水上は凪乃に『早く門を開けろ!』と止まっていた凪乃を急かした。

「っ!はいっ。」

凪乃は体重をかけて門を引っ張る。


しかし、まだ本調子ではないためか、『ガッガッ……』と金属音がなるだけで動く気配が無い。

「あぁ!もう!っ……」

水上は居てもたっても居られずに自分も手をかけて門を動かそうと体重を乗せて押す。

『ギギッ……』「お、重いっ……」

想像以上の重さに弱音を挙げる。

だが、女性二人がかりでもそれほど簡単には動かない様だ。

「くっ……かっ、はぁはぁ……」

二人はあまりの重さにどちらから言うでもなく力を抜くと息をあげて休んでいる。

「……こんなに重いはずでは……」

凪乃は知らない内に重くなっている門に疑問を覚えるが、少しだけでも動いているところを見るに、自分の体力が弱っているだけかもしれない。


そう思って凪乃はもう一度門に手を置いた。

『ガチャ』「まってくれ。私が一度動かそうとしたから硬くなったのかもしれない。私が開けよう。」

金山邸の玄関から助っ人が現れる。

この金山邸の令嬢・金山秋穂だ。

確かに彼女は法力警察の斉木を家に招き入れるのに一度電動で動かそうとしている。

また、彼がここから出て行った事も考えると、これだけ門が硬くなったのは斉木が原因かもしれないが、彼女たちには知る由も無い事だ。

「いえ、秋穂お嬢様、お嬢様にこんな事をしてもらっては……」

凪乃は秋穂が家で力仕事をする事に難色を示す。

「いや、かまわないよ。私が原因なのかもしれないし、私が一度開けているから、ちょっとやってみよう。風間さん、場所を変わってくれ。」

秋穂は凪乃を”風間さん”と呼んで凪乃の意見を却下し、凪乃の仕事を奪い取ろうとしている。

そう思った水上は門の外から声をかけた。

「秋穂お嬢様、お久しぶりです。こんにちは。折角お手伝い頂けてうれしいのですが、先程本社に連絡したのでこちらに作業員が向かっています。私達二人がかりでも無理でしたし、しょうがないのでここは彼らに任せましょう。私は駐車場から入りますのでお気になさらず。……”どこぞの”凪乃さんですから、こう言った事ぐらいは想定内です。仕方がありません。」

水上は凪乃を”どこぞの”と揶揄してバカにしている。捨て子だった凪乃をバカにしているのだ。


「水上さんは変わらずにお元気ですね。こんにちは……でも、大丈夫です。これぐらいうちでは日常茶飯事です。」

秋穂は門に手を掛けると全体重をかける様にして門を引っ張る。

『ガガガァ……ガッガッ……』

秋穂は重心移動をうまく行い、門とは逆の手を地面に置くように動いて門を開けようとしていた。

力は入れていないので息も上がっていない。


『ガーガッガッ』

「まぁ、こんなもんです。」「お嬢様、ハンカチです。」

門を一人で開け切った秋穂は水上に笑ってそんな事を言った。

凪乃はまた”別の”綺麗なハンカチを取り出して秋穂に渡している。

この二人は互いに互いを思っている良きパートナーなのだろう。

凪乃は心が癒されていくような錯覚を覚えた。

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