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力の使い方  作者: やす
三年の夏
152/474

#151~力はぴくぴくさせられる~

「 ブルルルゥゥゥゥ……ザッ」

「着きました。ここが”料亭”?……らしいですが……」

土の様な砂のような地面の駐車場前にワゴン車が停まる。金山邸から車で20分程度の所だ。

「……照明と……暖簾は……看板もありませんね……」

その駐車場の横にある建物を見ながら、運転席に座る平岩が言葉を続ける。助手席に座る女性が言葉を返す、

「料亭……じゅるり……」

その女性・飯吹は本当に言葉を返しただけだ。おまけで言えば垂らしたよだれを吸っている。


駐車場の隣にある区画の建物は、古き良き純和風な意匠をこらした建物で、街灯の様な照明はあるのだが、暖簾も看板も無い建物となっている。

なぜ土のような砂のような地面の土地が駐車場と思うのかと言うと、それには理由がある。

まず第一に、綺麗に砂のような小石がまかれている地面だが、草や大きな石が中央付近には見当たらない。

車が10台ぐらいは停められそうな広さがあるならば、その管理は意外と手間暇がかかる物である。

雑草の掃除は言うに及ばずで、大きな石は土地の端で本当に小さな小山を造っている。誰かが集めているのだろう。人の出入りや強い風が吹くと散乱してしまう粒の大きさだ。

第二に言えば、軽トラや乗用車等。計4台が建物の近く・土地の端に寄せられて停められている。

仕入れのための車と従業員の車であろう……と見る事が出来る。

第三で言うが、これが一番それらしい。

軽トラの荷台と建物の近くには、フォークリフトで運ぶためのパレットが置かれ、組み立て式のボックスケースが綺麗に畳まれてうず高く積んである事だ。

よく水産加工場や、水揚げ漁港などで見る事が出来る物である。

これがあるのはスーパー・お食事処・それらに関した物流・水産物に関する場所、あたりが候補に挙がってくる。

ここまでの道にはそれらしい建物は見当たらない、これらで運んだ物を置いているのはその建物ぐらいしか見える所にはない。


「一旦ここに停めて、この料亭?……に行ってみます。もしかしたら”隠れ料亭”の様なお店なのかもしれませんね。”一見さんお断り・近くの者、知っている者しか利用出来ない”みたいな……」

平岩は料理人の様な景の”お友達”と言う事からそんな事を予想する。

『ブゥゥン…………………………ゥゥン、ガチャ……ガバン!』

車を動かして駐車場の適当な所に車を停めると、エンジンを切ってシートベルトを外し、外を見てから運転席のドアを開け、その身を外に踊り出させる平岩だ。

「ふぅん?」『……カチ……ガバッ……』

飯吹もそれに続いて外に出ると、地面に足を付ける。


『ザッ……』「どこに……」

平岩は純和風な建物に向かい、呼び鈴かそれらしい物が無いかをキョロキョロと見回して探す。

だが、建物にあるのは無骨な人一人分が通れる程の小さなドアだけだ。

「ない……のか?……」

平岩はどうしようかしばし迷う、だがしかし、それはすぐに解決される事になった。

『コンコン!』「入ってますかー?」

飯吹がドアをノックすると大声で中に呼びかけ始めている。

ノックと声はトイレに対する作法のそれと同じだ。


『……』

しかし返事は無い。ただの無人の様に声はむなしく響く様だ。

「ちょ、ちょっと待ってください、どこかに呼び鈴かインターホンがあるかも……それに、建物の裏がどうなっているのか見ていませんし……」

平岩は飯吹にそんな事を言ってやめさせようとするが、飯吹はもう一度それを繰り返す。

『ゴンゴン!』「中に誰かいませんかー!困ってまーす!」

もうそれはただトイレを借りに来た人の様だ。いや、勿論そんな事は一言も発していないのでそう思うのは早計だが……


『ガチャン……』「うるせーな!どこのどいつだ!便所でも使いてぇのか?……」

薄いドアが開き、中から1人の女性が顔を出す。割烹着姿でその女性は飯吹と平岩の二人を見ると何かを思ったのか言葉を止める。

「……あー……市長の……人だったっけ?……いやー……市長と出てくるヤツだな。ふぅん?……生で見たら、結構いい男じゃん。」

3、40代ぐらいのいい歳をした女性が現れた。平岩の姿を見ると、品定めする様にして平岩に視線をロックしている。

「……はい、金山市長の秘書をしている平岩です」「まぁそれは良いけど……客だろ?客なら表に行ってくれ。ここは店の裏口だから。」

一通り見ると、言葉を割り込ませるようにして続けるのはドアから現れた女性だ。平岩の言葉が終わるのを待っていない。

平岩を見定めるが、特に何もないのだろうと建物の反対側・裏側に向かって指を指している。

「……すみません。裏にお店がありましたか」「そうなんだよ!……まぁ看板も何もねぇから、こうやって間違える人は始めてって訳じゃねぇけどな。たまにある事だから気にすんな。」

いい歳をした女性は平岩の言葉が終わる前に自分の言葉を被せる様にして喋っていて、容姿は釣り目の顔、髪は調理に邪魔なのかアップで留めている。


平岩は用件を述べる為に口を開く。

「……今日こちらに伺ったのは風間さんの紹介です。今日はお力を貸して頂きたく参りました」「あぁ?!風間だぁ?……あぁ、金山家だもんな……あのオッサンの……ならこっちで正解だ。……来な。」

その女性はそのまま中に手引きして奥に消えて行く。


「むぅ……」

平岩はその親子の勝手気ままな態度に困惑しているが、その女性は中に行ってしまう。

「……お邪魔します。」

突っ立っていても仕方がない。と、平岩は中に足を踏み入れた。

「お邪魔しまーす……」

飯吹もそれにならってドアをくぐる。

だが、先程の言葉通りに裏口らしく、大人二人で既にキャパシティは限界であり、少し薄暗い空間になっている。

箱や段ボール等の物が雑多に置かれ、靴やサンダルが置かれている所を見るに、外靴の終わりの空間は自由に見動きが出来ない。

『んっしょ……』「靴はここしか置けませんか……」

飯吹は事も無げに物を避けて女性を追い、平岩は目を凝らしながら、慎重に物を避けて動く。

勿論靴はここまでなので、靴はここで脱いでいく二人である。


見ると裏口の横は厨房となっていて、銀トレー・食用油・ペーパータオル・厚底鍋等の調理器具が台に置かれていた。料理を作っている最中の印象である。

「おー……揚げ物か……じゅるり……この匂いは……」

飯吹が言う様に揚げ物を揚げた直後に思える。

『……後でね……』

飯吹が料理に声をかける様にして奥に行った女性の方へ向かった。


遅れて来た平岩がそちらを見ると、奥には外・建物の反対側が中から見えていて、その手前にレジが置かれている。そこ横には靴置き場があり、スリッパも置かれていた。

どうやら総菜等を調理して販売しているお店で、レジの左側には空間が広がり、お座敷やテーブルが置かれている、

靴を脱いで上がる、お食事処のお店も兼ねている様子だった。


店員の様な女性はそこにある奥のテーブル近くに立って平岩達を待っている。

客は居ないが、出入り口や商売道具の惣菜を見るに、営業はしているらしい。

飯吹と平岩の二人は靴下姿でそちらに向かった。

「まぁ座んな。何か食ってくか?好きなモン持ってきて食ってもいいぞ。勿論お代はもらうがな。」

店員らしき女性はそれとなく営業していた。ちゃっかりしている。

「いえ、もう食べてきていますので、申し訳ありませんが話しに入らせて頂きます。」

平岩は女性の言葉を流して本題に入ろうする。女性はおっとり刀で返す。

「そうか?まぁ、冗談だけどな。……いいぜ。まずは自己紹介からだ。私はこの”総菜お食事処”って店を一人で切り盛りしてる国近(くにちか)美奈子(みなこ)。55歳の”こぶ付き”独身だ。」

「えぇえ!」「あ?なんだよ?……」

飯吹はその女性の苗字を聞いて驚く。

国近と言えば前に市外で検挙した高校時代の後輩の家である。恐らくその”こぶ”と言うのも後輩だ。

美奈子は突然の驚きに顔をしかめるが、その声を捨て置いて言葉を続ける。

「……で?お宅らは?景の差し金で金山市長の何かを頼みに来たんだろ?……女は別にいいけど、そっちのお兄さんは教えてくれよ。歳とか連絡先とかをさ。」


『……』

平岩は一瞬躊躇うも、臆面にも出さずに仕方なく自己紹介を始める。

「平岩雄二です。金山市長の秘書をさせて貰っています。今年の春で38歳になりました。連絡先はこれです。」

平岩は名刺を胸ポケットから出してテーブルに置いた。美奈子はその名刺を受け取って眺めると声を出す。

「ふぅん38か……結婚は?」

「?……独身ですが……何を……」

平岩はこの会話に意味があるのか疑問を持つが、先方に頼みごとをする場では相手の機嫌を損なうのは危険だ。慎重に答えを返している。

「ふぅん……やっぱそこの女も聞いとくよ。名前・歳・職業・その平岩さんとはどんな仲なのかも言ってくれ。」『なっ!……』

美奈子は飯吹に言葉を振った。

平岩としては最後が聞き捨てならないが、飯吹がしっかりと答えるハズなので言葉を荒げる事はしない。

「はい!飯吹金子です!歳は33歳になりました。職業は警察署勤務の警察事務です!平岩さんとはまだ”お友達”です!趣味は食べる事です!特技はお腹の筋肉をぴくぴく震わせられる事です!」

「あぁ?……」

美奈子は飯吹の自己紹介に眉根を寄せ、眉毛を震わせて考えている。

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