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力の使い方  作者: やす
三年の夏
151/474

#150~力の相槌~

『タッタッタッ……』

平岩は駆け足で廊下を進み、玄関に足を踏み入れるが、そのまま玄関をスルーする形でまっすぐ進む。

小部屋が並ぶ廊下の玄関近くにはインターホンの受け口があり、玄関扉から見てその反対側・右手にも廊下が伸びている。

その先には景が作業しているキッチンを隔てる引き戸があった。

平岩は『ガラガラ……』と引き戸を開ける。


「……ん?平岩さん?どうしました?何かありましたかね?」

景は青いクーラーボックスから魚や肉を取り出し、魚をさばいている最中だった。

手には小刀の様な包丁が煌めいている。

「お邪魔してすみません。先程の”料亭”にこれから向かいます。……、すみません、携帯はリビングに置いてきてしまいましたので、後で回収しておいてください。ここに来たのは靴がここの下にあるので……私の提案を受け入れて貰ってありがとうございます。」

平岩は景の仕込みを邪魔した事と携帯電話を置いてきてしまった事を謝り、景が提案を受け入れて”お友達”の所在と連絡先を教えてくれた事にお礼を述べる。

「おぅ!良いって事よ!四期お嬢には感謝してもし切れねぇからな。俺が今料理していられるのも四期お嬢様々だ。……少しは恩返ししねぇとな!……まぁ、俺が何かするって訳でもねぇが……アイツ等にはちょうど良いし……あぉ!こんなんじゃ恩返しになりゃしねぇか……したってぇ事は車で行くのかい?……道中気を付けてくれさえすればー俺からはなんもねぇよ。……春香小嬢の事は一旦お前に預けておくからな!頼むぞ!」

「はい。お任せください。……では失礼します。」

「美味しいご飯をありがとうございましたっ!ごちそうさまですっ!」

平岩がキッチンの横にある階段へ向かい、その後ろでは飯吹が景に敬礼してお昼のお礼を述べていた。

「おぅ!……晩飯はもっと良いモン食わしてやるからな!死んでもうめぇから覚悟しとけよ!」

景はその言葉に軽い笑みで応えるといささか言葉のチョイスを間違いながらも二人を見送る。



『ガタ……』

平岩が階段に続くドアを開け、飯吹にドアの取っ手を渡す。

飯吹がドアをくぐると平岩が階段を降り始めた。

「……平岩さんって市長さんの秘書なんですよね?いつから秘書をやってるんですか?」

飯吹は彼女の前で階段を降りている平岩に喋りかける。

「はい?”金山市長”の秘書ですか?…………そうですね……大学を出てからですから……五年ぐらい前からです。……」

平岩は飯吹が話しかけてきた事に少し驚きつつも、別に秘密にしている事ではないので飯吹の疑問に淀み無く答えた。言葉が続く。

「……金山市長と同じで……もともと仕事仲間で……まぁ、同僚だったんですよ。」

「え?……市長だったんですか?平岩さん?……あれ……でも……そんな市長いたっけ?」

飯吹は平岩市長を知らない。彼女は昔から清虹市にいるのだが……

「いえいえ!……金山市長が今の私と同じで、清虹市の市長秘書やっていたんです。……」

二人は階段を降り、靴置き場にある自分の靴をそれぞれ履いている。平岩は続けて疑問を口に出す。

「……あれ?飯吹さんは市外から就職してきた人……ではないですよね?……」

「ええ。……生まれと、、まぁ、育ちは清虹市ですっ!」

靴を『トン、トン、』と履いている飯吹は意味が解らない自信満々な答えを返す。

「……そうですか……」『バゴン!……』

平岩は飯吹の発言に眉根を寄せると、応えながら駐車場を隔てている鉄の扉を開けて、駐車場に足を踏み入れた。


扉を開けた所で地下駐車場の電灯が点灯し、平岩達が出てきたところの目の前には車が二台並んでいるのが視界に入る。

出入り口から見ると駐車場の奥と言える場所だ。出入口から一番遠い。

「う゛っ、うん……前の清虹市長の秘書を金山市長が昔していたのです。」

平岩が咳払いの後、言葉の真意を説明した。

「えっ?金山市長の前って言うと……えーと、えーーと……の……あー……字の元さんじゃなくて……ん?」

飯吹は考える様に思い出そうとしていが、しかし、平岩は飯吹が思い出すのを待ちはしない。

『ピッ』『チッカ、チッカ、チッカ……』

渡された車のキーについているボタンを押すと目の前に駐車している車のハザードが点滅する。ドアのロックを開けたのだ。


『ガパッ!』

平岩はドアを開け、秋穂の車であるワゴン車の運転席に乗り込む。

『ガパン……』『カチャ』

助手席には飯吹が乗り込んだ。考え込む飯吹は平岩に言ってみる。

「……前の市長は……確かカワナさんでしたっけ?」

「いえ……七川(ななかわ)です。七川(かける)さんです……」

「あぁ!清虹の虹を掛ける市長ですね!そういえばそんな市長でした!……確か……二十年ぐらい前に傷害事件を起こしたとか何とか言って、市長を辞めたんでしたっけ?」

「いえ……事件を起こしたのは……息子の七川(さとる)です。私の学生時代の……友達と言うか……まぁ、クラスメイトでした……」


「ふぅん……そういえばそうでした……」

飯吹は平岩の雰囲気を察して言葉を止める。

前の市長を辞めさせた者の同級生が、新しい市長の補佐をやっているのは……偶然だろうが、何ともきな臭い話のような気もする。

……しかし、それを飯吹は指摘するのを(はばか)った。

平岩はあまり話したくない事なのだろう。

飯吹としてもそんなに聞きたい事ではない。


『ピッ……』『…………ブルルゥン!ルルルゥ……』

平岩はハンドル付け根の右側にあるイグニッションボタンを押してエンジンをイグニッションさせる。


この車はイグニッションボタンを押した時にキーの出す信号を受信してエンジンが始動するタイプの車である。

「ではシートベルトを締めてください。……えーと……たしか……これを……」

「はいはーい。」『ギュゥ……カチャ……』

平岩は飯吹がシートベルトを締め、平岩はエアコン各種の操作ボタン等があるうちの、一つのボタンを押す。

『ピーッ、ピーッ、ピーッ』『ガッーーーー……』

小さな信号音が鳴ると、駐車場の出入り口シャッターが開き始める。


「平岩さんって金山市長みたいに、いつかは市長になりたいんですか?……やっぱり市長のお付きの人は市長になりやすかったりします?こんな私でも市長になるにはどうしたら良いと思います?」

飯吹は平岩にそんな事を聞く。

対する平岩はタイムラグを挟まずに答える様だ。

「そうですね、やっぱり人脈が大事なので、それを引き継ぐ事が出来るなら、前の市長の側近は次の市長になりやすいと思います。……でも、今の金山市長は金山家の威光に助けられている部分があるので……四期奥さんの相手……が無理なら……順当に言って、娘さんの秋穂さんと結婚する男性が次の市長になりやすいでしょう。……まぁ今の所は金山市長の地位は盤石なので、金山市長の元で顔を売るのが一番の近道です。……ただ、どうなるかはやってみないと解りませんが……」

平岩は笑いをこらえる様にしてそんな事を言った。

「はぁ……やっぱりそういうのは人とのつながりですか……私は、”今より市を良くしまぁす”と言った人が慣れると思ってました。」

飯吹は何も考えていない様に想像を言う。平岩は『ふふっ……』と小さく笑うと飯吹に応える。

「確かにそうですね。今度、金山市長にそれを言ってみます。あの人はちゃんとそう言う声も聞いてくれますから。……では、発進させます。」『ブゥゥゥン……』

平岩が優しく発進させた車はタイヤのスリップ音を鳴らさず、静かにタイヤを回す。

「まぁ、金山市長はそうそうに市長職を辞める事はありません……」『ガッ……』

車が出入り口の斜面を上がる所で平岩は、金山市長が盤石な理由を語る。

「……私が防ぎます。」

「ふぅん……」

飯吹は平岩の声を聴き、相槌を打つ事しかできなかった。

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