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力の使い方  作者: やす
三年の夏
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#149~力の行動と行先~

「…………っ゛…………秋穂お嬢様……ありがとう……ございます……もう……凪乃は大丈夫です……」

凪乃は秋穂からハンカチを受け取り、それで目元を隠しながら自分の鼻から落ちたティッシュを拾っている。

「……さぁ”風間”さん?一緒にお昼を食べよう。私もまだ食べている途中なんだ。」

秋穂は食卓テーブルを手で見せながら、そこへ手を引いて凪乃を(いざな)う。

「……あ、秋穂お嬢様……っ!……大丈夫です。むしろ私が椅子を……」

まるでお姫様を連れ出す様にして手を引く秋穂は、そのままの流れで椅子を引くと、椅子へ座る様に凪乃を待っている。

流石にそこまではされまいと凪乃は自分が秋穂の椅子を引かなくては……と口では言うが、顔を赤くしている凪乃はされるがままだ。

「っ、ヂャーハンですが……『ズズッ……』……景お義父さんはまた懲りずに……」

『ガタッ……』

秋穂は凪乃の向かいの椅子を引いて座る。

「っ!」『スッ……』『ゴトッ……』

凪乃はこのままでは秋穂に蓮華を取られ”アーン”とされてしまう事を恐れ、使われていない蓮華を素早く掴み、深い大きな皿をお盆から取ってきて食べ始める。

声はまだ涙を引きずっていて鼻をすすっていたりと、少し鼻声っぽい。


『カッ』『あむっ』『カッ』『あむぅぅん……』「ほら……」

凪乃はらしくもなく喉を詰まらせて、少しだけ苦しむと、対面の秋穂に手を差し伸べられてしまう。

秋穂がとんじるの入ったお椀を取ってくれている。

「……そんなに急いで食べては喉を詰まらせてしまうよ?……大丈夫だから。今は無理をせずに食べてくれ。」

秋穂はお椀を渡しながら凪乃に言う。

「っ……はぃ……んっ……」

凪乃は顔を赤くして、素直に秋穂の言った通りにするらしい。

「……んっ……んっ……ん゛ぐっ!……ありがとうございます……申し訳ありませんでした……」

お椀を受け取り、汁を口に流し込むと秋穂の言葉を全面的に受け入れて反省している。

凪乃は鼻を吸うと、秋穂にお礼を述べた。

こんなところで死んでいては立つ瀬が無い。



「よし!そろそろ行動開始だ。平岩、風間さんの友達が居る場所は大丈夫か?」

賢人がそんな娘二人を横目で盗み見納めると平岩に言葉を振る。

「はい、わかりました。ここからだと少し遠いですね……場所は風台(ふうてな)地域です。」

平岩は景の携帯電話から情報を読み、その”料亭”データを自分の携帯電話にコピーしている。


場所は清虹市の西に位置する地域で、日本の首都圏に続いている土地だ。

そこは清虹市で最初に栄えた場所である。

その名残もあって雑居ビルや高層マンションなど、背の高い建物が密集している場所であった。

「そうか……なら私の車で行こう。」

賢人は平岩を誘う様にしてポケットからキーを取り出し、リビングから出て行こうとしている。電話ではなく、直接出向いてお願いする様だ。

「いえ、私一人で行きます。そろそろ一般の警察がここに来るでしょうし、金山市長はここで待っていてください。誰が外に居るか分かりませんので、出来る事なら外に出ない様にお願いします。」

……平岩は賢人の提案をすげなく却下する。

「あ……、そう……だな……」

賢人は平岩の声に素直に従い、キーを引っ込めた。


「でしたら私の車を使って下さい。」

秋穂は凪乃の顔から目をそらし、平岩に自分の車を使う様に提案する。

「いえ……あー……バスか電車で行こうと思っていましたが……確か秋穂さんの車はワゴン車でしたか?……でしたらお言葉に甘えて使わせて頂きます。」

「ええ。良いですよね?……お母様?」

秋穂は黙って見ている四期奥様に言葉を振る。

「ええ、勿論、平岩さん……私たちの事まで面倒を見てもらって本当にありがとうございます。主人には平岩さんを良くするように言い聞かせますので。……」

平岩は賢人と旧知の間柄ではあるが、今はあくまでも清虹市長の秘書である。これでは金山賢人の個人的な事のみならず、金山家の家人より働いてもらっている。と言っても、四期奥様は使用人を侍らせるのが嫌なので、そもそもこの金山邸を運用するのに人員が足りない程の少人数でしか人を雇っていないのだからあたり前だ。

「……遅くなってしまいましたが、ありがとうございます。問題なければ……これからも主人ともどもよろしくお願いします。」

四期奥様は、もはや公私と言わず、市政に関係ない家族にまで目と気と労力を割いてくれている平岩に感謝の言葉を述べた。平岩は言葉を返す。

「いえ……こう言ってはなんですが、ゆくゆくは賢人さんが市長職に取り組んでもらう為です。打算的な事しか考えていない私は結構な薄情者かもしれません。ですのでお気になさらず。これも仕事です。」

平岩はもはや口癖になりつつある言葉で四期奥様の言葉を否定するようにして感謝の言葉を受け取る。


「では鍵を取ってきしょう。丁度インターホンの所にキーを置いています。」

秋穂は食卓テーブルの席から立ち上がり、小部屋の廊下に繋がるドアへ向かう。平岩もそれに続いた。

『ガチャ……』「……あ!じゃあ私も……」

さらにリビングに居た”もう一人”もヒョコヒョコと歩いて後に続く。


「あら……あの人……どうなのかしら……悪い人では無いのだろうけど……雲をつかむというか、風を掴む様な人と言うか……」

それを見ていた四期奥様はその”もう一人”である”飯吹”に対して率直な評価を言葉にする。

「……まぁ……風間さんの”お友達”相手に彼女は良いんじゃないか?」

賢人はこれから行く場所について飯吹の存在は”プラスになる”と踏んでいた。彼女はいろいろと”良い武器を”持っている。


「……そういえば、彼女”も”ゴルドラハウス出身ですって……貴方は知ってる人?」

「えぇ!知らなかったな……彼女は何処の()だったのだろう?……あんなにインパクトのある娘が居たら記憶に残ってるハズなんだが……」

「……まぁでも……歳も一回り違うし、もう数十年前の話ですからね……そんなに横のつながりは無いところだったから、地域が違えば解らないだろう……あれ?……でもそういえば……飯吹さん……と言うと、どこかで……」

そんなふうに四期奥様と賢人は”天涯孤独な”飯吹について話し込んでいた。



「……これです。奥の所にある車です。……燃料も満タンで入っていたハズですし……燃料の事は気にせず、そのまま帰ってきて下さい。」

秋穂はインターホンの壁近くに下げられているキーを一つ取り、それを平岩に渡す。

「分かりました。では早速、あっ……」

車のキーを受け取った平岩は秋穂の言葉にうなずくと、近くの階段を下りるためにその一歩を踏み出した。

しかし何かに平岩は気づくとそこへ誰かが現れる。

「私もご一緒します!」「……い、飯吹さん!、、……」

平岩は飯吹の申し出に驚き、どう対処したらいいのか悩む。

なにせ、いきなり求婚してきたのでそれを断るも、ひとまず連絡先を渡したが……飯吹は連絡手段が無いと言うので、うやむやになった為に放置していた。……だが、さらにまた『”お友達”から始めよう』と言ってきた女性だ。どことなくは話が噛み合わない。

彼女がやっている事は理解出来ないし、これも下心が透けて見えてしまっているのだから対処に困るのも無理はない。


『ピンポーン!』

「また……今日は本当に人が来る……」

そこでインターホンが鳴る。秋穂が言う様に今日はインターホンがものすごく仕事をしてくれている。

しかし、ボタン一つで開閉する門がこの前の襲撃から壊れている為、正面玄関からの来客が少し面倒な物になってしまっていた。

これもどうにかしなければいけないが、今はそれどころではない。

「どうぞ、構わずに行ってください。駐車場の出入り口は下で開閉できますが、平岩さんはわかっていますよね?お願いします。」

秋穂は平岩に駐車場出入り口の開閉と自分の車を託し、秋穂自身はインターホンを鳴らした客の対応をしようとしていた。

「……はい、実はキッチンの下に靴がありまして……では、ここで失礼します。」

平岩は景の居るキッチンまで行き、そこから駐車場に下りる事にする。


玄関が何個もあるのは客にとって面倒な構造なのかもしれない。

この家の者ならば靴を玄関毎に何個も用意すればいいが、客は靴が一つしかないので入った所から出て行かなくてはならない。

「ふぅん……」

飯吹はヒョコヒョコと平岩を追っていく。

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