#148~力の落し所~
話が進まず、申し訳ありあません……
「「「「「はぁ?」」」」」
飯吹の言葉を理解出来ない面々は驚きの声を上げる。
「…………ちょっと?……どういう事ですか、それは?」
四期奥様は聞き捨てならないと、言葉にとげを含ませた声色で飯吹に説明を求めた。
「あ……えーと……」
飯吹は四期奥様にどう答えようかと言葉を探し始める。
飯吹が平岩に告白した事は他の人に聞かれていない。
まさか飯吹がこの短時間で誰かに告白したとは思わないだろう。
……何せ、自分でも勢いで告白してしまったと思っているのだから。
四期奥様の発した疑問に答えるしかない沈黙が場を支配する。
しかし、その沈黙は少しの間を置いて破られることになる。
「……それについては私から説明します、」
平岩が先程と同じ様な言葉で割り込んで代わりに答えようとした。平岩は言葉を続ける
「飯吹さんは少しの間だけ黙っていてください。私から提案しようと思っていたことですので。」
まずは飯吹に口止めをしてから話す事にした様だ。平岩は四期奥様だけでなく、皆に向けて話し始める。
「春香さんの捜索ですが、実際に足を動かしてもらう人員は風間さんの”お友達”と、風間さんの”会社の同僚”、どちらもお願いした方が良いと思います。それについて飯吹さんと話していました。」
平岩は口からの出まかせをスラスラと並べる。
『……』
飯吹はと言うと、平岩に言われた様に黙っている事にしたようだ。
かなり無理のある答えだが、平岩はそうとは思えないようなシラフで言葉を続ける。
「私は、『風間さんの”お友達”に声をかけてから、風間さんが籍を置く会社の同僚と一般警察にこれからの対応をお願いした方が良い』と言ったのですが、飯吹さんは『風間さんの”お友達”や”同僚”は素人だから、それよりも警察に全てを任せた方が良い!』という意見でした。認識の違いから私と熱い論議を交わしていたのです。先程の言葉はまだ会ってもいない風間さんの”お友達”や”同僚”に対して『そんな物言いは失礼だった』と言っていたのでしょう。彼女は少し言葉が足りなかったのです。」
平岩は言葉に詰まることなく平然と嘘を言ってのける。そんな話はしていない。飯吹は平岩へ求婚しただけだ。
「あぁ……あいつらを…………まぁ……それも良いな……」『『『……』』』
景は平岩の提案に関心を寄せる。賢人は黙って平岩の顔を見て、秋穂は何も言わずに事の成り行きを見守っており、飯吹は何も考えていなかった。
「……でも……さっきのって……」
しかし四期奥様だけは難色を示す。だがそれは、平岩の言葉を疑っての難色だ。
金山家血筋の人間に嘘は通じないのかもしれない。
「……風間さん。その”お友達”の連絡先を教えて貰えませんか?これから風間さんは晩御飯の仕込みの為にキッチンで準備を始めるのでしょう?……ならば、私からお願いするのが筋です。」
黙っていた賢人が景に向けて”これから忙しくなるのだろう?”と、景の”お友達”の連絡先を聞き出そうとしている。
「いえ、言い出した私が適任です。私がその役をやらせて頂きます。」
平岩が賢人の言葉を否定して自分が連絡を取ると立候補している。
「……ちっ……」
景は少しの時間で観念すると、
「仕方がねぇか……ほらよ」
平岩に向けて携帯電話を放り投げて渡した。
「あ……携帯電話ごとですか……」
平岩は景が放り投げた携帯電話を危なげなくキャッチするが、プライベートの塊である携帯電話を軽く投げて寄こした事に辟易している。
「その中に入っている”料亭”って名前のところに電話を掛けな。誰が出るかはわからねぇが、俺の携帯から電話して、俺の名前を出せば……手が空いてる奴をよこしてくれる。まぁ、お前さんがそこに入っている住所に出向いてもいいがな。そっちの方が多く人数をよこしてくれると思うんだが……」
景は平岩に連絡を任せる様だ。
景の”お友達”の面々は賢人とそりが合わないだろうし、何かと面倒な”お友達”なので図体がデカく、腕っぷしが強いだろう平岩に任せたのである。
「まぁ、そういう事だから、俺はキッチンに仕込みへ行かせてもらうよ。」
景はカラになった皿やお椀を回収してキッチンに戻ろうと、自分が持って来たお盆にもう下げて良い皿やお椀を乗せる為、食卓テーブルに置かれた皿を見回した。
まだ皆は食事中だが、空になった皿を少しだけでも持っていこうと思っての行動だ。
だが、飯吹しかまだ昼飯を食べきっていない。
皆はバランスよく料理を食べている様で、皿にはまだまだ料理が残っている。
……いや、飯吹だけが早く、”いつの間に……”と驚く様な早業で”かっ込んでいた”様だ。
「……まぁ、皿は後でまた取りに来るんで、そのままここに置いといて下さい。……むぅ……凪乃の分が残っちまったな……あいつのは仕方ねぇから……」
景は飯吹の食べた後である皿・お椀・小皿を自分のお盆に置き、飯吹の持って来たお盆には、手の付けていない1人分の昼飯が残っている事について口を出す。
景の食べる分かと思う様に1人分残っているが、景は食卓テーブルで家人とはごはんを取らない事に決めている。
つまりは凪乃の分として持ってきていた分だった。、
『ガチャ……』
丁度その時、リビングの食卓テーブルから間取り的に一番離れたドアが突然開く。
「!」
小部屋が並ぶ廊下に繋がるドアの後ろには、頭に包帯を巻いた女性、風間凪乃が居た。
鼻には秋穂が差し込んだ鼻つっぺが刺さったままである。
凪乃はリビングに人が多く居るのを見て驚いていたのち、生気のない顔で何かに気づくと口を開く。
「だっ、旦那様!お、お帰りに…………も、申し訳ありません!……わ、私が春香お嬢様を……た、助けて……わ、私が……ふ、ふっ、不甲斐ないばかりに……」
凪乃は目醒め、寝ていた部屋から出てきてリビングに訪れて来たのだが、リビングには自分が使える主人の一人・金山賢人、それと義理の父親である風間景が居たりと、いろいろな事に錯乱している様子で、みるみるうちに目のふちに光るモノが貯まってきていた。
「あ……」「また……」
それからの行動を知っている秋穂と四期奥様は顔を曇らせる。
『またか……』と言った表情だった。
彼女が金山邸に帰って来てからずっとこの調子で、凪乃は重責と罪悪感に屈し、話もままならない。
かと言って放っておけば、逃げる様にして、春香を探すため、あてもなく徘徊するだろうと監視せずにはいられない。
扱いに苦慮する者となってしまっている。
子供の癇癪よりも手が付けられない。
怒っても逆効果で、優しくしてもさらに逆効果で、何も言わなくても無理をする、負のスパイラルに陥っていた。
秋穂と四期奥様はハッキリ言ってしまうと”今はそのまま寝ていて欲しい”とすら思っていたのが本音である。
心も体も負傷している凪乃に構っていられるほど、彼女達には余裕が無い。
「……わ、私は……も、もう一度……か、学校に、い、行って、春香お嬢……っ゛!……を探しに……い、行ってきます……見つかるまでは……死んでも゛帰゛っ゛でぎま゛ぜん゛っ゛!」
凪乃はそれだけ言うと、玄関を目指して体を反転させる。すでに涙と嗚咽で言葉になっていない。
「待っ……」
「……なぎぃのぉぉぉぉお!……」『ドンッッ!』『ゴドン!』
秋穂が立ち上がって止めるのと同時に、”凪乃”と叫び、テーブルを強く叩く者が1人。
それは凪乃の父親とっている風間景であった。
持っていた皿とお椀の乗ったお盆を落としてしまっている。
割れてもおかしくなさそうな勢いと高さで落としたが、皿は欠ける事無く床に鎮座していた。
お椀と小皿も落ちていて、とんじるの入っていたお椀は汁物が入っていたが一滴も残っていない見事に綺麗な食べ後だったため、床は汚れていない。
飯吹は一滴さえも余さず残さずしっかりと食べるタチだった。
景は凪乃に言葉をぶつける。
「……お前のやるべき事はなんだっ!?」
「……っ……わ゛、私のやるべき事っ゛……い゛、いやっ、……や゛、やりたい事はっ……くっ……は、春香お嬢様を……しっ、”死んでも”守る事ですっ!」
凪乃は涙をこらえながらも景に叫び返す。
「……はっ!……”やるべき事”じゃーなく、”やりたい事”と言ったの”だけ”は誉めてやろう!どうせ”出来ねぇ”事だからな!……正直なこった。……だがな、お前のやるべき事は違ぇんだよ!何も分かってねぇ!」
景は凪乃が言った事を鼻で笑い、凪乃の言葉を否定する。
「くっ……う゛ぅ……だっでぇ゛……それしかワ゛ダジには……」
凪乃は泣きながらも思う。
景の言う”やるべき事”は”死んでも守り、それを”絶対失敗しない事”だと思った。
だが、凪乃は”守る事”を失敗してしまった。後は文字通り”死んでも助ける事”しか出来ない。
「……良いか?凪乃?よぉーく聞け?聞いて考えろ?……」「そ、そんな事言ったって……」
景は凪乃に”考える”様に言い、答えを凪乃に教える為に息を吸う。四期奥様が言葉を挟むが景に手で止められている。
「……お前は死んじゃいけねぇんだよっ!」
『っ゛?』
景の答えに凪乃は疑問しか頭に浮かばない。
凪乃の両親は、今怒鳴っている風間景と今は金山家の別荘……もとい、貸し別荘兼宿泊ペンション経営を一人残って切り盛りしている風間千恵となっている。
だが、実際は四期奥様が拾って育ててくれたような命である。
必要ないと思っていた大学までも通わせえて貰っていて、自分の衣服や趣向品以上に、部屋や食事・本当の家族のような思い出・果ては家事等の技能や仕事までも用意してもらって……と、捨て子への待遇としては破格のモノだ。
その命を金山家のために使うのは当たり前と思っている凪乃である。
「お前が春香小お嬢を助けるのに死ぬだと?……なら残った四期お嬢は?秋穂小お嬢や”その子たち”は誰が守る?……不甲斐ないお前の考えじゃー、お前は何回も死んでるぞ!お前のその目はその場その時しか見てねぇじゃねぇか!」
「っ!……」
凪乃は景の言葉に考える。
……考えに考えて……
『っ゛!……ぅぅ゛ぅ……』
凪乃は泣く事しか出来なかった。
「はんっ!泣く事しか出来ねぇってか!煩わしい!なら出来る事からやれ!……黙ってられないならさっさと」「風間さん?もうその辺で止めてあげてください。」
景は追い打ちをかける様に言葉を重ねるが、我慢しきれなくなった四期奥様がそれを止める。
「ふふっ……昔はこんな小ぃさかった四期お嬢が今じゃー立派に母親やってるじゃねぇか……」
景は四期奥様の母親っぷりに一瞬だけ微笑み、怒りの声を収めた。
尚も泣き崩れている凪乃へ向けて、今度は幾分か柔らかい言葉をかける景である。
「……おい、凪乃、俺はキッチンに行ってるから、お前は昼を食べたら、ここにある食器を全部持ってこい!俺の作った昼飯を残飯にしたら承知しねぇからな!」「風間さん?もうその辺でお願いします」
四期奥様は尚も声を荒げた景に釘を刺し、景をキッチンに追いやる。
「かざま……いや……凪乃?……私を一人にしないでくれ……」
秋穂は泣き崩れている凪乃に近寄り、ポケットからハンカチを取り出して凪乃にそれを握らせようとする。
「あ、ぁ、ぃ、ぉおね゛ぇざま゛ぁ……」
凪乃は手を近づけてきた秋穂の手を取り、手をまきこむ形で秋穂に抱き着いた。
その衝撃で凪乃の鼻に詰めていたティッシュが落ちる。
既に鼻血は止まっていて、泣き顔を見られなくない凪乃はその見られたくない人の胸で泣いた。
頑張ります……




