#147~刺激の先にあるモノ力?~
#146~力の刺激の先にあるモノ~
のBパート的お話です。
『ガチャ……』
「皆さん。お昼が出来ました。まずはこれをかっ込みましょう。……何をするにもそれからです。」
景がリビングの扉を開けて、”昼飯を取る様に”と言って入ってきた所である。
『……ガチャ!』
景の後ろからは飯吹も続けてリビングに姿を現せる。二人は何個かのお椀や皿を二つのお盆に分けて持って来ていた。
リビングには家主である金山四期奥様と、その夫・ここ清虹市の市長を務める金山賢人、二人の娘である大学生で長女の金山秋穂の金山家三人……、
清虹市長である賢人を公私に渡ってサポートする筋肉系大男のイケメン秘書である平岩雄二が話していた。
リビングには今この金山邸に居る大人総勢六人が集まっている。
斉木達法力警察官達は既に撤収済みだ。
「……どうもありがとうございます……風間さん。……っ……飯吹さんは風間さんの所に居たのですか……っ……」
四期奥様はリビングに現れた景にお昼を用意してくれたお礼を述べ、その後ろに付いてきた飯吹に向けて何か言いたそうにするが、言葉が続かないない様にして言葉を詰まらせている。
言葉を一瞬探すようなしぐさの後、四期奥様は言葉をひねり出す様にして言葉をつづけた。
「……先程はああ言いましたが、どうかよろしくお願いします。お力を貸してください。」
結局のところ、斉木達が居た時は頭に血が上っていた為に飯吹を軽視して怒っていた様だ。
四期奥様は素直に飯吹へ頭を下げて、頼む様に言葉をかける。
それでも四期奥様としては思う所があるためか、決して謝る言葉は並べていない。
『……』
そこで飯吹がちゃんと応えればそこまで話は長引かないのだが……しかし、飯吹は元気無く景の背中を見ているだけに留めている。
それらしい反応をしていない。
それは四期奥様の言葉を無視している為、とても大人としては褒められた態度ではなかった。
「……っ?……あ、ありがとうございます。昼をあまり意識していなかったものですから……さっそく頂きます。今日はまだ何も食べていないので風間さんが用意してくれていて助かりました。」
賢人はいち早く不穏な空気を感じ取り、すかさず言葉を割り込ませて場を取り持った。
賢人の言っている事は嘘ではないのでそれほど無理をして言った訳ではない様子だが、ここに居る全員は言葉を割り込ませた事を分かっている。
だから皆は顔に出さない程度にドキッっとしていた。
もちろん飯吹以外の”全員”と"皆"が、だ。
景が簡単に用意した昼飯は、冷蔵庫に残っていたスクランブルエッグとごはんを使った、チキンベーコンが細かく刻まれたチャーハンとすいとんだ。
小皿には少し形の崩れた卵焼きが置かれている。
チャーハンとすいとんは具材が綺麗に切られていて、よく火が通されており、食べなくてもその味が保証されている事が分かる物となっていた。
しかし、それと比べると卵焼きは一目見ただけでわかる様にぐちゃぐちゃに崩れている。また、焦げ付いている所がある一品になっていた。
見た目はあまり良くはない。
この卵焼きに関しては食べてみるまで美味いかマズイか分からない物となっている。
だが今はそれを指摘する程余裕のある者は居なかった。
景の言う様に、皆は”かっ込む”つもりでいるからだ。
味はそこまで堪能するわけではない。
『カチャ』『カチャ』『カチャ』『カチャ』『カチャ』
景はリビングのキッチン近くにある食卓テーブルへ、深い皿・小皿・お椀を一つずつ並べている。蓮華スプーンと箸は飯吹が置いていく。
リビング中央のテーブルとソファに集まっていた他の大人達は話しを続けながらも直卓テーブルに移動し始める。
「……そういえば貴方?事務所の方は大丈夫なの?……もしここへ帰ってきたら……”私の会社の肩入れをするんじゃないか?”って思われないの?よくわからないけど……それで別居が始まったのでしょう?」
四期奥様は思い出したようにして賢人へ声をかける。
清虹市の市長として、賢人は特定の会社と密接な関係を持つのは許されない。
ましてや金山家は様々な事に事業を展開しているグループ会社を経営している一族だ。
賢人は自分が婿入りした金山家と接触し、その後清虹市が金山家のグループ会社に事業を要請するのは別に普通の事だとしても、場合によって・人によっては癒着や献金などの不正を疑われる事がある。
勿論そんな不正は全くないのだが、市長とは信頼されるのが一番大事であり、悪い噂は極力取り除かなければならない。
事実として言えば、建設や開発・福祉やIT等のサービス……
それらを雑多に言えば、業界的に、どこの会社に事業を託すかの順位的に言えば、金山家が経営している会社に事業を頼む事が多いのが現実だ。
つまり、悪魔の証明と同じで”不正が無い”のを証明する事は現実的に難しい。
その為に賢人は泣く泣く四期奥様達・自分の家族とは別に住まいを用意し、独り単身で市長職をこなしていた。
それも市長の任期中だけと思って始めてみれば、まさかの連続就任が続いている為、家族の元に帰るタイミングを逸している。
それだけが理由ではなく、ここ金山邸のある土旗地域は清虹市の中心市街から一番離れていて、賢人は中心的な仕事場である清虹市役所内にある市長室の近くに住まいを用意した。と言う側面もある。
「……ああ、それですが、私から説明します。」
四期奥様の声に応えるのは平岩だ。
彼は食卓テーブルに着くのに断りを入れ、席に着きながら答える。
「……今回の春香さん誘拐は情報規制を事件発生直後から要請したので事件関係者以外は……知りません……いや、知らないハズです、ですので春香さんはここ、この家で事件のショックからふさぎ込んで寝込んでいる。というブラフを流しました。」
「そんな……」「「「……」」」
四期奥様は少しだけショックを受けるが他の面子は口を開けないで聞き役に徹していた。平岩は言葉をつづける。
「勿論ですが、そのブラフで捜査が困難になる等のデメリットは発生しない程度の規制としています。捜査関係者は事実を知っていますので、そこは問題ありません。」
一瞬、四期奥様はその情報規制が原因で”法力警察が捜査を打ち切られた”と思ったが、平岩は”それはありえない”と言っている。
平岩はその情報規制でのメリットを話し始める。
「ではなぜそんな規制するのかと言えば、いたずら電話等で便乗する愉快犯を防ぐ為と、市長選挙で他候補から責められる口実を取り除くための自衛です。」
「それって……」「「「……」」」
四期奥様は話が読めていない様に言葉を発するが、動作・説明・結果、の、動作・・結果だけしかない言葉なのだから解らないのも無理はない。
「はい、今回の誘拐事件は犯人が全く読めません。それに、結果論となりますが、犯人からの要求が無い事から考えると、犯人の要求は、実現が難しい事を要求される恐れがあります。……例えば、市の行政に口を出してくる……と言った可能性です。」
市や国の代表者子息が誘拐されるケースは一番あってはならない事態であり、その犯人の要求を呑む事として職権を差し出す形で誘拐交渉に挑むとなると、その代表が今後市長等の代表職に当選する事はなくなってしまう。
それを見越して対立候補がそんな事件発生を誘発する工作を仕込む場合もある。
ゆえに、要人の子息等・要人関係者が通う学校などは要人関係者が集まっていて、セキュリティレベルが高く設定されている。
今回襲撃された清瀬小学校はそれで言えば、春香が通うのに不都合と言えば不都合な警備レベルだったと言えるが、起こるかわからない凶悪事件の為に学校が決められてしまうのは子供からしてみれば納得いかないモノだろう。
それに清瀬小学校は警備を置いていたりしているので、決して開放的な・誰でも入り込める・セキュリティが無い学校と言う程ではない。
今回の犯人達が規格外だったのだ。
平岩は言葉を続ける。
「ですので、今回の交渉においては本当に可能な限り、”犯人からの条件を飲む為”と言う事で情報規制をしています。……ですが……まだ犯人からの連絡が無いのですよね……それに、風間さんはすぐに誘拐事件を聞いてここにやったのでしょう?風間さんは市外にいらしたのですよね?……そうなると……犯人の要求はすべて拒否しなければ……」
誘拐事件やテロの交渉ごとにおいて、犯人からの大きな権利を伴う要求は全て拒否しなけらばならない。
それが個人レベルの要求であれば、お金を渡したり、物を渡す事で交渉を飲む事が出来る。
金持ちだから・偉いから……と、財力や権利に物を言わせて解決できる事には限度があるのだ。
往々にしてその様な要求をする犯人はそれらの限界を見極めない。
権利を持っていない者が権利を要求するのだから、当たり前と言えば当たり前の事である。
持たざる者は、持っていないゆえに、要求している物をよくは知らないのだから。
「そ、そうですか……まぁ……その時はよろしくお願いします……お金で解決できるのなら……限度額は決めませんので……」
四期奥様はそれら賢人達の世界を良くは知らない。
ここは賢人や平岩に任せる形で蓮華を使ってチャーハンを胃に落としていく。
実際、四期達は”際限ないほどのお金”を持っておらず、使用人を侍らせる程の、絵に描いたようなお金持ちではない。
いざとなったら父である金山限無に頼ろうとしての”限度額は決めない”宣言であった。
『ダンッ!』
誰かがリビングの食卓テーブルを叩く。いや、
『ガガッ……』っと椅子を引いて誰かが立ち上がる。
「私のさっきの言動や態度は状況にそぐわないモノでした!さっきの言葉は忘れてください!この卵焼きは私が作ったモノです!これでさっきのは”チャラ”にしてください!お願いします!反省してます!……」
「「「「「えっ……」」」」」
急な謝罪に度肝を抜かれる大人達。その謝罪の主は勿論の事だが飯吹である。
食卓テーブルに手をついて立ち上がると頭を下げたのだ。
一瞬”誰に”謝ったのか解らない面子だったが、さっき怒っていた四期奥様に対する謝罪だろうとあたりをつける。
「う゛うん……まぁ……」
と言葉を溜める四期奥様としての考えでは、ここで謝罪を受け入れて”今後は娘をよろしくお願いします”とでも言って、気合を入れなおしてもらおうと考えていた。
さっき四期奥様の言葉を無視したのも”緊張していたから””謝るタイミングを伺っていたから”だろうと思う面々だ。
飯吹は四期奥様の言葉を被せる様にしてなおも言葉を続ける。
「……平岩さん!初対面の男に言う事ではありませんでした。”お友達”からお願いします!」
飯吹は平岩への告白を訂正していたのである。流石に初対面の人に告白は”刺激的過ぎた”と思ったのかもしれない。
「「「「「はぁ?」」」」」




