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力の使い方  作者: やす
三年の夏
147/474

#146~力の刺激の先にあるモノ~

「はぁーーーーーー……」

結局春香はお風呂に入っている。

お湯は熱すぎずぬるすぎず、昼に入るのには適した温度になっていて、お風呂は奥に広く深く、トイレ側の手前は浅い湯船になっていた。

手前に来るほど浅い、不思議な湯船となっている。

すりガラスの扉は中からしか閉めらない仕組みのようで、見た限りだと鍵は無いが『ガチャン!』と引っかかる様にして扉は中から押す様にして閉められる。

着替えが無く、お風呂を上がった後に体を拭くバスタオルや、濡れた髪を乾かすドライヤーが無いため、当初お風呂に入るつもりは無かったが、トイレへ向かう様にして・服を脱ぎ散らかす様にしてお風呂場へ来ている。

なにより昨日の昼に小学校の校庭で砂をかぶっているし、その後は眠っていてわからなかったが外は日中軽く汗ばむ程の気温があっただろう。

この空間は程よい温度で調整されている。

今は快適だがここに連れてこられるまでの眠っていた間は汗をかいていたに違いない。


汚れと匂いにはまだそこまで気を回す程ではないが、多少は匂っている。……はずだ。

紺色ジャージ集団の言葉を信じている訳ではないが、恐らく監視カメラ等で盗撮していたり、ジャージ集団の人間がこちらに接触してくる事はないだろう。

……根拠等はないが、自分の目はそう囁いてくる。


おまけで言えばお風呂へ入る決心を最後に押したのは、ボディソープ・シャンプー・コンディショナー等の石鹸各種が家と同じ物がお風呂場に用意されていた事だ。

……もうこれについては深く言うまい、全て調べ上げられているのだろう。

……何せ金山家の人間なのだからと、これぐらいの事では気にしないメンタルを春香は持っている。

春香にとっては当たり前の事なのだ。

自分は何をするにもしないにも、黙って居ても何かと目立つ。

なぜならそれは清虹市では有名な家系なのだから……自分ではどうしようもない。


「はぁ…………」

春香は一伸びすると湯船の中を移動する。

「ポチャン……」『ガタ、』

湯船の浅い場所でお風呂のヘリから上半身を出すと、与えられたピンクの風呂桶を手繰り寄せる。

『バシャビシャ』『バシャビシャ』『バシャビシャ』

手でお椀を造り、お風呂の中から風呂桶へお湯を三回ほど入れる。

『ガシャ』『ガシャ』『ガシャ』

続けて風呂桶に入れていたボディソープのボトルを持つと、噴出口を三回押して風呂桶にボディソープの液を入れた。

『ゴトッ』『ポン』『ワシャワシャワシャ……』

ボディソープのボトルを湯船のヘリ横に置くと、桶の中にボディタオルを入れ、泡立てる様にしてワシャワシャとタオルを揉みしだく。

「……」

ボディタオルのきめ細かい網目が空気を取り込み、風呂桶はすぐにきめ細かい泡でいっぱいになった。

「……っと……」『ポチャン……』

春香は身体を洗う為、湯船から泡がたくさん入った風呂桶を持って静かにあがる。

「……」

春香は湯船とすりガラスの間に腰を下ろし、泡を手一杯に掬うとそれを身体に優しく塗り始める。

手慣れた動作で桶から泡を持ってきて、顔から顎、首、胸、腰、足、右腕、左腕…と、綺麗に泡を塗る。

……ミスター……あらため……さしずめ……タイヤウーマンへと変身する。モコモコと言うしかない。

「あ……シャワーが……」

春香は上げたモコモコの右腕を空中に持ち上げて揺らす。

普段使っているモノと同じな為、自分の家のお風呂の感覚でいたがここは見知らぬお風呂場なのだ。

簡易的なお風呂なのか、そういうお風呂なのか、シャワーや蛇口が一切ない。

春香は仕方がなくもこもこ言っているそうな腕を伸ばし、ピンクの風呂桶でお風呂のお湯を掬うとそれを頭からかぶる……




「ふぅ……っ!これって……」

春香は光るように清められた肌で、すりガラスのドアを開けてトイレの空間を見る。そこには脱ぎ散らかした自分の服や、パンツが散乱している。

自分の脱ぎ散らかした光景なのでこれは場所を抜きにすればいつもの事だ。

問題は近くにあるトイレの上……いや、おろされているピンクのトイレカバー・フタの上に、綺麗に折りたたまれた下着などの衣服一式がある事だ。

ピンクのバスタオルも一緒においてある。

服は脱ぎ散らかしてある物と同じに見える。

「えぇ……サイズまで同じなんだけど……」

どうやらそれは全く同じ物ではなく、同じモデルの服で、ほとんど同じだが最近のバージョンらしい。

春香の衣服は市販されている物であるため、用意するのは言うほど難しくない。

今年になってバージョンチェンジした物であるため、流石に全く同じ物は用意出来なかった様だが……

これは身の危険を感じる徹底ぶりだ。

ドコマデ調べているのか……

春香は迷う。

自分を誘拐した女児誘拐犯の用意した衣服(見る限りは新品)を思いきって着るか?

少し汚れていても良いから自分の着ていた衣服(少し砂を被って汚れている)を再度着なおすか?

……これなら、彼らの着ているジャージを用意してくれている方が百倍マシだ。



「んっん……流石に……」

春香はトイレから身綺麗な姿で中央の広い空間へ出てくる。

少なくともはたから見える服は用意された物を着たらしい。


問題は……いや、やめておこう。

女児の下着を想像するの等はもっての他だ。

「……ん?お昼ごはんか……」

春香は点灯していたタブレット端末が『昼食摂取時間』と表示しているのを確認する。

テーブルの上には端末だけだ。


「……あれ?もう乾いてるの?……」

そこら中水浸しになっていた空間で、我ながら、一体どんな事をしたらこれほど水浸しになるのか分からない惨状だった。

だが、そこには既に朝起きた時と同じ空間が広がっている。

濡れていた様子など微塵も感じない。


「……っ!……朝も昼も同じなんだ……」

春香は隣の空間にある白いベッド・眠っている男性を隠れる様にして覗きに行くと、やはりテーブルにはスプーンの入ったお椀が一つ置かれていて、濡れていた箇所は元の濡れていない空間に戻っている。

「またこれ……」

お椀の中には相も変わらず茶色いクリームが入っていた。

「……なんか……私が……いや……いつの間にか食事を用意しているし、濡れてるのも元に戻してるし……ここに私を連れてきてなんの意味があるの?……私……要らないじゃん……」

春香は思う。

少し場所を移動していると、いない空間に物が置かれていたり、物がなくなっていたり、綺麗にされていたりと、自分なんかに余計手間暇かけて、あれこれやらせるぐらいなら、その手間暇を全てこの男性に使った方が良いハズだ。

この男性は生きているのも不思議なぐらい痩せ弱っているが、死んでいる訳では無い。

笑いもするし、物を口に入れれば飲み込むし、見てはいないが寝返りをしたり、動いたりもしているのだろう。

イミガワカラナイ……


『ダッダッ……ダン!』

春香は黙って白いベッドに近づき、茶色いクリームの入ったお椀を掴むと、足音を立てて立ち止まり、茶色いクリームをスプーンで掬う。

「っ!」

茶色いクリームが乗せられたスプーンを乱暴に振るい、男性の口に無理やり押し込んだ。

「くっ、くぅっぅぅっぅぅ……」

男性はスプーンを口に入れられ、茶色いクリームをいきなり流し込まれると苦しみだす。

苦しむと言っても顔の表情がこわばるだけだが、先ほどの笑みを見ているとその苦しみ方は相当な物だと予感させる。

「えっ!……」

春香は自分で暴挙をしておきながらもこの変化に驚いた。

「えっ……ど、どうすれば……」

春香は何も男性に、何もする事が出来ない。

突然食べ物を入れたから、クリームが器官にでも流れ込んでしまったのかもしれない。

ならば”口を開けたり、水を飲ませる事が良いのではないか?”と春香は右往左往するが、咄嗟に動けない。

春香は目まぐるしく考える。

水、水、水……が無ければジュースを飲めば良いじゃない?……はあるはず無い。

……ならば……お茶?……お湯………そう、お湯だ。

”お湯ならば、さっきまで春香の目の前にあったではないか!”と春香はトイレに向かおうと足を踏み出す。


食べ物が器官に入った時、一番良い対処は水を飲んだりする事では無い。

水がさらに器官に入る恐れがある為、液体を飲むのは下策とされている。

器官に物が入った時の対処法は、体の向きを変えたりして喉の筋肉を軽く刺激するのが良いとされている。

喉の毛などが作用して、自然と元に戻すのが良い対策だ。

その後に違和感が残る様なら病院に行って診てもらうのがベストである。



「……っ……ご、ごめんなさい……」

春香は意味があるのか定かではないが、状態が落ち着いた男性に歩み寄ると反省して謝っている。

「……っ……」

続けて、考える様にして振るえる手足の動きを止める。

『……』

手の中にあるお椀が重く感じている春香だ。

『自分には介護なんて重役は荷が重い……』と。

春香はクリームを指で掬うとそれをまたまた口の中に『パクッ』っと入れてみた。

「マズイ……」

やはり、甘くてマズイ。こんな物をスプーンで食べるのには自分としては限界がある。

こんなものなら食べない方がマシだ。他の物を食べる。

こんな物を食べていては元気になれないのじゃないのだろうか。


そうだろうか?

『…………』

春香は落ち着きを取り戻した手足を動かす。

「……っ……んっ!……」

手の中のお椀から優しくスプーンを使い、茶色いクリームを掬う。

『カッ』

スプーンを男性の顔の前に持っていき、恐る恐る、慎重にスプーンを唇の中にいれた。

スプーンの上にあるクリームは男性の口の中に消えていき、朝と同じ様にしてクリームを口の中に入れていく。

男性はしっかりと飲み込んでいる。

喉が動いている。

喉の下はキモチワルイぐらい細くて見られた物ではないが……

彼はこれしか食べられない。



春香はお椀のクリームすべてを男性の口の中に入れていた。

中央の広い空間に戻る。

「あ……」

そこにあるテーブルにはまたも、さっき無かった物が置かれている。

春香のお昼ごはんだ。

今回のメニューは

ごはんとワカメスープ、鶏肉の照り焼きだ。

朝ごはんに負けず劣らずおいしそうである。

ワカメがお椀を越えて朝と被っているが、問題ない。


香ばしく焼いた鶏肉の匂いと照り焼きソースが良い匂いを出していて、ごはんも白くつやつやしている白米特有の良い匂いを出している。

ワカメスープはぬるぬるしている海藻がワカメとは別に入っていて、塩がよく効いた汁は、飲んだ後に胸を暖かくしてくれる効果がある。

お風呂上がりで乾いた喉を潤してくれるつもりなのか、水とリンゴのジュースパックで飲み物が多い気配りを見せてくれている。


「いただきま……あむ……あむ」

しかし、春香は先程の自分の蛮行にショックを受けているのか味が分からないでいた。

気分と空腹は最高の薬味だったのかもしれない。

頑張ります。

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