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力の使い方  作者: やす
三年の夏
143/474

#142~力のウマいキミ~

少し修正・サブタイトルを変えました。

話は変わっていませんが……

すみません。

場所は金山邸のキッチンである。

そこには一人、白いシャツに白いスウェットズボン姿の男性が流しの方を向いて立っている。

『カシャ、カシャ、カシャン……』

自前の包丁で四角いケースを切る様にして包丁を研いでいる最中だ。

ケースの中にはキラキラ光るグレーの石が埋め込まれており、その石に包丁の刃を当てて横にスライドさせている。

「まぁ……これじゃぁな……」

その男性は包丁の滑る音と刃の状態を、聞いて、見て、落胆の声を漏らしていた。

携帯用の研ぎ石では満足できていないのだろう。

持ち手の黒い部分が少しくたびれているだけで、刃はきらめく様に光を反射させているがこだわりのある料理人の様である。

「……遅い……」

続けてそれとなく愚痴を言う男性、改め風間景である。


その声に反応したわけでもないが、景の左にある小さなドアから『ドタドタドタ……』と、階段を駆け上がる音がドアの向こうから響く。

「うん?、来たか。」

景がそのドアを見る頃、ドアノブが回り『ガチャ……』っとドアが開く。


「持ってきました!」

そこには、荷物を持ってくるように頼んだ平岩ではなく、背広姿の女性が現れる。

「あれ?アンタは……」

景はその女性が先程リビングに居た者だと解るが、なぜこれを彼女が持って来たのかわからない。

「……まぁ良い、それを渡してくれ……」

景は事情がどうあれ自分の目当ての物を要求する。

『タッタッタッ……』っと続けて小さな足音がすると、もう一人がドアから続けて現れる。

「……遅くなりました!これも必要ですよね。」

その女性の後ろからは荷物を頼んだ平岩が現れ、赤い金属ケースを持ち上げた。

「……おぅ!ありがとさん。赤いのはそこのテーブルに置いといてくれ。まずは青い方だ。」

「はい。」「どーぞ。」

平岩は景の後ろにあるテーブルに赤いケースを乗せ、青いボックスを持つ女性・飯吹は景にそのボックスを渡す。

「アンタ、よくもまぁこれを軽々持つな、大したもんだ。何か良いモンでも食ってんのか?”良いモン”も持ってやがるし……」

景は飯吹が重いケースを軽々持つのを褒め、続けて誰に言うでもなく声を続ける。

「……よし!夜の仕込みの前に昼をちゃちゃっと用意する。……昼はいち、にぃ、さん……で、しぃ、ごぅ、ろくと、アンタら防人部隊の野郎どもは昼いるのか?冷蔵庫を見る限りじゃー別にあと四人分ぐらいなら用意できるぞ。……それとも帰るんだっけか?」

景は昼の献立を頭に思い浮かべ、食材の量に余裕があるのか、むしろ料理を振舞いたいのかわからない口調で飯吹に昼が必要なのかを聞く。

『……』

しかし、飯吹は反応しない。”隣の平岩に聞いたのだろう事で彼が答えるのだろう”と、反応するつもりはない様だ。

『ん?あっ……』

平岩が飯吹に声を掛ける。

「……飯吹さん、昼はどうするのですか?風間さんは貴女に聞いたのですよ?」

「えっ?あぁ、私?の事でしたか……うーん……」

飯吹は考える。

飯吹は『多分……』と前置きしてから応える様だ。

「……私だけしか残らないので、プラス1人分でお願いします。お屋敷のランチは食べた事無いですし!……ただごちそうになるだけじゃあれなんで、私も簡単な事ならお手伝いしますよ!」

ちゃっかり自分の分は確保しつつ、殊勝にも手伝いを申し出る飯吹である。


「あん?手伝いつってもな……アンタ料理は出来るのか?」

景は飯吹の人柄を一瞬の会話で決めつけ、”どうせ料理の”り”の字も分からない輩なんだろう?”と侮った。


包丁もろくに扱えない人間では調理場で手伝える事が限られる。

むしろキッチンで何か作業するよりも、キッチンの外で作業をしてもらった方が有意義だ。

「悪ぃが、俺はどちらにせよ料理に関しては人に任せねぇ主義なんでな。そこに俺の料理器具が入っている赤いケースを置いて貰ったからには何か取ってもらう事もねぇだろうし……まぁ、勝手にやってくんな。……おっと!気を悪くしねぇでくれよ?これは四期お嬢達にも徹底してる事だからさ。何をしてくれても俺の邪魔をしなければ構わねぇ。……まぁ、しいてあげれば……何か一品欲しい所だが……生卵ぐらいしか残らねぇし……ひとっ走りどっか行って何か材料を買ってきてくれても良いな。」

景はこだわりが強く、こと調理場に関しては自分しか信じていないらしい。

『……』

平岩は初対面の割にそれを承知しているらしく、調理の手伝い等に関しては手伝うつもりが無いので反応しない。

「……じゃー……生卵を3個ぐらいください。調味料も。私が焼きます。」

飯吹は卵を三個要求する。

「……卵焼きかい?……まぁ……コンロも長く使わないだろうから良いか……そこから勝手に取ってくれ。俺の赤いケースに入ってる調味料を使ってくれてかまわん。この調理場ではどこに何が置いているか俺はそんなに知らんしな。」

景は飯吹の提案を理解し、冷蔵庫を指し示す。金山邸のキッチン器具・調味料の配置はここに居なかった景にはわからない、仕方なく景の用意した物を使う様に言った。勝手に漁られると邪魔だからかもしれない。

「はいはい、『ジャー』…………えーと……ボウルか容器は……」

飯吹は早速、景の横に滑り込むように足を踏み入れ、台所の流しで手をちゃちゃっと洗うと、卵より先に容器を探す。

「ほー……『ガシャン!』……んっ。」

景はすかさず自分の赤い金属ケースを開けて、中から小ぶりな透明容器を差し出した。

赤い金属ケースの中には各種包丁や調理用箸、ピーラー、へら、水切りネット、小ぶりな容器に小ぶりなフライパンから始まり、砂糖塩酢醤油コショウ、ダシ、等々々と調理に必要なモノが所狭しと入れられている。

さすがに陶器の皿や金属ボウル等の大きい物はないが、一般家庭で必要な物は一通りそろっている。


「……ふんふーん……」『ガパン、』

飯吹は冷蔵庫を躊躇なく開けて中を物色する。

雑多に食材が入っているわけではなく、少しの透明タッパに調味料が入っていたり、朝の残りだろう白いご飯等が少し入っているだけでしっかり整理整頓されている冷蔵庫だ。

朝の残りは大皿に少しの野菜とハムエッグベーコンがラップを掛けられていたりと少し雑多だが、おおよそ冷蔵庫内の空気に触れている食材は他に無い。

冷蔵庫のドア裏ポケットには卵が六つおかれており、朝に用意したハムエッグベーコンの残りだろう数の多さである。


「ま、勝手にやってくれ。」『ガバン……』

景は飯吹の動きを少し目で追っていたが、問題ないと判断したのか青いクーラーボックスに手をかけて自分の作業を始めた。

「では私は車を下げた後、そのまま金山市長に付いています。」

独り残された平岩は一旦駐車場に戻る。

階段に繋がるドアの右奥にはまた別のドアがあり、短い廊下の奥にはリビングが置かれている。

平岩は出てきた小さいドアの奥・階段へと戻る為に足を踏み出した。


キッチンでは飯吹の卵焼きづくりが始まる。

「とぅ!」

まずは卵をテーブルの面に打ち付けて、ヒビを入れる。

この時、テーブルの端や出っ張った所で打ち付けるのではなく、平らな面に打ち付けている。

卵を割るのには平らな所で十分だ。

「おっと!セーフ……」

続けて透明容器に卵の中身を入れるのだが、そのまま卵の殻から落とすのではなく、卵の下側の殻と上側の殻二つで黄身を移し替える様にして透明な白身だけを容器に落とす。

「とぅ!」「とぅ!」

これをあと2個の卵すべてで繰り返す。

黄身は卵の殻に残し、布巾の上、殻の中の物がこぼれない様に置いた。

「おりゃりゃりゃりゃりゃ……」

続けて透明容器にたまった白身を調理箸でかき混ぜる。

狂ったようにかき混ぜる姿は鬼気迫るモノがあったが、幸いにもそれを諌める者はいない。

「うるせぇよ……」

いや、景は突然のうるささに顔をしかめるのだが、それ以上関りを持とうと思わなかった。

特にそれ以上何も言わずに自分の作業を進める。

景は冷蔵庫から余り物の白いご飯を出して、野菜をカットし始めている。



『モサ、モサ、モサ、……』

白身はその名前の様に白く、メレンゲ状になっていた。

「ふっふーん……ダシ借りまーす、醤油かりまーす、塩かりまーす……」

飯吹は景の道具と調味料が入った赤いケースから粉末のダシを取ると、メレンゲに投入する。

続けて醤油を取ると垂らし、塩を取ると一振り程度で透明容器に振りかける。

メレンゲに粉末のダシでは良く混ざらない様に思えたがそんな事も無く、ダシはその姿を隠した。

醤油と塩で下味をつける。

「……とうにゅ~~う。」

白いメレンゲはダシの粒と醤油、塩が交じり、茶色くなっている。

布巾の上に置いていた黄身を持つと卵の黄身を透明容器に落とす飯吹だが、しかし黄身をそれほど掻き混ぜない。

軽くなじむ程度に透明容器の中を箸で何度か割るだけだ。

茶色いメレンゲは黄色いクリーム色の姿となる。

後は焼くだけとなった。


「ほぉ?凝った作り方してんな……ここまでやる必要あるのか……?まぁ、味見に一匙貰うよ。」

景は飯吹の変わった卵焼きの焼く前:卵焼きの元を見ると、懐から小さじのスプーンを出し、透明容器から茶黄色の半液体を掬い、口に運ぶ。

「おぉ!空気が入ってるのになかなか味がしっかりしてるじゃねぇか?……ふぅん?これで焼いたら……おい、卵焼き用のフライパンが確かそこにあるぞ。それを使いな。」

景は思いがけない伏兵に半信半疑な対応だったが、飯吹の”手際の良さ”から”料理下手な女”と言う評価を消し去る。自炊はそれなりに出来るのだろう。

「はいはーい……って、鉄製か……これ焦がしちゃうんだよなぁ……物は良いんだけど……」

飯吹は言われて、キッチンの下から四角いフライパンを取り出した。

しかし、黒光りの鉄で出来ているフライパンに飯吹は顔を曇らせる。

鉄のフライパンは重くて熱の伝わりが早い為に焦がしやすい。

しかし、手入れが楽・乱暴に扱ってもそこまで傷がつきにくい・駄目になりにくいと言ったメリットがあるため、一定数の需要がある調理器具である。

フッ素で毒?……と言った衛生面も最低限の手入れをしていれば話に聞かない。

「かちちちちち……」

飯吹は空のフライパンをコンロで炙る。鉄製ならではの所業だ。表面加工してある物だと空焚きはフライパンの寿命を縮めやすい。

ちなみに”かちち……”とは飯吹が口で効果音を付けている。理由は特にない。


続けて、先程作った透明容器の中の卵焼きの元を半分だけ入れる。

『ジュウゥゥ……』とフライパンの上に流された卵焼きの元は醤油が入っている為にすぐに黄色く・白く・硬くなっていく。

飯吹は調理箸をフライパンの上で躍らせて卵焼きの元をスクランブルさせる。

”卵焼きの元”は”元ではなくなり”卵焼きとなった。フライパンに垂らした半分だけ。

『パタ、パタ、』

飯吹はフライパンにある半分の卵焼きを手早く手前に折りたたむ。

さらに、半分だけ卵焼きが置かれたフライパンの開いた半分に、残った卵焼きの元を流し込む。

『ジュゥゥ……』『パタ、パタ』

既に卵焼きになっている側を奥におり畳むと、卵焼きを完成させた。

飯吹はコンロの火を止め、余熱で半生の面を焼いていく。

外はトロトロ、中はしっかりした身の卵焼きの完成だ。

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