#139~力の告白~
すみません。遅れました……
見直しが出来ていないので誤字脱字が多いかも……しれません。(一通り修正しました。)
「……ちょ、ちょっと待ってください!……その”会社から春香さんの事を聞いて”と言うのは”四期さんの会社から聞いて”と言う事ですか?……」
平岩は景の言葉に驚き、大声を出す。
秋穂は平岩が突然大声を出した事に驚き、口を開けるが二の句を継げないでいた。その事を分っていながらも、敢えて言葉を続ける平岩である。
「……春香さんの誘拐は事件発生すぐに情報規制を厳令していますし、学校から”事件の事は口外しない様に言った”と父兄たちに通達したと確認済みです。メディアには襲撃事件とだけ報道を許可しましたが、流石に昨日の今日では精々付近に住む住人レベルの噂なのでは?それ程度であの限無さんが動くとはとても……」
そんな声に景は言い返す。
「アンタ……生まれはここじゃないのか?”会長”がその程度の対処で見過ごすハズが無いだろう?金山家の会社グループから来た情報だ……あのお方は地球の裏側で今使われている電車の型番もすぐに答えられるだろうな……まぁ、金山家の決算報告会に出た事が無い人間にはその凄さがわからんだろうが……」
「そんな事……」
「……」
平岩は限無の凄さを理解出来ていなかったが、隣に居る女性・秋穂の黙る姿を見て理解するしかなかった。
秋穂は口を動かす。
「分かりました……お母様には私から言っておきますので、風間さんは準備をお願いします。平岩さんも可能ならば風間さんのお手伝いをお願いします。」
秋穂は凪乃と同じ様に景を風間と呼び、父である賢人を追う形で廊下の奥へ身体を向けると歩き始める。
平岩は手に持った車のキーを握り、自分に与えられた仕事をこなそうと階段の下、駐車場へ行こうとするが、考える様に足を止める。
「あっ!もしかして……我々を付けていた連中は限無さんの間者なのか?」
平岩は金山邸に訪れていた勝也を怒鳴り、自分達を付けていた者を追い払ったと思っていたが、一つの解釈を思いつく。
しかしその解釈を信じるには疑問が多すぎて納得が出来ていない様子だ。
「んっ?アンタら付けられてたのか?その影に心当たりは?市長職も敵が多くて大変だとは思うが……もしもやましい理由でその訳を言えないってぇんなら……」
キッチンへ向かったと思っていた景が平岩の独り言を耳ざとく聞きつけ、顔だけを振り向かせて怖い顔をさらに怖くして平岩の独り言を独り言にさせなくする。
「いっ、いえ……賢人さんの対立候補か、暇な不良モドキかなと、私達としてはそれぐらいしか心当たりはありません。……ですが、尾行が下手だったので恐らくは不良かなと……”その”限無さんの間者ならもう少し、こう……うまく……と言うか……悟らせもしないだろう……と言うか……」
景は眉間に皺を寄せ、考える様なそぶりを見せるが、間もなく口を開く。
「ふむぅ……分からんが……会長の手の者と考える事も出来る……会長は身内に関して間者等はバレても構わないと開き直る節がある……しかし、それだけでは何とも言えんな……賢人さんを狙う輩が多すぎる……」
景は言葉を切ると、平岩に続けて注文をつける。
「まぁ、考えても仕方がない。それは良いとして、クーラーボックスを先に台所に持ってきてくれ。凪乃の冷蔵庫事情はあてにならん。……こいつを研いで待ってるからな……久しぶりに本気で料理が出来る……」
景は懐の腹巻下から黒い棒状の物を取り出す。黒い棒状の薄い方を手に持ち、『キュポ!……ィィン!』と音を鳴らして薄い部分を引っ張ると、下からは白銀の刃・包丁が姿を現した。
「は、はい……すぐに持ってきます……」
そう言い残すと平岩はそそくさと階段を駆け足で下りていく。
景の風貌と顔が相まって、包丁を抜き身で持っている様は恐ろしくもエキセントリックな姿であった。それはまるで、決死のカチコミをしかけるのに独り、ドスを根目回して喜んでいる姿の様であった。
『ダッダッダッ……』
「どっこい、しょういち……」
平岩が階段を下りる先では女性が一人、そこにある靴をすべて手に抱えている場面である。
勿論だが、平岩と賢人の靴もそこに入っていた。
「あれ?……おはようございます。靴を片づけるのですか?でしたら今から履きますので一足残して下さい。それです、……んっ?」
平岩は誰とも予想がつかないが、新しいお手伝いだろうか?この家で家政婦と言えば風間凪乃か、風間千恵ぐらいしか記憶にない。しかし凪乃にしては歳が上で、千恵にしては若い。それに二人には無い膨らみがある。背広の上からでも分かるほど身体は節々が引き締まっているが、何ともバランスが悪い体形だった。
「あれ?おはようございます。どちら様で?この靴って私たちの物かと……あれ?ひぃ、ふぅ、みぃ、のよぉ……はっ!二足多い……はっはー!これは失礼しました。あっ……」
その女性は身体を傾けた拍子に手に持っていた靴をすべて『ボタボタボタボタ……』と落としてしまう。
「ふふっ……これが私の……っです!。」
平岩は苦笑を挟みつつ、落ちた自分の靴をそのまま足で射抜く。
平岩の階段を駆け下りからのージャンピングウェアが綺麗に決まる。
「おぉー!お見事!……いやー最近動きがなんかトロくてトロくて……歳ですかねぇ……もう?まだ?33なのに……いあ、すいません……」
その女性は答えづらい事を言いながら、適当な感じに謝罪する。
「うん……あ、いや……いえ、その事は別に良いのですが……」
平岩は答えづらそうにしつつも、謝罪の返答を済ませる。
「えぇ?!ツレないですねぇ……まぁ、ゴメンナサイね。私もこれからどうしたモンかで……」
その女性は少しおかしな反応を示すが、特にこれと言って悪びれていない。
「はぁ……なんか勘違いされている気もしますが……」
平岩もその女性の反応についていけず、困惑する……のだが、『……ええい!』と平岩は思い切って言った。
「下半身の筋トレが足りてません。あなたの筋肉は上半身ばかりで下半身に筋肉が足りていないのです!下は木組みで疎かなのに上は戦艦大和の主砲みたいなアンバランスなのです。上半身に重心を持っていかれているのにそれを支える下半身が足りない!もっと足に筋肉を付けてください。下半身も筋肉を増やせば下に重心がおりて、もっと機敏な動きが出来るハズです。下半身は筋肉が付きやすいので自然と付くはずですが……?」
なんとその女性・飯吹金子の筋肉調整・筋肉のつけ方が悪いと言ったのだった。
それに対してその女性あらため、飯吹は『ん?』と、言われた事をかみ砕いてから口を開く。
「いや!でも!足に筋肉がついたら足が太くなっちゃうじゃないですか!それは……こう……女性的に……恥ずかしいと言うか……なんというか……短パンや水着姿になれないのは困る……と言うか……」
何とも女性らしい考えであった。飯吹も綺麗に見られたい年頃なのだ。
「ふむ……まずは誤解から解きましょう。筋肉=太いと言うのは間違いです。筋トレや室内フットバイクなどの負荷をかける筋力トレーニングは確かにそう言った太い筋肉が付きます。いわゆる無酸素トレーニングです。しかし、長距離ランナー等は足が細いでしょう?彼等彼女等はランニングなどの有酸素トレーニングを行うので細い筋肉が付くのです。つまり、今あなたに必要なのはランニングです。ひと月ぐらいの間、通勤や通学などの距離を走って移動してみてはどうですか?それか、清虹市のサイクリングロードをランニングするのが良いでしょう。清虹市はサイクリングロードと電車がほとんど並走している造りなので”はじめはランニングで行き、きつくなったら電車で帰る”と言うのが黄金トレーニング法なのです。これなら疲れて帰れなくなる心配も少なく、清虹市の財政も潤って……」
そんな長セリフの途中で言葉を切る平岩である。
若干の恥ずかしさを覚え、言葉を止めたのだ。顔を赤らめながら言葉を結ぶ。
「……ああ、いえ、失敬。少し熱くなりすぎました。」
平岩は飯吹を見て”引かれて”いないか心配になりつつも顔を向ける。
飯吹も平岩の言葉に何を思ったのか口を開く。
「……結婚してください!」
飯吹の一世一代の告白だった。




