#13~力の奔流~
行間を少し付けました。
勝也達が教室に着くと荷物を自分の机に置き、いつの間にか開けられたスペースに机を二脚運ぶ。
どうやら勝也達の後ろに転校生を二人並べる為、席の配置換えが先生の手によって行われた様だ。机と椅子には名前が振ってあり、どの机に誰が座るかは一目で分かる。運んだ机と椅子には名前は無い。
途中、教室に居るクラスメイトからは『何それ?何それ?』『なんで席順が変わってるの?』と矢継ぎ早に聞かれたが、『先生に頼まれただけで解らない』と勝也は嘘をつき通して誤魔化す。
春香は『なんで私達が嘘付かなきゃいけないの?普通は先生が用意しておくんじゃないの?』と表情で語るだけに留め『どんな人が来るんだろ?』と勝也に言う。
クラスメイトは『机が二脚も増えている』という点が解らず、クラス全員から同じ様に聞かれるハメになる。勿論、勝也の答えは同じ様に『頼まれただけ。知らない。』と留めるに終わった。
『キーン・コーン・カーン・コーン』と予鈴がなると生徒は自分の椅子に座って先生を待つ。
「おまたせーおまたせー」
と教室に入ってくる先生はいつもより少し遅れて教室に現れる。教卓に着くと、いつもの様に朝の挨拶を始める。
「起立、おはようございます。」『『『『『おはようございます!』』』』』
「はい、間違えない様に自分の名前が付いた席に座ってー。『朝の会』を始める前に先生が勝手に席替えをした事を謝ります。『ごめんなさい。』席替えは今度から周期的にするので忘れない様に。では今日のビッグニュース!転校生が今日からクラスに来ます。」
突然の発表で驚くクラスメイト。勝也達が運んだ机に視線が集まる。
「一組はもともと人数が少なかったから、なんと!!転校生は二人いまーす!!じゃ、入って来て。」
神田先生が廊下に向かって手招きすると入ってくる二人、先に聞いた様に男女の双子だ。
一人は物静かそうな男子で顔は整っているが顔が赤い。少したれ目気味で髪型は短く、『ザ・もじもじ男子』という印象。
もう一人は男子とは正反対で、垢抜けた感じの目つきが鋭角的な女子。ポニーテールが揺れる、『体育会系の女子』と言う印象。言葉遣いによっては印象が変わる顔だ。
二人とも第一印象は正反対だが、双子らしく顔の造形は似ている。
「これから二人が自己紹介するけど、終わったら一人一人が同じ様に自己紹介をしてもらうから、考えておく様にー。今日は一時間目が順調に進んでいる算数だから、今日の算数はお休みとします。まずは、純一君、頼んだよ。」
『はい…』と返事をする男子が先に自己紹介をするようだ。
「えっと…親の都合で隣町から引っ越して来ました。山郷純一です。分かると思いますが、僕たちは双子です。妹と区別する為にも『純一』と呼んで下さい。よろしくお願いします。あっ!趣味は……うーん……法力の練習です。将来は…それを使って行くんで…」
言うとクラス中ざわめく、当たり前だ。この歳で『法力を使う。』と、堂々と言うのは一種、異端者の烙印を押される。
勿論、幼くても法力免許保有者や、勝也の様な例外を除けば。で、法力を使える未成年者は無暗にそれを口外しないのが常である。
法力免許は年齢制限が無く、取ろうと思えば赤ちゃんでも取れるが、ほとんどは高校卒業を境に免許を持つのが一般的だ。法力教育をするのは高校からである。
…と言うより、男の方が兄だったとは驚きだ。見ると兄らしく、妹に手振りで自己紹介するようにしている。
サバサバした印象の女子は指図されるのが嫌らしく、手を振って拒絶しながらも話す。
「ちっ!えーと…今こいつが言った事は冗談です。お調子者なんで…」
『なんだ…冗談か…』と安堵するのは担任の神田先生もだ。女子の自己紹介が始まる
「妹の山郷朱音です。こいつと同じ様には呼ばれたくないんで、解る様に呼んでください。趣味とかは特に無いんで、面白いゲームとか漫画を貸してもらえるとありがたいでーす。よろしくおねがいしまーす。」
初めに舌うちから始まり、双子の兄をこいつと呼び、小学生の生命線とも言える、娯楽品を貸すのは人を選ぶが…本人としても本気では言っていないのかもしれない。見た目はともかく、『付き合う人は選ぶ』タイプの様だ。
『自己紹介は終わり。』と言う態度の二人は『波乱の幕開け』にしか思えない教室の皆である。
「えっと…まぁ…法力は免許を持ってないと使っては駄目ですからね、皆もそろそろ使える人がいてもおかしくないですが、免許が無い人は力を使わない様にしましょう。えーっと…ではクラス一人一人立って自己紹介を…」「はぁ…」「あの!!」
と先生が一組の生徒に自己紹介を振ろうとすると勝也は人知れず、ため息をつく。背中に視線を感じるのだ。気のせいだとは思うが…
それと同時に当の転校生、双子の妹である朱音が先生に噛みついた。
「『免許を持って無い人は法力を使っては駄目。』は違います。『法力を、人前や公共の場では使ってはいけない。』です。先生なのに間違った事を言うんですね?」
『なっ…』と驚く先生は少し考えてから言う。
「えーっと確かに山郷さんの言う様に法律の文言はそうだけど…その時その時で判例が変わります。だから意味としては『法力は極力使わない方が安全。』と言う訳です。山郷さんは物知りだね。勉強熱心で関心です。」
先生のこめかみが引くついて見えたが、大人の対応で話を収めにかかる。小学生相手に使う反論ではないが、そう言われた朱音はこう返した。
「兄ちゃんと被るんで私の事は『朱音』と呼んでください。私も細かい事を言い過ぎました。ごめんなさい。」
殊勝に呼び方を変え、頭を下げる朱音は呼び方の事を持ち出して話をずらす、先生によっては怒りそうな一幕だったが、神田先生は危険を察知して自制する。
「…先生が間違った事を言って悪かったけど、じゃ、雨田から自己紹介を頼んだよ。頼んでおいたから出来るよね?」
勝也はゆっくりと立ち上がる。後ろから小さく『私のかちゅや…』と囁き声が聞こえた気がした。
良い所ですが…
不定期に続きます……




