#138~力の来訪者は来訪を告げる~
『ブゥゥ………』『キュキュ……』
駐車場の扉が開き、黒茶に紫ラインのスポーツカーを前に進める賢人は赤くなった目を指でこすり、久しぶりに我が家の駐車場を見る。
『……あれ?』
駐車場の奥には妻である四期が乗る車と、少し前から車に乗り始めた秋穂が乗る車があり、これは賢人にとって懐かしい物と目新しい物ではあるが、おかしな事ではない。
さらに駐車場の右手には奥に行きすぎず、変に手前でもない手ごろな所に紺色のバンがあり、これは四期奥様から電話で聞いている法力警察官達が乗って来たであろう車でおかしくはない。
しかし、問題は出所の解らない白い軽トラが左端の壁際に横付けされていることだ。そこにはリビングに繋がる階段の扉があり、それを塞ぐ形で駐車してある。
塞ぐと言っても軽トラと壁の間は人の行き来が出来るほどの隙間はあるが、『四期がこんな停め方を容認するだろうか?何か急ぎの客が来たのだろうか?誰だ?』と思う賢人である。
「妙な車ですね……市外ナンバーの社用車で……荷台は荷物が少し、保冷ボックスと小ぶりなコンテナで……法力警察でしょうか?」
助手席に座る秘書の平岩も賢人と同じ様に思っている。
「まぁ……追加で警察関係者かなんかが遠くから来たのかもしれんな、誘拐に関して何かあるのかもしれん……」
考えても分からないと判断した賢人は気安く答えた。
賢人は紺色のバンの近くに車をバックで停める。
本来ならばリビングにつながる階段近く、つまりは軽トラの近くに車を停めてそのままリビングに行きたい所だが、軽トラが出やすい様に車を離して停めたのだ。
駐車場には白線が敷かれており、それに沿って車を停めているならば車の加速具合・タイヤの稼働具合的に他の駐車スペースに侵入して車が接触する事は少ないが、白線に関係なく車が停めてあると話は変わってくる。
人は白線の上に車があるにも関わらずに、ついつい白線に沿って車を走らせようとしてしまう。するとどうしても他の駐車スペースに車を侵入させて出て行かなければいけない。
それにこれほど雑に車を停めているのは急いでいるか、すぐに車を出すつもりなのかもしれない。
これ以上この駐車場に車が増える事はないだろうが、”白線を跨いでも良い”と思っている様な駐車をする運転者は往々にして運転が荒い事が多い。
車を大事に扱う者はそういった”駐車場の空き混み具合”以上に情報を深読みして駐車スペースを選択し確保する。賢人はこの車を大事に扱っているのだ。
「……考えても分からん。一旦廊下側の階段で行こう。」
「あれ?リビングなら……『バン、』いえ、分かりました。『バン!』」
賢人はそのままサイドブレーキを引き、すぐにドアを開け閉めして車を降りると小さな小部屋がある廊下に続く階段へ向かう。
平岩はなぜ軽トラの横を通って行かないのか疑問に思ったが、賢人に合わせて行こうと言葉を収めた。
そのまま軽トラの横を歩いてリビングに向かっても良かったのだが、賢人は何やら思うところがあるらしく、迂回する形でほんの少し遠くの階段からリビングに行くらしい。勿論、二分も変わらない距離なのでどちらの階段でも良いのだが、人はその二分でも考えてしまう物だ。
平岩は携帯の画面を見ながら『バン、バン!』とドアを開け閉めして車を降りると賢人を追う。
『……ガバン!』
賢人は急いだ様子で鉄製の扉を開ける。後に続く平岩に扉を任せ、靴を脱いで階段を急いで上がって行った。
金山邸は階段の下・地下駐車場に三つ、地上の門後ろに正面玄関が一つあり、玄関が全部で四つある。ちなみに台所には庭に繋がる勝手口もある。
「ん?男物の靴?法力警察もここから上がったのか……」
後に続く平岩は携帯から目をあげ、靴置き場の端に置かれた靴を見ていた。
『ガッ、ガッ、ガッ、ガッ……』と階段を駆け上がる賢人の足音に釣られて平岩も急いで階段に向かう。
『ダッ、ダッ、ダッ、ダン、ダン、ダン!』
「おい!凪乃!出てこい!」
廊下では茶色い外套と茶色い鉢巻をした男性が部屋のドアを叩き、怒鳴っている。
後ろには女性が一人、その男性を追ってきて丁度声をかけ始めた所だ。
「かざ……いや、景さん。彼女は心身ともに疲れています。寝かせておいてあげましょう?彼女が元凶と言う訳でもないですし……恐らく彼女も私達と同じような事しかわからないハズです……」
その女性とは秋穂であった。茶色い鉢巻をした男性は風間景である。景は秋穂の言葉に声を返す。
「ん?いやいや、秋穂小嬢!凪乃に気づかいは無用です!しかも春香小嬢が連れ去られた時、”近くにいた”、”頭を打たれて寝込んでいた”なんて聞いちゃー黙ってられません!……ちっ……、一丁前に部屋の鍵を閉めやがって!護衛を1人で任せたのは失敗だ!なに年頃の娘のような事をして!……こうなりゃードアを破るしかねぇか……」
それを聞いた秋穂は言い返す。
「それは申し訳ありません。”風間さん”?鍵を閉めたのは私です。お忘れかもしれませんが、彼女はれっきとした年頃の子ですし、私の配慮が失敗です。彼女はよくしてくれています。それにこのドアの事をもう忘れてしまったのですか?このドアは遮音性で特別頑丈なドアですから、いくらこちら側で喚いても部屋で眠っている人を起こす事は出来ません!それに、このドアを壊そうと思ったら重機を持ってくるぐらいしかないですよ!!家を壊すつもりですか?少し冷静になってください!」
ついに秋穂は怒鳴り声をあげた。『おや?……』その怒鳴り声を合図にしたかのようにして階段から出てくる者が一人。
「……ただいま秋穂。大きな声をあげてどうしたんだ?四期はどうしてる?法力警察の方はリビングかい?」
「あっ、お、お父様!」『け、賢人さん!こちらに……』
疑問を三つ重ねつつ、階段から現れた賢人に秋穂と景は驚いた。その驚きを受けて賢人は声を返す。
「……秋穂。久しぶり。”パパと呼びなさい”あれ?風間さん?……もお久しぶりです。四期と法力警察の人はリビングだな?また後で……」
賢人は場違いな言葉と疑問の返答を聞かずに廊下の奥・リビングへ向かう。
「お、おかえりなさい……」『パ、パパぁ?』
秋穂と景の言葉は言う人が逆であればニヤけていたかもしれないが、あいにく帰りの言葉を言ったのは秋穂で、賢人のリクエストに答えたのは景だった。
賢人はリビングのドアを『ガチャ!……』っと開けて中に入っていく。
『秋穂さん、お久しぶりです。お邪魔します。景さん?あっ、軽トラを運転して来たのは風間さんでしたか……』
続けて階段から姿を現したのは身長2m前後の大男、賢人の秘書である平岩だ。平岩は言葉を続ける。
「金山市長の秘書をやっております平岩です。お話は伺っております。初めまして。折り入ってお願いしたいのですが、駐車場の車をバックさせて駐車スペースに入れてもらえますか?残りの駐車スペースが少なくなってしまっています。」
「は?…………あぁ!」
景は一瞬言われた事を理解していなかったが、すぐに思い当たる。
「…………こりゃあいけねぇ!……うっかりしちまった!……あぁーーー……アイツ等が居たし、凪乃の情けない話を聞いてすっかり忘れちまってた……」
景は言葉以上に驚き、冷や汗を垂らし始める。反応が大げさだ。
景は近くに居る二人を見ると、これからの行動を組み立てたのか、落ち着いて口を開き始める。
「……平岩つったか?アンタ車を動かせるか?……キーはこれだ。適当に頼む。あと、積み荷を全部厨房へ運んでおいてくれねぇか?ガタイが良いんだ。簡単だろ?こっちは厨房の確認がてら仕込みを始める。秋穂小嬢は四期お嬢に伝言をお願いします……」
車のキーを受け取った平岩は『え?なんで?』と言う顔を一瞬浮かべるが、景の雰囲気に押され、仕方なくもキーを握る。
秋穂も景の、ただならぬ雰囲気に気を引き締めて言葉の続きを待つ。一瞬の出来事だ。
景の口から伝言と理由が言われる。
「……”会長”がこちらに向かっています。今年度の決算晩餐集会はここで開くと……それに加えて”会社”から春香小嬢の事を聞いて俺はここに応援としてやってきました。」
「なっ……おじい様が……」
「げ、限無さんが……」
それは春香と秋穂の祖父、金山限無の来訪を告げる物だった。




