#137~力のため息~
すいません……日にちの管理が出来てませんでした……ひと月ずれ込む形でお願いします。
飯吹が法力警察を辞めると言いだし退職届の書き換え等を見ると四期奥様は唇を噛み、握りこぶしを『ギュっ』っと握って震えさていた。
『ピーピーピーピー!』
地下駐車場のシャッターが外からの操作で開閉した事を知らせる音が鳴る。
「っ!……やっと……来てくれた……」
とそんな独り言を言う四期奥様の心境に変化が訪れる。
子の危機で本当に親身になれる人はその親だけだ。
すなわちそれは春香の父である夫・唯一無二パートナーの来訪を告げる音である。
「ん゛ッん…………どうやら夫が車で帰って来た様ですから、春香を助ける為にもこれからを考えなければいけません……そちらの考えはもうわかりましたし、貴方達の事にはこれ以上構っていられないので、お引取りをお願いします。」
四期奥様はもう用は済んだと咳払いをし、何もしてくれない法力警察の斉木達へ”早く帰ってくれ”と告げる。いや、”邪魔だから”のニュアンスが入っている。
『『『えぇ(?)……』』』
法力警察官達は手と息をとめ、その声に空返事をするが言葉が後に続かない。
『……い、いえ!……』
だが、斉木は尚も言葉を重ねる。
「……待って下さい。ここに残す事務員とはこの、飯吹をと予定していたモノでして……その……」
「彼女は現場で法力を扱う戦闘隊員なのでしょう?事務員ではないじゃないですか?貴方が仰っている事はもう聞いてられません!!助けると言うよりむしろ邪魔をしている様にすら感じます!金山家だからと私たちが苦しむようにしているのですか?」
斉木の尻すぼみする声に言葉を返す四期奥様だ。四期奥様の声は大きく、もはや怒鳴り声と言って差し支えない声色になっている。
「……い、いえ、そんな事はありません……聞いて下さい。法力警察官は仮面を付けた作戦行動中の時と、今ここに居る状態を含め仮面を付けていない素顔の時とでは別人として扱わなければいけません。本当は正体が特定出来る調書等を纏めたファイルも外部の人間に開示してはいけない決まりなのです。今回こうやって謝罪しに訪れたり、飯吹を事務以外の案件に従事させるのも本来してはいけない事でして……今回は法力警察官の隊員が目の前に居たにも関わらず、誘拐を許した特例として私が上層部に交渉して出来た事なのです、現場の者は解決したい事件として準備を進めていたのですが……なんともはや、我々もツライ決定だと抗議していた所です……」
少し解りづらい法力警察の内情を四期奥様は知らず、疑いの目をむける四期奥様である。その隣に並ぶ秋穂も似た様な表情だ。
斉木はしつこくも言葉を続ける。
「……つまり、今我々が用意出来る最強の事務員なのです。私はこの件で彼女には積極的に事件解決に奔走するべきだと思っています。……素顔で事務員の彼女でも凶悪犯に限っては緊急逮捕が可能ですから、法力を使わない一般の警官よりもお力になれるハズです!これだけは信じて下さい!……」
斉木は力強く言葉を続け、最後に『……ま、まぁ……』と声を潜めて一言付け足す。
「……彼女をここに残す名目である、助言や捜索・救出案を考える事に期待するのはお勧めできませんが……」
『っ?……』
斉木のしつこい言葉に間を空ける秋穂と四期奥様だが、『……でも今辞めるって……』と、不安なやり取りに引っかかりを覚える金山母娘。
「はっはー!最強の事務員とは言いすぎでしょう謄さん……まぁ、頼まれた事に関しては粋も甘いも悪い事もすべて引き受けます!大船に乗ったつもりでいて下さい!」
斉木と母娘は間に立つ、話の中心人物である飯吹金子(もうすぐ無職?)を見つめ、なんとも言えない空気を作り出す。
飯吹の的外れな声はスルーされ、居心地の悪い空間が作られている。
『あ、あの……』
そんな空間に耐えかねた一人、秋穂は飯吹へ口を開く。
「先ほど『今回の事件を最後に退職』と言ってましたが、ならなぜ6月20日付けで退職にしたのですか?……20日ってそれほど時間があるように思えませんが……」
秋穂は忍耐強く飯吹のペースに合わせ、退職日時について気になる事を聞いた。
『あぁ……』と飯吹は悪ぶれもせず、悪感情を抱いてない様な満面の笑みで返す。
「法力警察官の給料日なのデス!私の生家である”ゴルドラハウス”にお金を送る為、しばらく送金出来ない身の上としては最後に少しでも送りたいのデス!法力警察の退職金は雀の涙ですし!!」
なんとも現金な理由であった。
「なっ!……ご、ゴルドラハウスって……あ、あの……児童擁護施設出身の方だったんですね……」
四期奥様は明らかに動揺を示し、先ほどの怒りをどこかにやってしまう。
「ん?良くご存知ですね!私が居た所は今もう無くなっていますが、あそこはいい所でした……」
飯吹は目を閉じ、回想するようにして言葉を続ける。
「……なんと言っても、ご飯がとてつもなくおいしい所で、”身寄りの無い”私にさえお金も肩代わりしてくれて……」
飯吹は四期奥様の狼狽に気づかず、嬉しそうに言葉を返す。
『バガン!』
そのタイミングでリビングの下の方から金属の扉が開く音が響く。
地下駐車場に車を止め、金山家に帰ってきた者が、リビングに繋がる階段に出て来たのであろう。
続けて『ドタドタドタ……』と階段を駆け上る音が続く。
『ダンッ!!』
リビングの端にある急な階段から、最後の一段を勢いよく飛び出してくる人影があった。
その人は茶色い衣服を身に纏っている。
「あ、あなた?なん?……えっ?……貴方は……』」
四期奥様は飛び出してきた人の服が茶色いスーツだと思い、夫である賢人かと一瞬思ったが、背格好からして大分違う。
まずスーツではない。
「ん?……あんたら……ここまで来てる割に……」
その茶色い衣装の全貌は白いTシャツに白いスラックス、茶色い腹巻と茶色い外套を身体に着けている。
おまけに茶色い鉢巻を頭に巻き、歳を多少は重ねた中年男性で、四期奥様より二回りほど歳が上だ。
背は賢人より低いが眼光は鋭く、顔だけで数々の死線をかいくぐって来たと解る風貌である。
『あっ!』
その鉢巻を付けた男性はリビングに知らない人が居るのを見つけ、鋭い眼光でその場に居る面々を伺うと、四期奥様と秋穂を見てふたりにズンズンと近づいていく。
「どうも…………お久しぶりです……」
鉢巻男性はそんな再開の言葉をこぼすが四期奥様と違い、身なりが良いとはとても言えない。
いつも着ている服なのか所々シミとしわがあり、年季の入った普段着である。
だが、四期奥様の服は
しわ一つないラフな格好で、街中でも十分通用するほどオーソドックスな普段着である。
鉢巻男性の顔は真剣で悲壮感いっぱいだ。
堪らずにと言った感じで口を開く。
「……四期お嬢に秋穂小嬢!!一大事と聞いて駆けつけて参りました。久しぶりに会社からの”呼び出し”があったかと思えば春香小嬢が連れ去られたって聞きましてね!お嬢から頂いた仕事をホッポりだしちまいましたが、客も合間でしたし問題ないでしょう!」
鉢巻男性の早口に四期奥様は『え、ええ……』と言葉にならない言葉を出して驚くが、鉢巻男性は言葉を続ける。
「この風間景が来たからには地球の裏側まででも犯人を追って八つ裂きにしてやります!……」
鉢巻を付けた男性は風間と名乗る。顔に傷跡が何個もあり、その顔だけで壮絶な人生を送ってきた事がわかる。
「……あんたら……客人って訳でもないな?……」
鉢巻男性あらため、景があたりを根目回すと言葉を再開させる。
「……もし……もし春香小お嬢にかすり傷でも付けて泣かしたってぇんなら、俺が犯人をなぶり殺して春香小お嬢の気を晴らしてやります……」
景は物騒な事を言いはじめる。
それを聞いた四期奥様は『で、でもそんな事は……』と、諌めるというよりもなだめる様に否定するが、景は少し勘違いをしながらも言葉を続けた。
「……ああ、いえ心配無用です!……勿論ヤッた後は自首して”金山家とは一切無関係”だけを言い張ります!!この老いぼれにこれほど嬉しい仕事はありません!」
言っている事にたとえ”冗談だけど”と前置きを付けたとしても『実行しそうだ』と思う人のほうが多いだろう剣幕と雰囲気である。
『……』
そして目が点になっている斉木たちの反応に疑問を抱いた景は四期奥様に助けを求めるようにして声を出し始める。
「……ところでこの人らは誰で?……ここまで通す割に服装がきな臭い。おまけに茶の一つも出てないって事は招かれざる客でしょう?……まさか……春香小お嬢をかどわかした奴等ですかい!…………凪乃はどこ行ってんだ?!”警護の風間”が聞いて笑われちまう!やっぱり女にこの仕事は……」
景は自分の娘である凪乃を探すが見つからない。
風間家の本職は警護であり、お手伝いや世話等ではない。
荒事の観点から警護は絶対男。という風潮もあったが、少し前から女性の警護で四六時中行動を共にする。と言う風潮もあった。
そんな警護の移り変わりに向けて景は小言を言ったのかもしれないが、真相は彼しかわからない。
いや、景自身も分からないのかもしれない。
「……ちっ、仕方がねぇからひとまずここは”こいつ”で……」
芝居がかった声で騒ぎ、舌を打ちならした景は自分の懐である腹巻に手を入れると、背広に袖を通す面々をにらみつけている。
その顔と雰囲気は衰えてもなお牙を持つヘビが、獲物の動きを観察している様であり、己のキバを獲物に突き立てる一瞬前を思わせる。
『ピーピーピーピー!』
さらに、またも車庫が外からの操作で開閉した事を知らせる音が鳴る。
『はぁ……今度は誰?』と四期奥様は心労とストレスでため息を漏らすのであった。
私は帰ってきた!
しかし、ニソテソ堂の切り替え機にうつつを抜かしていると遅くなってしましました……アイアムレジェンド……
これから頑張って続けていきます。




