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力の使い方  作者: やす
三年の夏
137/474

#136~眼の力~

#135~力の(まなこ)~のBパート的なお話で、()の力です。

しかし、時間的には同じではないかもしれません。

すみません……日にちの管理が出来てませんでした……ひと月ずれ込む形でお願いします。

『ふぅ…………まぁ私だけではどうしようも無いわね……』

四期奥様は斉木から受け取ったファイルを読み終え、携帯電話を片手に一息()く。

場所は変わらずに金山家の応接室である。

「秋穂はうまくやってくれているかしら……」

秋穂に対応を任せていたリビングに向かう。応接室の隣にある部屋で玄関から一番離れた所にある生活空間だ。

本来は赤の他人で、あまつさえ面識の無い警察官を入れる事は無いが、電話機の親機・電話回線がここにある関係上、仕方の無い事である。

別段知らない人が居ても特に問題は無いが、この家に住む者が見れば新鮮な光景だ。


『ガチャ』『『『『っ……』』』』

四期奥様がリビングに足を踏み入れるとリビングに集まっていた面々がおおよそは似通ってはいるが、様々な感情で緊張する。

「あの、お母様……」

その中でも一番近くにいた者が一番に口を開く。それはもちろんだが娘の秋穂である。

「……犯人に目星は付いたのでしょうか?お、お父……様?……関連の者か、お、おじ……い……?様……にゆかりのあるお方か……」

秋穂は不自然に言葉を詰まらせながら聞くが、その場に居る者達は固唾を呑んで答えを待っている。

実は言葉として少し不自然な使い方があったのだが、そんな事では誰も口を挟まない。

『ああ……それで……』と四期奥様は場の空気に納得の声を挟んでから問いに答える。

「いえ、多分どちらでも無いと思うわ……」『『『ふぅ……』』』

四期奥様の声にその場の全員が安堵の息をつく。さらに言葉を続ける四期奥様である。

「……だから、私の知人と会社の有志で情報網を作ってくれたんだけど、それもお手上げね……今電力会社で働いている人が空いた時間で不自然な電力消費を洗ってくれてるけど、……とてもそれで特定出来るとは思えないし…………やっぱり私如きが出来る事なんてたかが知れてるわ……人員の確保から難しいしね……私が出来る事は犯人の接触を待つか、……誰かに協力を頼むか……」

さらっと言ってのける事が実は大層問題発言でもあるのだが、少しやつれ気味の顔で言っている四期奥様にはそんな事は聞けないと捨て置かれている状態だ。


問題は高度に政治的な可能性も考えられるし、チンピラ風情の反社会的行動が突発的に起こした騒動とも言い切れない事である。

金山家はすべてが規格外な故に敵が多い。逆に金山家へ恩と特別な繋がりを感じている人間も居る事から誘拐犯の特定が出来るかどうかはどっこいどっこい程度に思われていたが、情報が少ない点と事に当たる頭数が少なすぎた点の為に犯人のめぼしはついていない。

事実上犯人からの接触待ちしかない状態である。

一般的な家庭なら警察に任せるか犯人から接触を待つのが普通だが、金山家は一般の家庭とは少し違う。


『……しかし!そうは言っても!私が手の空いた時間にでもやらせて下さい!…………そうですが!……それでは私たちの存在意義が……』

リビングの片隅で背中をこちらに向けて声を出す男性が突然大声を出し始める。

「……あちらに居るのは……法力警察官の斉木さん?彼はどうしたの?」

突然の大声に驚いた四期奥様は秋穂へ言葉を向けた。

「……はい、法力警察の上層部に捜査の続行を言ってくれているそうです…………」

「え?」

秋穂の言葉に理解が及ばない四期奥様は秋穂の言葉を待つ。秋穂は言葉を続ける。

「……なんでも、捜査の縮小が決まったそうでして……清虹市を囲む検問もすでに撤収作業が始まっているとか……」

「え!?まだ何もやっていないのに?……なんでそんな性急に……ありえない!!」

秋穂の言葉に驚く四期奥様である。あまりの塩対応に狼狽していた。


そこへ『ダッダッダッ!』とやわらかい毛並みのカーペットで足音を鳴らしながら四期奥様と秋穂の二人に近寄る影が一つ。

「申し訳ありません!春香お嬢さんを守れなかった隊員です!……男子児童の危機に対処していた隙に春香さんを抱えた犯人を捕り逃してしまいました!」

その影とは中肉中背の体格を機敏に動かし、流れる様にして足を揃えて膝を折ると、おでこを床にこすり付ける女性である。

動きに合わせて夢と母性と脂肪を詰め込んだ胸が盛大に揺れるが、そんな事はお構いなしに動く姿は一部の見ている者の印象を不快にさせただろう。

「なっ……っ?、小学校に突入していた法力警察官の01(エース)と言う方?……」『っ……風間さんには会わせられないな……』

四期奥様も秋穂もその見事な脂肪を押しつぶす卑猥な土下座に言葉を漏らしてしまう。

どちらも不快と思うよりも胸を地面に押し付けて苦しそうにしている女性・飯吹を哀れに思っているのかもしれない。

四期奥様は斉木が渡した資料で知りえた01(エース)と言う隊員コード名の人物が女だった事に驚き、秋穂は部屋で寝ている凪乃がここに居ないことをなぜだか安堵している。

今年で19歳になってしまった凪乃”だからこそ”刺激が強い光景なのだろう。


「……貴女に謝ってもらっても私にはどうともできません。私が貴女に望むのは一刻も早い犯人逮捕だけです。謝って欲しいと思うより、より捜索を早くして欲しいと思っています。貴女がやるべき事は謝る事ではありません。顔を上げてください」

「よろしいですか……?」

四期奥様が言葉をかけている間に先ほど大声を上げた男性・斉木が通話を終えて、リビングに並ぶドア3つの真ん中にあるドア前にいる女性三人の間に入り込む。

「お話中に申し訳ありません。……この件で指揮を執る斉木です。…………さらにお詫び申し上げなければならないお話があります……」

「斉木さん?捜査ファイルをありがとうございます。……その前に秋穂から聞いたのですが、犯人の捜査を縮小すると言う話が挙がっているのですか?どういう事か私に納得のいく説明をして貰えませんか?」


斉木は脂汗を噴かせ、『はい……』と言い、滔滔と語り始める。

「……こちらのお話もその話になりますが、これ以上法力警察の捜索は成果を挙げられないと判断されました。以後法力警察はこの捜査に積極的に関わらない事となります。引き続きの捜査は一般の警察が受け持ち、我々法力警察は清虹署から持ち出した、これら通話録音機材と……助言役……として、事務員一人を置いて撤収致します……こ、今回は…………警察への捜索願いと被害届は我々からしておきますので……事件解決を……願っております……」

なんと今金山邸には捜査等を行えない事務員一人置いて、後は勝手にやれと言うのであった。

「なっ!?ナゼそのような事を言えるのですか!娘が連れ去られた親の気持ちがわからないのですか?貴方は!!っ……』

怒鳴り声と言うよりも、悲鳴に近い声を上げる四期奥様である。

取り乱さないで金切り声を上げただけなのは誇っていい事であろう。


四期奥様に流れる血がそうさせているのかもしれないが、なんともおかしな話である。

法力を使う誘拐犯を法力を扱わない警察に任せると言うのは法力警察の仕事を放棄しているのと同義だ。


その金切り声を聞く斉木は『くっ……』っと声なき呻き声を漏らし、その場に座り込んで土下座をしながら声を出す。

「申し訳ありません!私は金山さんと同じ……いえ、春香さんのクラスメイトである斉木茉奈を娘に持つ父親です。清瀬小学校の事件と聞いて居ても立ってもいられず、無理を言ってこの捜査を担当しましたが、力及ばず……この結果となりました。……このようになってしまった事をお詫びします。」

突然の告白に『なっ……クラスメイトの父親?!』『……』

それぞれの反応を示す秋穂と四期奥様である。斉木はおもむろにスーツの内ポケットから白い封筒を取り出すと、目の前にそれをおいて再度頭を下げながら言葉を続ける。

「これを金山さんに預けておきますので、気に入らなければ、何かあった場合はこれを提出してください。お気持ちは晴れない事と思いますが……せめてもの決意として預かって頂く様にお願いします。預かって頂けない場合でも置いていきますので……これでどうにか私の力不足をお許し下さい……私の手の空いた時間、休憩時間、休みの日はすべてこの事件解決につぎ込みます。必ずや春香さんがこの家に帰れる様に努力しますので、どうかご容赦を……」

斉木が目の前に置いた封筒には『退職願い』と書かれていた。


これを外部の人間がどう提出するのかは疑問だが、それを出しても構わないというほどの決意であるのだろう。

『こんな……』『ふん!……』

秋穂と四期奥様は斉木のその対応を見て、片方は狼狽し、もう片方は鼻で笑っていた。

鼻で失笑した四期奥様が封筒を拾いながら言葉を返す。

「こんな物もらった所でいらない物には変わりありませんが……受け取っておきましょう。それで貴方の気が済んで話が進むのならね……」

『……』『……』「はい、ありがとうございます!」

それを間近で見る秋穂は辟易するように絶句し、飯吹は無言で、斉木は心意気を汲んでくれた事に対してお礼を述べる。


『……』

しかしその封筒をじっと見つめ続ける者が一人いた。


『退職願い……』

飯吹だ。彼女の動きは早かった。

いや、どちらかと言うと、”気持ちの切り替えが”と言ったほうが良いのかもしれない。彼女は右手を前に出し、口を開く。


「ーーなら、その退職願いは私が貰ってもいいですか?」



『『『『『は?……』』』』』


見事に部屋に居る者の声がシンクロする。話をあえて無視して電話に録音機を付けていた若い男性警察官や金山家の女性二人も、である。

「……いやいや、飯吹君が私の退職願いを持っていても意味がないだろう?君は何を?……」

話がややこしくなって具合が悪くなるのは斉木だ。彼が一番早くに部屋に居る者の創意を汲んで声をかける。

それでも飯吹は四期奥様に向けて手を伸ばし続けている。

『……えぇ……ぇ?……ま、まぁ……いらない物ですから、こちらとしては構いませんが……』

四期奥様は意味も解らず、飯吹にその封筒を渡してしまう。


人間は本当に意味がわからなくなってしまうと簡単な動きしか出来なくなるものだ。

四期奥様は飯吹の行動がまるで読めない。


「どうもありがとうございます。それでは早速失礼して……」

飯吹はおもむろに退職願いと書かれた封筒を開けて中の便箋を取り出し始める。

「ちょ、ちょっと、理由を……」

と斉木の静止する声も虚しく、便箋に書かれている事がつまびらかに開かれる。


『______________○○○○年 月 日

 法力警察

_______退職願い

清虹署 特捜課 斉木謄 警部


このたび一身上の都合により、 月 日をもって

退職いたしたく、お願い申し上げます。

なお、退職後の連絡先は下記にお願いします。


________記


・住所

〒100-△△△△

△△△清虹市土旗1-△△-○○

・電話番号

01ー△△△△-△△△△

_________________以上


_______________斉木謄 (斉木印)

_______________________』


「ふーん……退職願いってこう書くのか……あれ?……退職届け?……あれ?違う?」

飯吹は率直に感想を述べる。感想と言うのもおかしな話なのだが、退職願いの中身などはそうそう知るものでもない。


ちなみに、退職届けと退職願いは基本的に同じものだが、”退職届け”の方が退職する意思を強く表している。

退職願いは受理される前に取り下げれば、その後どう思われるかは別として取り下げられる事があるが、”退職届け”となると取り下げは出来ない物として扱われる事が多い。

勿論、各組織の決まり事なのでケースバイケースだが一般的に退職届けは有無を言わせず退職する意思を表す物として扱われる。

本当に個人的な理由であれば誤解を招かない様に”退職願い”にする所もあるだろう。


「ちょ、ちょっと、何を……」

斉木はたまらず抗議の声を飯吹にあげるが、飯吹はそれに反発する。

「まぁまぁ、もうコレは金山さんの持ち物ですし、金山さんから貰った時点で私の物ですから、問題は無いでしょう?」

飯吹は尤もな事を言うが、なんとも締まらない成り行きである。飯吹は向き直ると秋穂に向かって口を開く。

「あのー……ペンを貸して貰えませんか?」

「は?……はぁ……まぁ……えぇ?……っと、こ、コレで……」

突然の要望で呆気にとられながらも、近くの物入れからボールペンを抜いて渡す秋穂である。


飯吹は『ども!』と軽く言うとリビングのテーブルに斉木の退職願いを広げて書き足していく。

彼女の奇行を誰も止められない。

『……ふーん……ふーん……出来た!』

飯吹は雑にペンを紙面上で躍らせると、それを持って斉木へ歩いて行く。

「どうぞ、これを貰って下さい。」

『はぁ?な、何を?……』

斉木が自分の退職願いを見ると、そこにはこう書かれていた。


『______________○○○○年6月1日

 法力警察

_______退職願

清虹署 特捜課 ×斉木謄 ×警部

________→飯吹金子

このたび一身上の都合により、6月20日をもって

退職いたしたく、お願い申し上げます。

なお、退職後の連絡先は下記にお願いします。


________記


住所__→□□□□

〒100-×△△△△

△△△清虹市土旗×1-△△-○○

電話番号__??→1-△△-□□ ●●ポート001号室

01ー×○○○○-△△△△

_→-△△△△-△△△△____以上

_______________→飯吹金子 (飯吹)

_______________×斉木謄 ×(斉木印)

_______________________』


「×と矢印を付けて書き直すのは……判子もこれじゃ……って?……君は一体何を?」

斉木は頭痛をこらえるようにして飯吹に声をかける。

飯吹は真面目な顔で退職理由を語り出す。

「いやぁ……そろそろ私も結婚しなくてはならないので、婚活に専念しようと思います。ですので今回の事件を最後に退職します。お世話になりました!」

彼女の敬礼はいつもと違い、背筋を伸ばしたとてもきれいな物で、彼女の目に迷いは無かった。自分の行動に疑問を持っていない、自分を信じる眼である。


『ピーピーピーピー!』

ちょうどその時、駐車場シャッターが外からの操作で開閉した事を知らせる音が金山邸に鳴り響く。

誰かが車で来たのだろう。外から開閉を行えるのは家族に持たせたリモコンだけだ。

久しぶりの家族が金山家に来た証拠である。

出先での製作と投下です。

至らない文がさらに至らない文かもしれませんががんばります

次回もいつあげられるか未定です。

取り消し線って小説本文には付けられないのですね……活動報告だけとは……×は文字の上に描いたと言う事でお願いします。

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