#131~力の家族計画~
「調子は?」
斉木は紺色のバンの助手席うしろへ声を向ける。
スライドドアだけは開けっぱなしであり、中にはモゾモゾと動く気配がある。
『つらい……』
ボソッとつぶやかれた声は声量の割にハッキリとしていて、反応も速かった。
「……つらいだけなら大丈夫だろう?早く出てきなさい。これ以上ぐずぐずしているなら査定にマイナスが付く様に記録する。」
斉木は車の中へ無慈悲な言葉を告げる。車の中でモゾモゾ動くのがとまると、中から顔だけが出てくる。
「はぁ…………トウさん……子供でも作って寿退社したいと思いました……もうこの際だから、私と子供を作ってもらえませんか?」
車の中にいる女性、飯吹金子が白いTシャツにジーパン姿である。愛の告白を伴う登場だが、声の質はかなり投げやりだ。
「なんだね!その態度は!君は都合が悪くなるとそういうおふざけで流そうとするから署の男性は誰も君を誘わないんだぞ!妻子を持った私をからかう暇があるなら早く車から降りなさい!いくら初めて仕事で汚点を作ったとしても、やって良い事と悪い事の分別は付くだろうに!」
『君みたいに嫌な仕事で手を抜くから昨今の法力警察は…………』と斉木は説教を続けるが、当の飯吹はそのありがたい説教をスルーして『とぅ!』と車から飛び降りる。
今回魔人と称される男も飯吹が発現した風系法力の技で無力化していた。
風の技を絶え間なく発生させて皮膚を乾燥させる事で意識を失い、その間に確保したのだ。
例のごとく意識が覚醒しないのでジャージ集団について情報の収穫は未だないが、これで魔人と称される男性二人を倒したのは紛れもなく01あらため、飯吹である。
飯吹の様に仮面で顔を隠して法力警察の仕事をする者は一般的な警察官と給料体制が違い、いわば成功報酬型で基本給等はずっと変わらない。加えてボーナス等は皆無であり、仮面を付けている時は隊長職の者であろうとも素顔を晒している時は警官と言うより警察組織の事務をする警察事務の下に位置する人材として扱われる。
勿論だが法力警察の仕事が第一とされるので手が空いている時だけ、事務が忙しい時だけに従事するのが普通だ。
一応は公務員試験を優秀な成績で通過すれば素顔の時でも警察官として仕事が出来るが、そういう人材は数少ない。
斉木の様に法力警察でも素顔で仕事をする40台以上の一部職員はもともと警察組織に身を置く者だが、飯吹のように仮面を付けて仕事をするのが主体な40より下の世代の者はその多くが粗野な態度で仕事をする者たちである。
彼らの悪評が今の法力警察の給与体制等の境遇を招いているのだが、一度評判が落ちぶれた組織の信頼回復はほぼできないと言っても過言ではない。
「はっはー、冗談ですよー……」
軽い口調でごまかしながらスライドドアを閉める飯吹。
『ふん……』とため息をつく斉木だが、彼はお人よしでもあり、飯吹の事を案じる面倒見の良い上司でもある。
「……まぁ、結婚したいと言うのなら、他の部署の男性を今度紹介しよう。君もそろそろ身を固めた方が良いのは事実だしな。」
飯吹は斉木の言葉を聞くと即座に言葉を返す。
「あ、いやいや、同じ職業の人は恋愛対象じゃないんで良いです。同僚の人とかから色々と想像されそうで恥ずかしいじゃないですか。まぁ、たまにそういう人もいるし、ヤってる事はむしろ褒められるべき事なので否定はしないですけどね。ちょっとその気持ちは理解できないかなーと、……トウさん、他に良い人いませんか?私もそろそろ子供が欲しいですし!」
『そ、そうか……そんな風に思われて……』と頬を赤く染める斉木は死んでも職場に家族を来させないと誓うのであった。
法力警察官の警部に留まり、飯吹の上司として課長を務める斉木謄は元婦警の妻と家庭を築き、今回の舞台となった清瀬小に通う女子児童を娘に持つ男性である。
誘拐された金山春香とはそれほど面識はないが、あの金山家の娘と言うだけで連れ去れるのは不憫で仕方がないと躍起になっているのであった。多少空回りしているのは大目に見るべきであろう。
こうして金山家は誘拐された春香を奪回するべく、着々と準備を進めるのであった。
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『ググググググ…………』
『ググググァアアアア!』
地面は突然消えてなくなり、上下の感覚がなくなる。
『うわぁぁあっ…………』『きゃーーーーー……』
たまらず悲鳴をあげ、気がつけば四つん這いで地面の上にいる。昼の陽光が感じにくくなったが、変わらず頭上では日が照っている。
だが、青空が一面に広がっているわけではなく、空はいつの間にかできた壁に阻まれていた。
『ググググググ…………』とまだ地面は揺れているが『ああ!』と聞き覚えのある悲鳴が聞こえる。
よくわからない生き物に抱きかかえられた女の子は何処か遠くへ行ってしまう。
たまらず走り出した自分に向けて、抱えられている女の子は言葉を発する。
『かちゅやのバカ!』『かちゅやのせいで!』『かちゅやが邪魔したから!』
「うるせーーー!俺は”かちゅや”じゃねーよ!」
たまらず言い返すがハタと気づく。気が付けば名前を直せはその言葉は正しい。
”かちゅやが邪魔したから”……
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そんな悪夢から目を覚ます。
朝起きたばかりでまったくもって運動などしていないのに、とてつもない疲労感と玉のような汗をかいている。だが、息は正常だ。
『はぁ……』とため息をつく少年が一人。
場所は彼の家で、彼の部屋である。
すると
『コンコン』「勝兄ぃ!朝ごはんだよーお母さんが呼んでるよーー……」
ドアがノックがされ、ドア越しに声がかけられる。
言葉尻は小さく、どこか元気がない声でもあった。
朝は即フルスロットルが出来る、朝に強い厘なのだが部屋にいる少年が落ち込んでいるのでその雰囲気に流されている。
時間は金山家に私服警官の斉木が一人で訪れた頃であり、朝は早い。
『……』
返事もせずに黙っていると、『ダッダッ……タタタ……』とドア向こうの厘が走り戻って行ってしまった。
殆どの日は起こされる前に起きるので、部屋から返事もしない、出ても来ないのでしびれを切らして戻ってしまったのだろう。
『今日は日曜日だし……』と思うが、そういえばしばらく学校は臨時休校として休みとなる。
今の勝也ほど学校に行きたくない人間はいないだろうが、これほど臨時休校に嫌気をさしている人間もいないハズ。
少年とは勝也である。昨日襲撃された清瀬小学校に通う三年生だ。
あの時、霧で視界が悪い中で動いたのは失敗だった。
動かないでいれば法力警察官は自分に張り付かなかっただろうし、張り付いて魔人を倒した隊員が春香を追えば犯人が逃げる前に捕まえられていた……かもしれない。いや、今よりも良い状況なのは間違いない。
「勝也―?起きてる?開けるよ~」
『ガチャ』っと開けるのは勝也の母親の澄玲。
「なんだ、起きてるじゃない。早くご飯を食べましょう?」
澄玲は『うん……』と下を向きながら返事をする勝也を見て大体の事情を察する。
「昨日のは……仕方がないよ。勝也がいてもいなくても同じ結果になっていただろうし、あの肌が青くなってた男の人も私が腕は縫合したから後は目が覚めるのを待つだけ。春香ちゃんは……警察が何とかしてくれるよ。」
それでも顔を上げない勝也に澄玲は尚も勝也が安心する事を言う。
「勝也には黙っていたけど金山家はすごい家だから、身代金とかは言い値で出すだろうし、それを知ってる犯人は間違っても春香ちゃんをどうにもできないよ。多分……間違って傷でも負わせたら、犯人は地獄の沙汰まで苦しむだろうからね……」
『え?』と驚く勝也はその反応以上に驚いている。母親の澄玲は命を大事にする人間であり、その人間があろうことか、死後行くところと言われている、”地獄の沙汰”と表現するのはありえない。
それぐらい金山家と言うのはすごい家なのだろう。確かに金山家は広く、風間凪乃と言う使用人を育てて住まわせているのはただ者ではないと思っていたが、勝也の想像以上なのかもしれない。
それを証明するかのように澄玲は言葉を続ける。
「あのね、春香ちゃんのおじいちゃんで金山限無って言うおじいさんが昔清虹市でこんな事を言っていたの。『……人が悪い事をする時。……それは必ず解決できる。だけど、解決するのに時間がかかっても、……何かをなくしたとしても、それは恥ずかしく思ってはいけない。……大事なのは変えたいって気持ちで、……それが出来る人は強い。私は強くなりたい。』ってね。あのおじいさんの娘である四期さんならすぐに解決できるハズ……だから春香ちゃんが帰って来た時に一緒に喜んであげれば良いのよ勝也は。」
澄玲は所々つまりながらも、勝也に理解できる言葉に変えながら演説の内容を教える。
金山限無とは、ある人は恐れおののき、ある人は羨望し、またある人は直視できない、ツワモノである。
それを根に持って春香達家族に冷たく当たったり、春香達家族を目の敵にする人が清虹市にはいるのだが……
今回の金山家令嬢誘拐事件の真相を知る数少ない人達は、金山限無その人が原因と大人の皆が思っている。
しかし、当の勝也はそんな事を知らずに『俺が……いなければ……』と小さく漏らす。
「勝也。あなたを産んだのは私が……今の凪乃ちゃんぐらいの頃なんだよ。」
『ぇ!』と勝也は驚くが、年齢を逆算すれば確かにそれぐらいかも知れない。
「あの頃は大学で医者になろうと必死だったから、産むのはやめようと思っていたの。でも限無さんは違った。」
『え?でも……』と勝也は言うが、澄玲が言葉を続ける。。
「私が勝也を産むのをあきらめようとした時に、限無さんが勝也を産んで育てられる環境を作ってくれたの。私が勉強している間は勝也を預かってくれる所を造って、お金を出してくれる環境を作ってくれたりね。」
「え?春香のおじいさんと知り合いで、春香のおじいさんも政治家だったって事?」
勝也は春香の父親が市長な事を踏まえて尋ねると、澄玲は顔を横に振る。
「いえ、私のため、と言うよりは、そういう制度を作ったって事なんだけどね。全然知り合いでもなんでもないよ。だから私たちは限無さんを悪く言わないし思わない、それに、勝也がその限無さんの孫である春香ちゃんと仲良くしているのはすごくうれしい事なの。」
『ふぅん……』と勝也は他人事の様に思うのであった。
しかし、勝也の思う事は母親の澄玲の思惑と少し違う感想を持っていた。
『強くなりたい。』と。だが、それは限無の演説を考えると、間違ってはいなかった。
前回の三つはタイトル的に必要でした……
頑張ります。




