#130~力の対策~
バンから出てきた人数を減らしました。
申し訳ありません……
「ん?風間さん?」
秋穂は凪乃が気を失っている事に気づくと、それまでの言葉の激しさから考えられないほどやさしく凪乃を後ろから抱き、そのまま凪乃の身体を持ち上げてベッドに寝かせる、
「すみません。どうやらまだ風間さんはショックから立ち直れない様です。目の下に濃いクマが出来ているところを見ると、一睡もしていなかったのでしょう。無理な事をさせてごめんなさい。凪乃……」
後ろで腰を抜かしている斉木に声を続ける。
「……鼻血を出してしまうなんて……よっぽど疲れていたのかもしれません……やはり彼女には休んでもらいます。聞き込みは後でお願いします。」
秋穂は近くにあるドレッサーからティッシュを取ると凪乃の顔を拭き、鼻にそっとティッシュを詰め、その寝顔を見る。
『え、ええ……』と斉木は腰砕けの状態から復帰すると秋穂にこれだけは聞いておかなければならないと粘る。
「一つ聞いておきたいのですが、四期さんのおっしゃっていた、『風間さんは気になる事も言っていた』とは何を言っていたのでょうか?参考までに教えてもらえますか。」
「……はい、私もハッキリ聞いた訳ではないのですが……」
秋穂は言うか言わないか迷うそぶりを見せる。
だが、彼女は言うでも言わないでもない選択をした。
「……ともかく廊下で話をしても構いませんか?」
「……失礼しました。では……」
斉木は眠っている怪我人の横では話が出来ないと足取り早く部屋の出口へ向かう。
秋穂もそれに続き、部屋の内側から施錠するタイプのカギをかけ、彼女はドアを閉じる間際、肩越しに『お休み、風間さん』と寝ている凪乃に言うと、ドアをそっと、物音を立てずに優しく閉めた。
廊下で反転した斉木は秋穂に喋り始める。
「いや、申し訳ありません。大人の対応として配慮が欠けていました。彼女も貴女も若いのしっかりしている。なのに市民を守る我々法力警察官である私の方が浮足立っていまして……」
斉木は先の一幕は自分の失態であると、自分より二回りは若い秋穂に頭をさげる。
対する秋穂は斉木の目を見て返す。
「いえ、慌てて殺気だってる母と逆の感情で殺気だっている風間さんを間近で見ているから私は冷静でいられます。私一人なら当てもなくしらみつぶしに清虹市中を練り歩いて犯人を捜していたでしょうから。」
「……いえいえ……我々がしっかりしていれば……」
そんな事を臆面もなく言う秋穂の目が本気なのを、見て見ぬ振りをする斉木である。
どちらも否定の言葉を言っていては埒があかないと判断した秋穂は腕組をしてしゃべる。
「風間さんの言っていた気になる事と言うのですが、どうやら例のテロ集団の狙いは、春香の誘拐だった。と言う事です。私も要領を得ていませんが、犯人の一人が『春香を借りたら返す』とかなんとか言っていたらしく……風間さんに詳しくそれを聞こうと思えば、私や母を見ると『春香を探しに行く』と無理をするもので風間さんと話が出来ていない所でして……」
『ピンポーン』
秋穂がしゃべり終えた拍子に、来訪者を告げるチャイムが金山邸に鳴り響く。
「……また誰か来たようですね。失礼します。」
秋穂は斉木に断りを入れ、玄関横の壁に備えられているインターホンの受け口へ移動する。
「ああ、説明が遅くなりましたが、おそらくは我々の同僚で、誘拐犯の対策チームでしょう。」
そういう斉木が後に続く。かなり後手後手の対応をしている斉木だった。
秋穂がインターホンの受け口に付けられている画面を見ると、斉木の言う様に斉木と身なりが似通った男性が紺色のバンを後ろに置いてインターホンの前を陣取っている。
「ああ、やはり彼らは私の同僚です。私も一旦車まで行きましょう。」
画面を横からのぞき込むとそんな事を言う斉木。
対してそれらを知った秋穂は『いえ、うちの駐車場を使ってください』と言い、インターホンの受け口周りにあるボタンを二つ押すと、受け口のマイクへ向かって話しかける。
「話は伺いました。降りた所で申し訳ありませんが車に乗って門の周りを時計回りに進んでください、右手に駐車場があるのでそこに車を停めて貰って構いません。こちらも駐車場に行きますので。」
外でインターホンを聞く私服警官はインターホンの声を聴くと、頭をさげてから紺色のバンに乗り直し、車を発進させる。
金山邸の門向かって左側はなだらかな下り坂となっており、少し行くと道が下がる関係で門から続く塀が高い位置に上がっていく。
金山邸の側面には車が二台出入りできる程度の幅で穴が開いていた。穴の上を見るとシャッターが開いたのであろう事がわかる。
バンのライトが照らす先には、車10台程が停められる空間が広がっていた。地下駐車場である。
車が入るのと同時に天井の明かりがつく。駐車場には見えるだけで車が二台置かれていた。
『キキッ!』っとスリップ音を軽く鳴らし、バンは手ごろな場所に駐車する。
『バガン!』と金属製のドアが開く音が地下駐車場に響くと、バンが入ってきた辺りの影から人が現れる。秋穂と斉木だ。どちらもサンダル姿でここまで来ている。
地下駐車場は台所と小さな部屋が置かれている廊下が階段で繋がっている。
秋穂と斉木は廊下の階段を下りてきたのだ。
『バン!』『バンッ!』『グァーガタン!』『タッタッタッ』
秋穂と言うよりは、斉木が姿を現した事でバンから人が降り始める。
バンからは2名の男性が出て来た。そのうちの運転手を務めていた若い男性が秋穂に近づくと声をかける。
「っ!おはようございます!金山四期婦人!捜査のご協力に感謝致します。この家の電話機に録音機と逆探知を手配させて頂きました。」
『あ……あの…………』
秋穂は驚くが、勢いに飲まれて言葉が出ない。
その警官は短髪に背広と斉木と同じ様な服装だがネクタイを締めている。多少の釣り目に若々しい肌が目立つ20代後半の男性警察官だが、元気の良さで歳よりも若く見られがちの者であった。
若い私服警官が間違いに気づかず、続けて斉木へ向き直ると声をかける。
「斉木警部、飯吹警部補も同伴しております。車におりますのでお声をかけておいて下さい。あと、電話機はどちらにありますか?電話機に録音環境の付与作業を進めておきます。」
それを聞いた斉木は若い私服警官に釘をさす。
「いや、彼女は長女の秋穂さんだ。四期奥様は上の広い部屋……ドアがない応接室に居る。そこの階段を上って直進して左だ。すべて彼女の確認を取る事。怪我人もいるので迷惑をあまり掛けないように配慮しなさい。」
斉木の指示に『はっ!』と敬礼すると秋穂へ再度声をかける私服警官だ。
「申し訳ありません!自分は萩原正平巡査部長であります!四期奥様は若くてお綺麗だと評判でしたので間違えてしまいました。重ねて謝罪します!申し訳ありません!では失礼します!」
そんなフォローの様な、フォローになっていない様な声の萩原は後ろに控えていた同じ身なりの同僚1人を引き連れて階段を上っていく。
後に残る秋穂は”お母様と間違われた事”に、ショックを受けるべきか喜ぶべきなのか分からないでいた。
その秋穂の様子を横目で見て気づいた斉木はフォローを出す。
「部下が失礼しました。彼は元気が良いのですが、思った事をすぐ口に出してしまう者でして、お世辞ではなく本心で綺麗といったので、悪く思わないでください。」
『いえ、母は40台ですからね………………20代の私が間違われると言う事は、やっぱり私は更けて……ゴニョゴニョ……だから彼氏……というか好きな人も……ゴニョゴニョ……同性に……ゴニョゴニョ……』
「では私は少し……失礼します……」
藪蛇を察知して紺色のバンに退避する斉木は側面のスライドドアへ向かうのであった。




