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力の使い方  作者: やす
三年の夏
130/474

#129~力は優しく~

少しばかり秋穂の台詞を付け足しました。

分かりにくい性癖で申し訳ありません!

秋穂は斉木から目を反らして逡巡するが、ファイルに目を落とす母親の四期奥様は、はっきり言ってしまうとかなり動揺している。

秋穂の父親、つまりは四期の夫である清虹市市長の金山(かなやま)賢人(けんと)を、学生時代の呼び方であろう『賢人君』と初対面の人に言っているのが証拠だ。

家族を含む親類縁者の前では「賢人さん」と呼び、初対面の人や、父親に用事があってくる人の前では『夫』か『金山市長』と呼ぶ。二人だけの時にはなんと呼ぶのかまでは知らないが、少なくとも今『賢人君』とは呼ばないだろう。


「……いえ……では、……部屋までご案内します。そのほうが彼女も良いでしょうから……」

秋穂は言葉に苦みを覚えながら言うと、『こちらです』と言って、訝しみを覚えつつも真顔の斉木を先導する。

「待って、秋穂?」

四期奥様はファイルから顔を上げると、部屋を出ていこうとする秋穂に静止をかけた。

「風間さんの所に?あの様子じゃ彼女…………」

四期奥様も逡巡している様だ。

「……いえ、そうね……」

四期奥様は考えをあらためてを言葉を続ける。

「……風間さんは気になる事も言っていたし……どちらにせよ話を聞くなら、私達よりも斉木さんの方が適任なのかも……あの子も大変だから……無理そうなら優しくしてあげて。呼び止めてこめんなさい。」

四期奥様も秋穂と同じ考えに至った様子で秋穂の考えを肯定した。

「はい。お母様。心得ています。では行きましょう。斉木さん。こちらへ」

秋穂は応接室の部屋を出て玄関の方に向かう。


金山邸は玄関から左右中央に廊下が伸び、玄関から一番遠い所にリビングがある造りだ。

玄関からみて左の通路には小さ目の部屋がいくつか置かれており、右の通路の先にはキッチンが置かれている。


玄関近くを迂回する頃に秋穂が斉木に話しかける。

「斉木さん。風間さんは精神的に追い詰められていて……情緒が不安定になっています。本当は病院で安静にして欲しいので私達は入院するように言ったのですが……本人が嫌がるので『家で療養する』という形でこちらに戻ってきてしまっていて……」

「あ、本人の意思で!そうでしたか……てっきりあの限無(げんむ)さんの指示かと思っていました……」


斉木はここにはいない人を持ち出して幾分か表情を和らげる。

「……一応は救急車の中にいた法力医師の診断だと、大事には至らない怪我のそうです。……ですが、頭を打っているので私たちは検査するように言ったのですが……斉木さんからもそうするように言ってもらえませんか?」


秋穂は言葉と足を止めて、一つの部屋の扉を見る。

「ここが風間さんの部屋です。申し訳ありませんが、貴方がノックして声をかけてから部屋に入ってください。私はここで待っています。もしかしたら眠っているかもしれませんが……」

秋穂の声は重く、それを聞いた斉木は『は?あ、はい』と応え、ドアの前に立つと右手で拳を作る。

『コンコンコン』

「法力警察の斉木です。お話を伺いたいのですが、部屋に入ってもよろしいですか?」

『ピッ………………』

返事がない。ただ静けさが返ってくるだけだ。

「……はい、ではどうぞお入りください。」

斉木の後ろに居た秋穂が声をかける。それを聞いた斉木は狼狽えるようにして秋穂を見返して言葉を返す。

「え?い、いいんですか?お返事は無いように思いましたが……寝ているのではないんですか?」

「?今返事があったと思うのですが……声が小さかったので聞き逃してしまったようですね……大丈夫です。お入りください。」

「……そうでしたか……では失礼します。」


斉木はドアを『ガチャ』っと開けて中に足を踏み入れる。

部屋は暗く、廊下から来る明かりしか光源がない。


部屋は長方形の間取りでできており、衣類を入れてあるのだろうプラスチックのボックスやタンス調のボックスが所せましと置かれ、その奥には数点の小物が置かれているドレッサー、机、テレビが雑多に置かれていた。

部屋の出入り口は長方形の長い辺の端にあり、ドアの右端から左奥に対角線が引ける横長の部屋だった。左奥にはベッドが置かれ、ヘッドの上には上体を起こし、頭に包帯を巻いた顔をこちらに向ける女性がいる。


斉木は上着のポケットから端末を取り出すと話し始める。

「お休み中のところ申し訳ありません。昨日、学校で起こった事を順序立てて聞かせてほしいのですが、今お話しを聞いても大丈夫ですか?」

『……』

その女性、凪乃は顔を斉木に向けると黙って顎を引く。……ように見えた。頭に巻いた包帯が痛々しい。

それに加えて、斉木は未だ一言も彼女の声を聞いていない事に不安を覚えるが、それは先程の秋穂の言葉にあった、”情緒が不安定”と言う事で納得させる。

「……はい、ではまず初めに清瀬小学校に訪れた理由はなんでしょうか?深い意味は無いので、簡単に答えてもらってかまいません。」

『……』

凪乃は身じろぎをするが、口を開けようとはしない。

「ふむ?もしかして喋れなくなってしまいましたか?貴女は襲われたのですから、無理もありません、一度カウンセリング……を受けた方がいいかもしれませんね。」


斉木はふと、喋りながら疑問を感じた。先程四期奥様は『風間さんは気になる事も言っていたし』と言っていた。

勿論、後から何らかの理由で事件をフラッシュバックして精神的に参ってしまう事もある。

喋るに喋れなくなる症状・失声症(しっせいしょう)と言うのがそれだ。神経的な機能不全が原因でもなるが、強いショックやストレスにさらされて喋れなくなる事が多い。

よく失語症と混同されがちだが、失語症と言うのは喋る事に加え、聞く読む書くが出来なくなる、脳の収縮が原因で起こる症状である。


『まぁ、そろそろ春香さんの対策班がこちらに来ますし、私がちょくちょく様子をみて『お!』……?』

しかし斉木は最後に余計な事を口から零してしまった。凪乃は斉木の零した『春香さん』と言う言葉で過剰に反応する。

『バサァ、ガタン!』凪乃ベッドから飛び跳ねると斉木に飛び掛かり、口を開く。

「お嬢様はどこですかぁ!私は、私はぁーー!……ぐっ……」

凪乃は唇を噛みちぎり、大の大人で恰幅の良い斉木をその細腕で抑えて大声をあげる。

『バタン!』「何をやっているんだ!っ!風間さん!」

部屋の外で待っていた秋穂がドアを勢いよく開けると、風間を見て動き出す。

『あっ!』『ぐっ!』

秋穂は刹那の動きで凪乃の腕を包むようにして首を押さえ、羽交い絞めにする。

「あ、秋穂お嬢様!放してださい!凪乃は春香お嬢様を探しに行きます!見つけるまでは帰ってきません!いえ、帰れません!行かせてください!」

「駄目だ!風間さん!貴女は冷静じゃない!どうしても行くと言うのなら、私は貴女から離れないし、この手を放さない!それでも行くのか?!……行かせるモノか!」

『んふっ!』

秋穂の熱い言葉に凪乃は頬を赤く染めて鼻血を垂らすと気絶する。

頬を赤く染めて唇から血を流しつつ、鼻から血を出しながら気絶する凪乃は、はっきり言って下品であった。


女二人が絡み合いつつ(うち一人は流血)、それを腰砕けながらも見上げるいい歳をした男性・斉木は思う。

『”優しく”ってこれかーーーーー!』

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