#12~力のない日常~
昨日の事件から一晩経ち、次の朝である。
勝也達は小学校の通学路を二人で歩いていた。
厘が『金山家に泊まりたい!』とグズったが、春香が説得して帰えった次第である。『ウチは危ないから…』と…
襲撃の後、すぐに警察や消防に連絡したが、全て終わった後という事で特に進展はなく、気付けば家の前に怪しい機械が設置されてあり、それを撤去すると携帯電話も使える様になった。
勝也の水爆発で壊れた廊下、初めに襲撃された壁や門はほぼそのままだが、四期奥様は『大した損害』では無いと、特に気にしていなかった。
ちなみに厘は意外にも朝に強く、勝也達より随分早くに登校している。
勝也が一番気にしている案件はすぐ近くを歩く、不満顔の幼馴染である。
「なぁ…悪かったって、許してくれよ…春香…」
昨日から謝っている勝也はすでに謝り疲れている様子。
「ふん!『舌を伸ばして気道を確保』なんて…変な事を強要された身にもなってよ!簡単には許せない!!」
昨日、春香が転んだ拍子に舌を噛み、それを診た勝也は痛がっていた春香に『舌を伸ばして気道を確保するよう様に』等と言ったが、これは誤りである。
これは舌を噛み切り、舌を自分で動かせない程の痛みがある時の対処で、多くは本人が自分でする事では無い。
澄玲医師が診た診断では、これぐらいの傷なら『あまり舌を動かさない様にして安静にしている事』だった。
口内の回復は早く、多少の傷なら清潔にしていればほっておいて問題無いそうだ。
「悪かったって…まさかずっと舌を伸ばし続けるとは思わなくて…」
「お医者さんの息子に、それっぽく言われたら真に受けるわよ!!」
『ごめん…』と返した勝也は本当に申し訳なさそうだ。春香は名誉挽回のチャンスを考える。
「そうね…なら、次に私もいる場所で自己紹介をする時、大声ではっきり聞こえるように『雨田かちゅやでしゅ』って名前を言いなさい!言ったら許してあげる。」
春香の名誉挽回は汚名挽回のチャンスだった。
『な、なんでだよ…?』と返す勝也に春香は続ける。
「舌を動かさなかった者の気持ちを知って貰う為。いい!?次の、『不自然にならない、私もいる場所で、私も聞ける自己紹介』だからね!例外は無し!」
『いつそんなタイミングが来るんだよ…』と思う勝也は考えなしに
「あー…ハイハイ…」
と適当に流した。
この判断は後に勝也を苦しめる事になる。
勝也達が校門に着くと、先生たちが校舎から出てきて児童たちに向け、朝の挨拶を行っていた。
「おはよーございます!!」「おはようございます!!」
勝也達の担任教師、神田圭介は三十台前半の先生としては少し億劫そうで鷹揚な、ユニークさが目立つ先生だった。しかし、そうそう間違った事は言わず、良くも悪くも話題が無い先生である。
「おぅ~おはよう!!雨田に金山ー」「「おはようございまーす!」」
勝也達は担任の先生でもある神田先生に朝の挨拶を返す。
「ちょっといいか?」
先生は申し訳なさそうに二人へ話を持ち出した。『はい?』と勝也は答える。春香は見えない程度に少しニヤけて話を聞く。
「実は急遽決まった事なんだが、今日からクラスに転校生が来るんだ。」
『えー!!』とワザとらしく驚く春香。対して勝也は『へー…』と少しだけ驚く。続いて神田先生は本題のお願いをする。
「そこで悪いんだが…空き教室から転校生が使う机を持って来て欲しい。置く所は二人の列一番後ろに置いといて欲しいんだ。…」
勝也と春香は一番廊下側の最前席とその一つ後ろである。勝也達三年一組は他のクラスよりも人数が少ない。神田先生は最後に不思議な事を言う
「…机を二つ。頼んだよ。」
「え?二人も転校生が来るんですか?」
勝也は聞き間違えではないのかと驚いて聞く。神田先生は若干困った様に返す。
「そうんだんだよ~、でも、クラスメイトが一気に二人も増えて嬉しいだろ?」
「…あの、男子ですか?女子ですか?」
春香はこれは重要と聞いた。
「ふふん、、実はどっちもなんだ。双子なんだよ」
笑う様に言う神田先生は『実はね。』という感じで楽しそうに答えた。『ふうん?』と少し残念そうに返す春香と違い、『あれ?』と勝也は疑問顔だ。勝也は聞く。
「双子って普通は『クラスを別にする』って決まりがあるんじゃないですか?名前が紛らわしいとか、宿題の写しとか、双子で孤立させない為に。」
痛い所を付かれた神田先生は平静を装って応える。
「ん?まぁ…決まりは無いよ?今回は…転校してきた時期とか、その二人のお母さん達の要望があってね、まあ、机は頼んだよ。それと、転校生が来たら仲良くしてあげてね、転校生にして見れば二人はクラスの代表みたいなモンなんだから。朝は先生と一緒に教室に行って皆の前で紹介するから、机を運んでも皆には内緒にしておいてくれよ、自己紹介とかは考えておいて。ゲームとかマンガとかスポーツとかの趣味の話でもいいからさ。」
……普通に新しいクラスメイト・転校生を喜んだ勝也だが、先生の言葉に息を飲む。勝也達は校舎に入り、下駄箱で靴を履き替える。勝也と違って春香は人の悪い笑みを携えて言う。
「早くしなきゃ、机を二つも持ってくるのは時間がかかっちゃうからねぇ?それとも勝也は自己紹介を考えるのが大変?男の子は話せる事が沢山あって良いわよねー?自然に自己紹介しなきゃ駄目だよ?」
勝也は『嵌められた!』と春香に言う。
「春香!転校生が来る事を知ってたんだろ!だから登校中に変な約束させて…」
春香は黙らせる様に被せる。
「双子の転校生が来るとは思わなかったわ!!グダグダ文句を言うのも、一度した約束を破るのも、男の子らしくないわよ?素直に舌を伸ばして自己紹介しなさいよ。机を運ぶんだから急いでね!?」
勝也はこの時、『安易に春香と約束をしてはいけない。』と心に誓った。
三年生の教室がある三階に向かう勝也達。軽快な足取りの春香と違い、勝也の足取りは重そうだった。
不定期に続きます




