#127~力の人助け~
少し改稿をいれました。
話としてはそれほど変わりませんが……
頑張ります
知識が迷路の北東から出てくると、校庭の東にある出入り口に向けて走りだす。
01がそれを止めようと動き出すと、それに気づいた知識が大声で指示をだす。
「おい!出来るだけそいつを暴れせておけ!」
「ふん!、おい!こいつを狙え!」
弓使いが指をさして魔人をけしかける。
『ぐわぁ!』
魔人が一声あげ、口をあけて『う゛ぉ…う゛ぁ…』と鳴くと、勢いよく水を吐き出す。
それはレーザーのように『ブォン!』と音を立てて01を狙う。
『っ?』
01を狙った水の塊は狙いが疎かで、別段邪魔な物になっていない。01は無視するようにして知識を追う。
「ふぅぬ!」
続いてメイスを振り下ろすのは弓使いである。
それは流石に走りながらの対処は無理な事を悟り、避ける01。
メイスは校庭の土を「ゴン!」と叩くだけに終わるが、弓使いはそれだけで終わらせない。
流れる様に空いた左手を地面にめり込ませ、『棍棒』と発言して二本目の合成棍棒を引き抜くとそのままの動作で左手を振り下ろす。
「っ!」『ザッ……』
01は堪らず、バックステップでそれを避ける。
『ゴンッ!』と二発目も地面をたたくだけに終わるが、
両手に二本の獲物を構える弓使い
と
油断なく無手の両手を構える01
両者は数舜の対峙をした。
だが、先に動いたのは弓使いの方であった。理由は勿論の事だが、早く動ける動作であった為だ。
「こいつを狙って水を吐き続けろ!」
そう、魔人に対しての命令である。
『ぐわぁ?』
どこか疑問を覚える声で鳴いた魔人は口を開けて”両手を”地面に置き、しっかりと狙いを付けてから01を狙おうとし始めた。
『ザッ、ゴロン!』
いや、狙おうとしたのだが、魔人は両手を地面に置けず、転んでしまう。
なぜなら魔人は右手が無いにも関わらず、右手にも体重を乗せようとしたのだ。
『ぐわ゛?がぁぁ゛ぁ……』
魔人は大きく開けた口から声を出し続けるも、うまく動けていない。
どうやら、右手が無い事を理解していない様子である。
対峙していた01はそれをチラと確認すると弓使いへ向け『真空の刃』と発現して手刀を繰り出し始める。
弓使いもメイスでそれを『キンッ!』とぶつけて防ぐが、、手数の差、行動の速さに付いていけず、01は押し勝ち始める。三合四合でそれと分かる打ち合いである。
弓使いは両手のメイスで手刀を止めるだけで、反撃の手が出せていない。
「くそっ!使えん奴め!自分の状況を理解していないのか?」
弓使いは魔人を罵倒し、両手のメイスを『ギュュゥ』と握り直す。
……が、その一瞬の隙をついて01は手刀で対峙している者の右肩を捕らえる。
『ズッシャ!』『ぐわっ…………くっ、これまでか……」
弓使いは一瞬の悲鳴のあと、うなだれる様にして膝を屈する。
01は弓使いが動かなくなると、それを捨て置いて東にある入口を見た。
知識が丁度出入り口に付いたところである。01は相手のやる気をそがせる為にも言葉を発する。
『まて!ここら一帯は警察が張っているし、外で警察が出入り口を固めている!それに我々が追えばすぐに捕まるぞ!バカな事はやめて投降しなさい!』
知識は校庭の東:誰もいない校舎の北側に到着すると校庭をみて、『ふふっ……』小さな笑い声を漏らしてから発言する。
「水濃霧」
知識の発言と同時に、辺り一帯の温度が下がり、魔人を中心にして濃い霧が突如として発生し始める。
瞬く間に辺り一帯は白い靄で包まれ、方向感覚が狂うほどに視界不良となってしまった。
魔人の口からは水の塊を出そうとするにも関わらず、水を吐き出さない事で湿度の高い息を吐いていた様子である。
研究者の散々出していた火で温度が多少なりとも上がった所に、魔人の口から湿度の高い気体が絶えず供給され、最後はそれを見抜いた知識が技を発現して温度を強制的に下げたのだ。
局地的にジャングルより濃い湿度で生成された霧は深い。
ここで問題なのは霧の中での視界だ。ある人物達は壊滅的に視界を閉ざされてしまった。
『っ!くそっ!水晶に水滴が……』
それは法力警察官達だった。
彼らの仮面で目にあたる部分は水晶で出来ており、指でこすってもこすっても次々に水が結露して視界を塞ぐ。
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「春香―!」
清瀬小学校校舎近くの、迷路出入り口に一人の影。清田校長の木の根を頼りに迷路を抜け出して来た者が一人いた。
彼は知識が一人を担いで走り去ったのを見ていた一人である。
雨田勝也だ。
濃い霧が発生した丁度に迷路をクリアして出てきていた。
勝也はどんなことがあっても自分の力ではどうにもできないと踏んで、見る事に徹していたのだ。
迷路を熟知しているらしい知識を途中で見失ったが、自力で迷路の通路を予測して木の根を頼りに迷路をクリアする。
彼は校庭の東にある出入り口を目指して走り出すが、視界が悪い。
すぐ近くに深さ2メートルの迷路が出来ているのだから、普段の彼なら潔く動くの止めて、霧が収まるか助けが来るのを待っていただろう。
幼い彼には我慢など出来なかったのだ。
しかし、その勇気は蛮勇と呼ぶしかなかった。
視界が悪い中、校舎を右に見て走る彼は『ドン!』と何かにぶつかる。
勝也の第一印象は”痛っ!?”でもなく、”わっ?!”でもなく、『冷た!!』だった。
『ぐぅっ?』
『わっ?!怪物!?』
魔人は大きく口を開け、すぐ後ろの少年へ勢いのある水の塊を『バシャ!』っと吐き出した。
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知識は肩に担いだ人間を担ぎなおして外へ向かう。
その背中へ迫る影が一つ。
「風の刃」
『ズサッ!ボロッ……』
『くっ!?』と前に倒れて呻く知識だが、その者の顔を見て驚いた。
「貴様!!なっ!?」
背中を切られた知識だが、肩に担いでいた人間が居ないことに気づく。
「貴方達の様な下種の類に大事なお嬢様は渡しません。くっ……土装甲ですか?」
そこには春香を胸に抱く風間凪乃が血まみれで立っていた。
春香の顔を確認すると言葉を続ける。
「……ふっ、まさかここで使う羽目になるとは思いませんでしたが、風間家直伝の技、”死んだふり”です!死んでも金山家を、いえ、春香様をお守りするのが私の役目!」
凪乃は敢えて自分の顔を傷つけ、とりわけ耳近くを自身の技で切って血をまき散らしていたのだ。
頃合いを見計らって出入り口へ徐々に移動し、最後は陰に隠れて身を顰めていたのだが、抜群のタイミングで姿を表せた。
「くっ……舐めるなよ?小娘一人で何が出来る?このまま強奪して終わりだ!やるぞ!」
知識の声に身構える凪乃だが、彼女は脇が甘かった。
『ザッ……』
ふと背中に人気を感じたが、時すでに遅く、『ブォン!ドッ!……』次の瞬間には頭を殴られてしまう。
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大きな声を聞き取り、視界が悪いながらも声の元へ駆けつける01。
見ると魔人が立ち上がり、何かと相対している。
動けないでいる少年だった。しかし、魔人は『ぐぬぅ?』と言うだけで特に少年に目立った外傷はない。
少年は01を見るやいないや、『早くあいつを追いかけないと!』と言っている。
しかし、この状態では魔人を相手にするしかない。01であった。
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今度こそ血をまき散らして倒れる凪乃。
血だまりが出来ている辺りは笑えない。
「うわっ……やべっ……」
そんな感想をぼやくのは黒ジャージに土色仮面の男性だ。腕には少女が抱きかかえられている。
「……ふっ、工作員か?……外の様子はどうだ?」
知識は援軍への声に安堵の色を乗せて声をかける。
「はい、外の警察は一般の警察官でしたので俺らで対処しました。今なら出られます。……てか、この子大丈夫でしょうか?さすがに殺しは……」
男性は知識に向けて報告し、自分が倒した相手に気を使っている。
「ふん、お前は運が良いし、対応は完璧だ。お前には高評価をつけてやる。そんな女なぞ放っておけ、死んでも困らん。」
知識は気にした様子もなく声をかける。『ええぇ……』と曖昧な答えを返す。
『ザッ……』
隣に現れた紺色ジャージ仮面の少年が後を引き継いで答える。
「知識?なぜそのような事を?彼女は大丈夫です。気を失っているだけで、清虹病院にでも搬送されればおそらく死にはしないでしょう。元気な者です。……所で魔人の方はどうしますか?これ以上は……」
少年の声に知識は笑いをこらえながら答えた。
「ふっ……まぁそういう事だ。後はお前の好きにしろ。今回の魔人は失敗作と言わざるを得ない。忘れている部分がダメだ。調整しなければな……最後にだが、外に身を潜めて監視する様に言ったのはどっちだ?今後の指針として覚えておこう。」
「工作員です。自分の様なコード無しには過ぎた案ですので。」
「……あっ、……ええ、そうです。俺が言いました。」
少年と工作員の間に不思議な空気が流れるが、『そうか。そういう事だったと覚えておこう』と知識は言い、気絶した春香を受けとると、清瀬小学校を後にする。
少年は霧の深い校庭へ黒いお面を向けると、手をかざして発現する。
『水蒸発』
しかし、特に外からは変化が見られなかった。
工作員が声をかける。
「何をしたんだ?こっちからじゃ、何をしたのかわからなかったが……」
少年は答える。
「いえ、大した事じゃありません。人助けみたいな物ですよ。」
「ま、まぁ、サンキューな。お前が外で様子を見ると言ったって言ってよかったのに……」
少年は再度答える。
「いえ、自分たちのやってる事に比べたら大したことじゃありません。人助けみたいな物ですよ。」
そんな不思議な事を答える少年に工作員と言われた青年は『こいつぅ!ふふっ、サンキューな……』
と答えるのであった。
春香が連れ去られたのは春香の誕生日だが、
春は終わり、夏の季節を迎える清虹市である。
やっと春の終わりです。
春って長かったですねぇ…




