#117~勢いの続かない力~
『ブォォォ……ォゥルルルゥ……、ガクッ、ガゴッ、ブゥゥ―――――、』
液体燃料が燃焼してエンジンが発する音を、高く・小さな音に変え、”市街レースもかくやあらん”と言ってしまう程、急加速する車がある。
だが、その加速は大量の排気ガスと爆音を伴うレーシングカーとは違い、エネルギー効率が良く、走る分にはそこまで環境を汚さない物だ。
それは法力警察特捜課・実働隊・前線班が運用する、限定地域での特殊運用車両『指示車』である。
・白と黒のおなじみな車体だが、それは塗装でついた色ではなく、アルミニウム合金の白色と炭素繊維強化プラスチック(カーボン)の黒色で、軽く、『堅い』と言うよりも『柔らかく破損しにくい』装甲
・ボンネットが前に出ていない車のフロントは運転席と助手席が置かれてその後ろには畳二畳程の空間がある。物を積載する様な空間はこの一つしかなく、トランクルーム等の積載空間は排除されている。居住空間一体型のキャンピングカーに見える作り
・装甲内部には、周囲200m圏内の者が聞こえる拡散性スピーカー
・多くの事が出来るコンピューター及びソフト
・後輪稼働の高出力電動モーター、FR車である…フロントエンジン、リア駆動
・各種無線や衛星通信の等の傍受妨害電波が照射出来る入出力アンテナ
と、一見平和な風景を見せる市街地では特に使い所が無い、行き過ぎた装置を積んでいる。
妨害電波に関する装置はどう見ても不要だろう。
今の市街でその装置をフルに使おうものなら、例え被害が出なくとも非難殺到である。
車内にある妨害電波関連のスイッチがある場所は”of使用不可!”と張り紙がされ、物理的にスイッチが外されている念の入れようだ。
戦地を走っていても、不思議ではない電子支援車両の『指示車』はその存在意義が不明であった。
車両の使いどころも無く、まだ日の目を見ていない車体で、清虹署の車庫で”遺物”として、ほこりが被っていた乗り物だった。
それを偶然にも発見した特捜課の実戦隊は、発見した責任を負う様にして、この車両の使用を命じられている。
先程、不思議な音を発して加速した車体は”指示車弐”と呼ばれ、清虹市北部のやや西より、清虹自然公園のある、西土旗の方角へ進路を向けている。
運転手は期待の新人である03であった。
指示車弐の車内後方、車内で一番階級が高い者が座る、定位置座席から言葉が漏れる。
『隊長の指示車が加速しないな…今回の事件は人質もいるだろうし、流石の班長でも慎重になっているのか…』
『……』
いつもはその独り言の様な言葉を一つ一つ取って返事をする05が今日はいない。
『いや、あの人は…多分………、”筋トレで予想以上に筋肉が付いて、太くなった二の腕と太ももを見て…これ以上筋肉を付けない様にゆっくり動いている”んじゃないか?あの人にそんな繊細な思考を押し付けない方が良い。似合わん。』
助手席に座る07が自分に言ったのかと返事をする。
『いやもう、仰る通りで…』
02は自分の独り言に内心反省して同調した。
その30秒後方には指示車弐と同じ車である、指示車壱が走る。
”指示車壱”の”壱”は読まれない文字だ。
指示車壱と指示車弐の違いは名前だけで、壱と弐で運用時の違いはない。
現場では交互に使われ、本来はどちらか一台のみで使われている。
その場合は指示車弐が使われる場合も、”サブ”の音は省略され、”指示車”と呼ばれている。
指示車壱はこれから、前方の指示車弐と離れて清虹市の北にある公立小学校を目指す。
その指示車壱には彼らの隊長兼班長の飯吹金子改め、01が最後部座席に座っていた。
いつもは、とにもかくにも先頭を走る彼女だが、今回は一歩遅れる移動を見せている。
彼女を含め五人の精鋭が乗る指示車壱は、児童が囚われている可能性が高い、清瀬小学校へ向かう。
作戦を練っては取り消し、再考しては取り消しを繰り返している。…のかもしれない…
『…ゥゥゥ…『ヒュン…』ゥゥ『ヒュン…』ゥゥウウウゥゥン…』
02がリーダーとなっている指示車弐は、その小さな駆動音に似合わず、かなりの速度を出し、風を切って走行する。
乗員の思考を反映させたかのような急ぎ足である。
「ん?法力警察か?危ないな…」
「緊急車両の通行を邪魔したら、反則金が取られるんだぞ…道を開けなきゃな。」
それを見る市民は慣れているのか、それほど驚いているようには見えなかった。
いや、実際は『ブォォォォオォォオン!、ブォォォォオォォオン!、ブォォォォオォォオン!緊急車両が速く走行しています。注意して道をあけて下さい。緊急車両が速く走行しています。……』と早い口調の音声を響かせ、赤ランプをいつもより早く回している。
周りにいる人や車は、避けて道を開けるのに忙しく、”速く走行”は駆動音の割に埒外なスピードが出ている事に頭が回っていない。
だが、法力警察が使う車を知っている者はその事実に関心している。
『どんな警官が操作して、今度は何事か?』と、思っているのだ。
法力警察が使う車は、フライヤーロールに次いで法力を動力源にする乗り物である。
その車の分類は『アクアホイール車』
知る者の間では『ホイール車』、若しくは『アイール車』等と呼ばれている。通では『ホイール』『アイール』等と呼ばれている。
これは、液体燃料を燃焼させる、一般的なエンジン車と同じで、四つのタイヤを回して走る乗り物だ。
エンジン車や、ロールと違う点は、『まだ問題点があり、一般人は”まず乗れない”』という事である。
少し前に、外国で発祥した乗り物だが、一般的に周知となったのは最近で、法力のみを動力とする車両の登録制度はまだ日本で出来ていない。
ホイール車の動力は電気で動くモーターだ。
『電気自動車と、どう違う?』と聞かれれば、”標準最低設計に、バッテリーや、ソーラーパネル等を必要としない”事である。
『ではバッテリーやソーラーパネル等を積まないで、どうやってモーターを回すのか?』と聞かれれば、こう答えるコンセプトである。
『電気が無いのなら、電気を作りながら走ろう!』
勿論のこと、永久機関の様に、走行する事で次に使われる電力を作るわけでも、乗車する人がフッドペダル等を回して発電するわけでも無い。
電気を作るのは、液体の流れによる運動エネルギ―で、先にもある様に、動力源は人の発現する法力である。
ホイール車には、液体の入った管が縦に置かれ、
その管は人のいるスペースを這う形で、大きな輪となり、管の中にある液体は、循環する事出来る。
管の随所にある、水ひれタービンが液体の流れを受けて回り、走行に必要な電力を常時作る様になっている。
”問題点”はこれに集約する。
タービンの数は一個や二個ではない。
数十Kgの車体を動かすモーターは常時大きな電力を必要としている。
その電力を賄う為、タービンは無数にあり、その数は百を優に越す。
多くの小さなタービンで、大電力を作るのは難しいのだが、そこは流体力学の応用・技術の進歩で可能としていた。
つまり、問題なのはホイール車に乗っている誰かが、常時莫大な法力を発現する精神力と、ハンドル操作への注意が、どちらも必要な事だ。
管に満たされている液体は無数のタービンがその流れを阻む為、生半可な力では少しも流れず、電力が供給されず、モーターが回らない。
さらに、丸ハンドルによる運転は一般的な乗用車と同じだけの注意が要求される。
もし、ホイールに一人で乗車して運転しよう物なら、ハンドル操作か、水を動かす法力技・水操作か。
どちらかの操作がおろそかになる事は必然だ。
よって、現状の環境でホイール車を運用する場合、『運転者以外に、法力免許の水系統を持つ者が一人以上乗員する事』が義務付けられている。
しかし、ガソリン車とアクアホイールの外見は酷似している為、外見だけによる、ホイールかガソリン車かの判断は容易な事では無い。
法力警察・特捜課・実戦隊が使うホイール車・指示車は燃料エンジンも備えたエンジン車主体のハイブリット車として特別に登録され、
必要な場合は一時的に法力を原動力にする『アクアホイール車』とする事が出来る。
ホイール車の特性として、法力の強さ・管の中を通る液体の速さに対応して、早くも遅くもなるのだ。
ここで先の車の速さに驚く事につながる。
乗用タイプのアクアホイールを動かすだけでも、一般的な川の流れ程度はエネルギー・速さが必要であり、それをキャンピングカータイプのアクアホイールで、レースになる様な速さで動かしているのは、かなりの物である。
ホイールが市民権得る為には、走行試験と交通の流れに溶け込めるかの使用試験をする必要がある。
そこで白羽の矢が立ったのは法力警察だ。
だが、『無期限の情勢を見る様子見』という、終わりが決まっていない試験運用で、咄嗟の状況でも誰でも車を動かせる為、法力警察のアクアホイールには、不要なガソリンエンジンが積み込まれている。
それは一見して、アクアホイール最大の利点である車体の軽さ・排気ガスの減少を潰してしまっているが、法力警察は注目を集めたい乗り物として、実態のある運用をしているのだ。
・目に見えず消えて消費される、余分なエネルギー(バッテリーに充電する事でロスするエネルギー)
・枯渇が心配される、バッテリー製造に使う資源問題(リチウム・コバルト等のレアメタルは限りある資源)
・生身の人間相手では、かすっただけでも凶器の暴力となる、重い車体が起こす事故被害
これらが解消されるのは、その被害を目の当たりした者にとって、悲願と言っても過言ではないだろう。
(ry
私『やす』が旅立った世界は、ブロックで出来ていた。
エタってすみません…後は3章4章のタイムアタックなんです…
『知られざる島』より、『なろう。』に専念したいと思います…




