#108~力が現れる~
「ふん、担任教師風情か、難儀なモノだな!我々を前に姿とその命を前に出なければならないとは。その心意気を買おうじゃないか!土棍棒!」
弓使いは口と腰と足を動かしながら身を屈め、勝也が前に見た事のある一連の動きとともに技の発言をする。
『ググ…ズサッ!』っと得物を地面から引き抜く。
勝也はそれを見て小さくつぶやく。
「あれ?棒じゃ……無い?」
それは以前、勝也達が見た様な無骨な土の単体棍棒では無く、先端に柄頭として硬そうな金属隗が置かれ、それには尖った突起物がいくばくか付いている。
いわゆる”メイス”と呼ばれる合成棍棒だ。
単体棍棒は単一の物質から出来た棒状の物を棍棒とし、原始的で、打撃力はその物質の硬度に依存する。
合成棍棒は打撃箇所に持ち手とは違う物質を据えた、より文明的な棍棒で、その破壊力は先端の重量を振り回す力・遠心力をも加味する事で凶悪な武器だ。
「ふふふ…最近は消化不良気味だからな…楽しませて貰おうじゃないか!」
弓使いは体格の良い二の腕を動かし、開いた手の平に『パシッ!パシッ!』と叩きつけて見せている。
その姿は興奮の程度と闘志の高さを示し、その叩きつける音は土で出来た物とは思えない重量と破壊力を連想させた。
「大見え切って俺の前に出て来たんだ。喜べ!労災が降りる程度には痛めつけてやろう……」
弓使いは神田先生の前まで来ると棍棒を肩の後ろに引き、テイクバックを一瞬溜める。
その動きは緩慢な部類で隙だらけに思える。
それを間近で見る神田先生はその姿の意味、言葉を脳で理解すると慌てだす。
「なっ…ち、ちょっ!……こ、ここは、冷静に…お金で解決出来る事なら……」
及び腰の神田先生は土まみれの姿で説得し始めてしまう。
足場の悪い校庭の中、這って前に出て来ただけでも苦労していたのだろう。
どうやら無意識に前に立ちはだかった様だ。
……漢らしい勢いは既にない。惜しむらくは体力の無さと、暴力とは無縁の生活だった事だろう。
「なんだ…素人か……」「逃げろー今からじゃ…もう遅いか」「ぬぅ…最初は良かったけどな…」「根暗先生では無いんだろうけど…」「のーん!!」
法力の心得もなさそうな、一般小市民な感じの神田先生を囃し立てるのは土色の仮面と暗い青色ジャージで身を包み、体のライン・声音から女性だと言う事が解る。
「ふっぬぁ!!」「ザッ……」
弓使いはそれまでの緩慢な動きからは予想できない速さで身体を動かし、靴で地面・砂を蹴りつける。
肩で背負っていたメイスを前に振り下ろす速さは目で捉えらえられない。
『ヒュ……』と風切り音よりも速く、それまでの遅い動きとは段違いで距離感が狂う速さである。
『ッ!』
神田先生は咄嗟の速さに付いて行けず、しゃがみ込もうとするがタイミングは間に合わない。無情にも神田先生の頭部へ、重量のある物質が襲う。
『カァーン!』『むっ?!』『わぁっ!……?』『おぉ?』
弓使いが縦に振るうメイスは甲高い金属音を響かせ、狙いを寸分違わずに振り下ろされる。
驚きの声を後ろで上げるのは口々に感想を述べていた暗い青ジャージの面子だ。
メイスをそのまま構える弓使いは言葉を漏らす。
「ふん?……つまらん者を叩き潰す所だったぞ。弱い物をいたぶる趣味は無い。」
その言葉を正確に聞き取れたのは『えっ?』とハテナマークを出す神田先生である。
弓使いは仮面の顔を校舎へ向ける。
そこには黒いスーツ姿の女性、風間凪乃が立っている。
体育館側の出入り口が壊れる音を聞き、咄嗟に駆けつけて来た次第だ。
今日は訓練と言う事で校門が開いており、校舎の間を通ってやって来た次第である。
今は足を半歩開け、手を下に振り下ろした後の姿だ。
「なっ……っ!この者達は……っ!」
凪乃は間一髪で神田先生を守る様に風系の技を発現してメイスを止め、その武器を振るった者とその後ろに控える者達を見て現場を理解する。
凪乃は直ぐに切り替え、校庭に紛れこんでいる者達へ向けて両手を前に出し、最大限の技を見舞う。
「しつこい者達ですね!嵐の矢!」
『ヒュウゥ……』
校庭の空気は渦を巻くようにその性質を変えると細長い空気の塊として、校庭には異物な仮面達を狙う。
『ピュウゥ!』
「?…壁。」『ググゥ……』『ゴッ!グシャ……』
「っ……操作『ピチャン…』障壁!」『ブゥン…』『ビシャン!』
「…ふん!」「キィン!」
仮面達は様々な動きでそれに対処する。
黒ジャージの男達は地面から土の壁を出現させ、暗い青ジャージの者達は体育館脇の水たまりから水を跳ねさせ、それを幕の様に伸ばす。
その防御はクイックで行い、動作に無駄が無い。
弓使いはメイスを持ち直すとそれを構え、凪乃が放った嵐の矢を打ち落としている。
続いて凪乃は大声を校庭に響かせる。
「ここは私が引き受けます!その隙に外へ!!」
「知識、お前の件だ。お前の所で捕獲しろ、我々が時間を稼ぐ。」
弓使いが知識と暗い青ジャージの面々に向けて言葉を発する。
知識と暗い青=紺ジャージ五人、計六人。
弓使いと黒ジャージ二人、計三人。
いるが、ジャージの色通りの六人・三人で分かれて事に当たる様だ。
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