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勇者の伝説

作者: マルコ
掲載日:2015/07/26

 勇者。

 二百数十年前に王国とその周辺に災厄をもたらした魔王を、「光の剣」と呼ばれる聖剣で滅ぼした英雄。

 そんな彼とその子孫の英雄譚を、国の歴史の一部として正式に記録することになった。

 お偉方曰く、「勝手に子孫を名乗る不届き者が増えた」「このままでは勇者の権威が落ちる」という事らしい。

 そういえば最近、隣国の王が勇者の子孫だと宣言したとかニュースがあった気がする。

「勇者出征の地」を自負し、「光の剣を献上された」王国としては面白くないのであろう。

 隣国の王だけでなく、「勇者の子孫」と呼ばれる者は増えた。自称他称にかかわらず。

 少し有名になると、「あの方は勇者に連なる家系で?」なんてのは常套句。



「全部ホンモノなんじゃないですか?」



 歴史書編纂会議でそう発言したのは、若干20歳のシー・エリオットだった。

 国の一大事業となるこの企画に参加できるのはそれなりの地位の学者ばかりだが、彼は別に地位があるわけではない。貧乏貴族の次男坊だ。

 それでもその会議に参加しているのは、彼の記憶力故だ。

 一度聞いた英雄譚サーガを一字一句漏らさず文字に書き起こせるという能力。

 普通なら「だから何だ?」というその能力は、文書化されていない勇者のサーガを書き留めるには都合が良かったため、彼の上司の紹介でチームに入ったのだ。


「どういう意味かね?」


 議長が問い返す。

「いや、勇者ですよ? 魔王倒した英雄様ですよ?」

「その通りだ。偉大なる英雄だ」

「女なんて入れ食いじゃないですか?」


 場が固まる。


「行く先々で女抱いてれば、結構な数の子供ができたんじゃないですかね?」

「…………」

「それでなくても、200年以上……どころか、300年近く前の人だし、そんだけ代を重ねれば子孫だってかなりの数になってるでしょう?」


 隣国の王だって、そんな無数の子孫の一人かも知れない。

 ついでに、国宝の「光の剣」もどう見てもその辺の鉄の剣(大量生産品)にしか見えない。

 そう言いかけた時、彼は上司に引き摺られて強制的に会議室を退出した。




「ちょっとくらいは空気読んでくれ」


 翌日、執務室に呼び出したエリオットに上司はそう言った。

 彼とて、エリオットの気持ちは分からなくもない。

「正史を編纂する」と言いつつ、あからさまに王国に都合よく捻じ曲げた歴史書を作ろうとしているのだ。

 茶化したくもなるだろう。


「私はクビですか?」

「クビにはならんが、出世の道は絶たれたな」


 元々出世欲は無いので、エリオットにはどうということは無い。


「ラーナでのサーガ収集任務……ぶっちゃけ左遷だ」

「ラーナ……ですか」


 勇者の生まれ故郷と伝えられる街だ。街道沿いの宿場町だがこれといった名物もなく、数ある(・・・)生まれ故郷の中でも王都から一番遠い。その上亜人種が多い土地柄なので、王都の人間は誰も行きたがらない。

 エリオットはそんな街へ赴く事になった。




「へー、学者センセーだったんだ。この大量の紙は何に使うの?」


 旅の馬車の中、護衛に雇った女冒険者がそう問いかける。

 別にすけべ心で女を雇ったわけではない。

 それなりに強くて安い。という条件で斡旋所が紹介してくれたのが、彼女だった。

 名前はクラージュ。曰く、魔族の血筋なので強さは申し分ない。それにラーナは彼女の故郷で、里帰りついでの護衛なので格安にしてくれるという。エリオットは即決した。


 ラーナには魔族の血筋の者が住んでいる。この事実はエリオットを喜ばせた。

 魔族の寿命は人間の10倍。200年や300年前なら、当時から生きている者も居るだろう。

 そんな街で勇者誕生。普通に考えて、ありえない。だが、当時を知る魔族からなら、「魔王」側の話は聞けるかもしれない。どうせ自分のレポートは採用されない。だが、「勇者」の真実には近づけるだろう。

 彼は出世欲は無いが、歴史学者としての知識欲は人一倍旺盛だった。


「報告書書くのに使うんだ。汚さないでくれよ。一応公文書用なんだ」

「はーい」


 旅は順調。心配した野盗の襲撃もなく、目的地に到着できそうだ。


「ラーナには魔族も多いんだろう? 勇者が活躍した当時から生きてるヒトに心当たりはあるか?」

「んー、たぶんうちの爺ちゃんくらいじゃないかな?」

「クラージュは違うのか?」

「失礼ね、まだ30歳です!婆ちゃんが生きてた頃なんか影も形も……伏せて!」


 無理矢理頭を押さえつけられ、さっきまで頭があった空間を矢が通り抜ける。

 野盗の襲撃だ! 10人ほどの集団が馬車を取り囲んでいる。

 即座にクラージュが馬車から飛び出し、賊に向かって行く。エリオットも護身用の剣を馬車の中から取り出し、構える。その間にもクラージュは賊を斬り倒していた。

 彼女は二刀流らしい。

 二本の剣を巧みに操り、瞬く間に賊の数は半分に減じた。

 その強さを見て、ヤケクソで突っ込んだ2人を瞬殺。

 さらに怯んだ2人をも袈裟斬りにし、親玉と思しき大柄なオーガだけが残った。

 よく見たら、知った顔だった。

 別にオトモダチというわけではない。手配書の人物にそっくりなのだ。

 鉄壁のオリバー。あらゆる攻撃を、その頑強な肉体で弾きかえすという。正騎士でさえ傷一つ付けられなかったという噂まである。


「気を付けろクラージュ! そいつAランク賞金首のオリバーだ!」

「ワーオ、鉄壁さんデスカ。本物?」


 眼前のオーガに問いかける。


「そのナマクラで打ち込んで試せば良い」

「では、お言葉に甘え……」


 クラージュが剣を振りかぶる。


「て!」


 ガキィィィッッ

 金属音と共に何かが中を舞う。

 折れた剣身。

 それと共に舞うクラージュの身体。


 クラージュの剣は確かにオリバーの首をとらえ、そして折れた。

 間髪入れずに繰り出したオーガの拳は、彼女を10メートルも吹っ飛ばした。

 エリオットは動けない。

 先ほどから嘶きもしない馬も、同じ様な心境なのだろう。

 眼前のオーガに殺される。

 そんな、確かな確信。


「学者センセー」


 死を覚悟したエリオットの耳に、場違いに呑気な声が届く。


「コイツの賞金、私が総取りして良い?」

「……どうぞ」

「アリガト。剣が折れたから、大赤字になるところだったよ」


 何でクラージュが喋ってるのだろう。

 拳で殴られただけとはいえ、只では済まない威力だった筈だ。


「自ら跳んで威力を弱めたか? 味なマネを……」


 怒気を孕んだ声。一撃で殺せなかった事は、オリバーのプライドを傷つけた様だ。


「単純に、効いてないのよ。今のに比べたら、母さんのゲンコツの方が100倍痛い!」

「ジョークに付き合うつもりはない」


 再び対峙する両者。

 クラージュは折れた剣を棄て、残った剣を構えて走る。

 オリバーも、拳を構えて迎え討ち、両者が交錯する。



 空に舞う首ひとつ。



「世間で云われてる勇者伝説には2つ間違いがあるの」


 クラージュの握る剣が光り輝いている。


「ひとつ。光の剣は聖剣なんかじゃなく、強化魔法。強度と切れ味を飛躍的に向上させる魔法です」


 光が収まり、普通の鉄の剣に戻る。


「2つ目。魔王は滅んでいません。勇者と結婚して、今も元気です」


 そう言いながらオリバーの首を拾う。


「ウチに泊まるなら、爺ちゃんに婆ちゃんの話、たっぷり聞けるよ。学者センセー」

「それはどうも」







 シー・エリオットには大きな悩みがある。


 魔王はやってきた勇者に一目惚れして、彼女の実家で今も宿屋の亭主をやっています。


 こんな報告書を上司に送るか否か。

 真実の探求と職を失う覚悟の狭間で、今日も老人魔族の惚気話を書き留める日々を続けている。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです♪ (何でだろう? 短編に限ってなのか、それとも単純にマルコ様の作品だからなのか… )
[良い点] 間違いが実は3つな件。 種まきする方じゃなくて畑の方じゃ子孫はそんなに多くなりませんわな。 [一言] ステータスを見たら彼女ができていた件から読んできてみました。
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