戦いの準備 その2
「将軍閣下。提案します。まず、最初にドラゴマ軍守備隊を城塞から誘き出さなければなりません」
それは誰もがわかっていることだ。ルベアがわざわざ発言したのだから他に何かあるのだと思った各軍団の指揮官らは彼女へ視線を送る。
「そこで、将軍閣下の直属の装備一式と旗をお貸し下さい」
「ちょっと待ちたまえ。一何をするというのかね?」
シェール軍第五軍団指揮官のコップが尋ねた。
「我が軍の総指揮官は現在、ラーバス将軍閣下であります。つまり、ドラゴマ軍はシェール国の戦意を挫く為には、将軍閣下を狙おうと考えるはず」
「なるほど……確かに閣下がいなくなれば、シェール軍はバラバラになりますな」
「はい。そこで、ラーバス将軍の部隊に化けた囮部隊の登場となる訳です」
「敵は柄欲しさに、城から出てくる、と言う事であるか?」
「その通りだ。ドンタール」
ラーバスが眉間にしわを寄せて、少し考え込む。
「……うむ。良い案だ。気に入ったぞ。しかし、問題なのは誰が囮になるかだのう。もし、仮に誘き出せたとして、敵はその部隊を功績欲しさに死に物狂いで襲ってくるだろう。志願者はおるか?」
その言葉に、集まった一同が口を堅く閉ざしラーバスから視線をそらす。確かに名案だ。これが成功すれば、守りが手薄になった城はすぐにでも陥落する。さらには、のこのこ出てきた守備隊を討てることができれば、ドラゴマ軍とて、すぐには奪還部隊を差し向けることはできない。だが、囮になるリスクが大きすぎる。軍団を任される指揮官らは誰も手をあげなかった。それを見た、イェルグが手をあげようする。だが、彼の動きを横目で見ていたルベアが先に口を開いく。
「その囮部隊、我が兵団にお任せ下さい」
ルベアはどこか自信があるかのように、胸に手の平を添えた。イェルグが出し抜かれた顔をして急いで、ラーバスに自分の意見を述べる。
「そ、それは、我が騎士団がやるべきです閣下。どうせ、我らは栄光も輝きも失った騎士です。最後ぐらい女王陛下がお喜びになられるような栄光に包まれた戦をして見せます」
「騎士団は本隊の護衛として参加して、いや参加しろ!」
「貴様、今、俺に命令をしたのか?」
「あぁそうだ。お前が居たら邪魔で仕方ない。ま、矢避けになりたいのなら、それでもいいが?」
「くっ。てめぇ……」
イェルグは手を拳に力んだ。しかし、騎士団はもはや風前の灯。そんな一団の突撃など、結果は見えている。ルベアの作戦の方が成功の可能性が高い、そう考えたイェルグは視線をルベアからそらして、口を濁らせる。
「……本来は我が騎士団が前線に立ち、その機動力と突破力を活かした戦法が望ましいが……こ、攻城戦となると、話は別……」
歯を噛み締め、不服そうな顔をしたが。
「……いいだろう。やってみろ。だが我が軍にいたずらな損害を出したら許さないからな……」
「イェルグ団長殿? 私は勝ち戦しかしませんから。では将軍閣下。許可を」
「よかろう。おぬしの兵団に全てを託す」
「ありがとうございます! では準備にかかります」
ルベアは一礼するとそのまま作戦室を辞した。そのあとを、ドンタール、アドル、ミネルヴァが追う。
石を積み上げた壁に、天井が吹き抜けになった廊下をルベアは足早に歩いていた。そんな彼女に、ドンタールとアドルが追いかけていた。ドンタールが不安げな声でルベアに尋ねる。
「……あの、ルベア様? 本当に大丈夫でありますか? 我輩、心配である……守備隊とはいえ、ドラゴマ軍の精鋭揃いである。もし正面から戦うとなると、我が方にも損害が出る」
「なぁ~に心配ないって。アハハハハ、ルベア様の事だ。作戦があるに決まってるでござすよ」
心配しているドンタールの背中をアドルがポンッと手で一回叩く。
「そ、そうだな。アハハハ。ルベア様のこと、なにか妙案を考えているのでしようなッ!」
「あ?んなもんない」
「「へっ?」」
二人の拍子抜けした声が漏れた。
「だーかーら、誘き出してからの作戦はまだ考えてない。今わかっていることは時間との勝負ということだ。敵の城塞が落ちるか、それとも我々が全滅するか、このどちらか二つに一つだ」
「それ、真面目にいってます? ルベア様?」
アドルは苦笑いしながら、ルベアの顔を覗きこんだ。彼女の部下を不安にさせてやろうという冗談だと、思った。だが、冗談ではなかった。
「同じ事を言わすのか? アドル。なんなら、貴様の最後の希望を毟り取っても良いのだぞ」
アドルの頭のてっぺんをルベアは睨みつけ、怪しい笑みを見せた。
「ひぇ~それだけは、ご勘弁を!!!!」
頭を必死で守りだしたアドルの反応が面白くて一笑いしたあと後方にいるミネルヴァの名前を呼ぶ。
「ミネル!」
ミネルヴァが返事したあと、ルベアは歩きながらも、期待を込めた言葉を送る。
「すべてはお前の働き次第だ。頼んだぞ」
「……承知しています。私が立ちはだかる者、全てを消します……」
無表情でも眼光は鋭く、身体の奥底から黒いオーラが出ているように見えたアドルは震え上がる。
「み、ミネル殿が、いつにもまして、悪魔に見えるでござる……」
「くれぐれも、味方だけは殺さないようにお願いするであるよ」
「承知しています……」
そんな部下とミネルヴァを尻目にルベアは心の中でつぶやく。
(――――――――私はミネルに賭ける。大丈夫、兵員は充分。問題は敵の守備隊の数だけか……耐えてくれよ。私の兵団……ここで倒れてもらっては、私の復讐が成せないからな……)




