太古の狼 その3
―――――――そのころ、歴史上類のない大反逆が起きたプルクテスに征服の好機と見た帝国軍が侵攻を開始していた。自由を求める奴隷たちは帝国軍に死に物狂いで戦った。反逆の首謀者であるアレー・ソリスは自らを総指揮官として前線に立ち仲間を鼓舞する。帝国から見れば彼らは軍隊と言えるものではない。数が少なくとも志だけは強い。武器は農具が多く自由軍の兵士は適切な軍事訓練された強者揃いとも言い難い。だか彼らには揺るぎない結束があった。
「弱き者は、数をなして、敵に群がれ。弱き者は、協力し合い、敵を欺け」
アレー・ソリスの言葉は勇ましく、帝国軍重装甲師団に怯える自由軍に勇気を与えた。彼らは必ずと言っていいほどある言葉を口にする。
「「「アレー万歳! 我々を蔑ろにした者には死を!自由の為に!」」」
まるで、宗教の合い言葉のように、奴隷達は復唱していた。そして、各地で火蓋を散らせるプルクテスのとある村落を攻め落さんと帝国軍一個師団が歩調を合わせて行軍していた。先頭を進む四人の美少女と黒い鎧をまとった謎の騎士が馬に跨っていた。
「いやーようやく帝都から、ここまで来れたぜ。たくよー道長すぎ―――――」
両腕を上に伸ばしだるそうにあくびしながら背伸びした。彼女の名はレイラ。隠密行動に長けている彼女は暗殺任務に就くことが多い。
「まさか、劣勢の奴隷たちが奇襲攻撃して来るとは思わなかったわ」
この上品そうな貴女の名はダリア。四人の中で一番歳上である。レイピア使いとして皇帝の護衛をよくしている。また、男性を魅了して騙したりもした。
「あたちは追い詰められた人間を、殺すの大好きなの」
ソーイは二刀流の刀剣使い。彼女の斬撃には逃れられない。四人の中で一番、歳が低い。
「ソーイは相変わらずの変人だね。それにしても……」
金髪で前髪が切り揃えられた娘がギラギラと光る太陽を睨みつけ、ため息を吐く。そして言葉を続けた。
「あーうちもうだめや。ここは熱いしジメジメしているし、水浴びがしたい。はぁー萎えるわぁ……」
彼女の名はキュナン。クレイモア使い。クレイモアは通常両手武器であるがキュナンは片手で軽々と振り回す。この四人からは、今から戦う緊張感は感じられない。その中で、黒い鎧をまとった謎の騎士は、何も喋らなかった。その姿に不気味な空気を出していた。そんな帝国軍を自由軍の斥候が気配を消しながら偵察していた。
「おいっ! 見ろよ。あいつ」
自由軍斥候の一人がある者へ指差した。
「……あいつって?」
ずれた落ちた鉄かぶとを被り直し目を細めて見渡す。
「だから、あの一番前にいるやつだよ。ほら!」
「おい、おい、おい、おい、あいつは、もしかして、あの黒騎士か?」
最近、噂がたっていた。そいつは突然、戦場に現れる。黒い甲冑をまとった騎士風の男。鉄かぶとで顔を覆い隠しているので顔は見えない。鉄かぶとの奥から光る
怪しい瞳、ぐぐもって聞える息遣い。それがおぞましい雰囲気をかもし出す。
そして、恐ろしいのは、姿だけではなく、剣撃も凄まじいものだった。手に持つ長剣を振るうと一つの銀線が走り、あっという間に、新しい屍が無数に出来上がる。単騎で突っ込んでくるこの黒騎士は、戦術も戦略も通用しない。人間業とは思えないほどの俊敏さに中身は魔物ではないのか、と疑問まであがっている謎に満ちた騎士だ。
二人の斥候兵が顔を見合わせた。
「間違いない。やつだ。隊長に知らせないと」
斥候の二人は素早く立ち上がり近くに待たせていた馬に駆け寄り跨る。その動きを黒騎士が察知する。
「敵がいます。恐らく斥候……」
「まじかよ。たく面倒くさいな。ソーイ、始末しろ」
レイラは顎で命令した。それにソーイはにっこりと笑い頷く。
「了解ですの!」
ソーイは馬の腹を蹴り丘を駆けていく。




