魔王再臨 その5
ルベアの仕官であるドンタールは軍旗を持つ騎兵二人を連れて、戦場のど真ん中を駆ける。前線で戦う友軍の前に立つとルベアからの指示を伝達する。
「シェール軍歩兵隊一時離脱せよ!!」
それに、シェール兵は従うようにゆっくりと後ろへ下がり始めた。誰もがドンタールの命令に従う。それは軍の統制が行き通っている証拠である。しかし、一人だけ、その指示に従わず、ドラゴマ兵と闘う者が居た。それに気がついたドンタールが馬を再び走らせる。
「ミネル殿! 何しているであるか。一時離脱である」
「………」
だが、ミネルヴァはドンタールの話を無視する。ドンタールは今度はミネルヴァの目の前に馬を進めた。
「ミネル殿!! 我輩の声が聞えないのであるか?」
ドンタールが敵の弓矢隊が展開している方向を指差す。その指差された方向にミネルヴァは目を向けるが、それがどうした、と言う顔でドンタールを見つめる。
――――――ドラゴニスがいる陣地にて伝令が来る。
「陛下! 弓矢隊、展開完了しました」
ドラゴニスは深く頷くと、右腕を空高く掲げる。それに反応した、軍旗兵が旗を左右に大きく振った。弓矢隊の指揮官がその旗を目視すると、弓矢隊!射撃用意、と言った。弓兵が矢をつがえ、射る命令を待つ。それをミネルヴァは敵の指揮官の命令を耳にした。その瞬間、ドンタールを避けるように突然、走り出した。
「ミネル殿!? 何を」
突然の事でドンタールは混乱したがミネルヴァの後を追おうとした。が、部下の二人に止められる。
「ドンタール様! 間に合いません! 離脱して下さい」
「くっ。わかったである。下がるぞぃ」
部下の具申にドンタールは悩んだが、妥協し馬を味方が居る方向へ、走らせた。ミネルヴァのせいで、他の多くの兵士を犠牲には出来ないからだ。それに、ドンタールは心の中で、彼女なら、この状況を切り抜けられると思ってたので直ぐに諦めた。
(――――――まったくミネル殿は何を考えているであるか?あれでは、まるで、死に急ぎだ)
ドンタールは心につぶやく。
「放て―――――ッ!!!」
ドラゴマ軍の指揮官が声をあげる。それと同時に何十本の矢が一斉に放たれる。矢は風を切りまっすぐ、狙った場所へ向かっていく。青く透き通った空が黒い雨に覆われた。左右から射られた無数の矢は第三軍が戦う場所へ敵味方関係なく降り注ぐ。放ち終わったあと、悲鳴が上がった。シェール軍の方も被害が出る。離脱は開始しされていたが、離脱に遅れたシェール兵たちは背中から矢の雨を受けてしまった。
一回目の攻撃は終わった。
整然とした戦場でドラゴマ兵は大混乱をしていた。なぜなら、味方が居るはずの背後から、矢が飛んできたからだ。怒る声が上がっていた。
「俺達は味方だバカ野郎!!!!」
「何処狙ってやがるんだ」
「ちくしょうめが!!」
そんな悲痛な声が弓兵に届き指揮官の顔色を窺う。また攻撃命令を出すのか?と。俺たちの仲間を攻撃するのか。不満を抱く兵士らの感情など無視した弓矢隊の指揮官が再び口を開く。
「第二射用意!!」
「た、隊長!! 前方に誰かが向かってきます!」
一人の弓兵が指差した。それはたった一人で走り弓矢隊が居る方へ、真っ直ぐと向かってくるようだった。その者に続く者は誰も居なかった。
「ハハハハ。たった一人で何が出来る」
「どうしますか?」
「よし。余興だ。奴に向けて矢を放て。陛下も喜ばれるだろう」
弓矢隊の副隊長がうなづくと手の平を掲げた。
「放て」
向かってくる者に嘲笑しながら手の平を振り下ろし矢を放つ命令を下す。




