調査報告 その6
翌日、この日はなぜか、天候は晴れ渡っていた。朝早く、まだ日が昇りきっていない時間、ミネルヴァが薪を集めて篝火を用意し、火を灯す。その横には巨大な猪が横たわっていた。どうやら、朝方に山に入り仕留めたのであろう。それを主であるヨハンネに食べさせようと考えていた。
そこにグラリスが現れる。ミネルヴァが過剰に反応を示す。
「……なんですか? これはご主人様の物です」
グラリスを睨みつける。
「貴様は相変われず、私に対して酷い態度だ」
「……」
ミネルヴァは目線を篝火に向けた。グラリスはミネルヴァに歩み寄って隣に居並ぶ。
「貴様は、何故そこまで忠誠を誓う?」
少し間が空く。
「質問の意味がわかりません」
「貴様は奴隷だ。騎士ではない。それぐらいわかるだろ?」
横目で右手に押された奴隷の証である烙印を見つめながら言った。
「何が言いたいのですか?」
「だから、その、あれだ、あのヨハンネ殿に忠誠を誓う理由はあるのかと聞きたいのだ……」
「……優しいところです。誰よりも優しくて、はかなくて、守ってあげたいのです」
そう聞き取れないほど、声音が弱く、小さくつぶやいた。
「そうか。それが貴様の本音か。フフフ……良いことを聞かせてもらったよ本当に……。これで私の調査は終わった」
手に持っていた報告書の紙の束を篝火に放り込んだ。その紙の束はメラメラと燃え始めた。ミネルヴァは流石に予想できなかったのか、グラリスの横顔を見つめる。
「良いんですか?」
「いいさ。こんなもん隊長に提出なんか出来ないし」
そう述べると、その場を立ち去ろうとした。グラリスが振り返る。
「あっ言い忘れた。貴様は騎士では無いが……武士かもしれんな」
「武士?」
ミネルヴァは小首を傾げる。
武士とは極東の島国で宗家を中心として家族共同体であり、戦闘を専門にしたジパルグ民族の騎士的な存在である。
その疑問の声にグラリスは応えず、手をひらひらしながらミネルヴァの前から立ち去っていく。
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数日後、グラリスの家にて。
―――――――――報告書、奴隷監視委員会、第十一保安部隊所属。グラリス・アレイシアより三日間の最終的報告をします。対象者である名をミネルヴァという奴隷は主人に対して、忠誠の誓いを奴隷としての役目を全うしている事が確認できました。現在のところ問題点は無し。対象者は奴隷として、主人に役立ち、まさに下僕らしい者です。以上―――――――――
「私はもうこんなクソみたいな仕事は辞めて、家族と農業でもして、ひっそりと暮らそうかな……」
グラリスは頬杖を付き、窓の外を眺めた。
「ねぇねぇ。お姉ちゃん? また奴隷さんの監視のやつ?」
グラリスの弟がその報告書を指差した。
「まぁねぇ……」
弟の頭を撫でた、そして、グラリスは右腕に付けた赤の腕章を外し、引き出しにしまい込んだのであった。




