犬猿の仲 その2
――――――――――ミネルヴァは黙々と山道を歩いていた。急ぎ足な彼女の後ろを追うようにハルトがついていく。彼はとてもだるそうにしていた。なぜなら休みなしに小阪を歩き続けていたからだ。長時間の上り坂に疲れたのである。しかし彼の疲れを気に掛けることなくミネルヴァは進み続ける。ミネルヴァが嫌いなハルトを無理矢理連れて来たのはm理由があった。それは道案内させる為だった。彼女は外を知らない。早速、ミネルヴァが脚を止めた。そして、ハルトの方に振り向くと質問してきた。
「……この道はどっちに行けばいいの?」
二手に分かれる道。どちらも行けそうな気がするがそうはいかないのが山道だ。ハルトはミネルヴァの質問に答えようとはしなかった。
「マジでだるい~」
「……早く言って」
「なぁ~今からでも遅くないし帰らない?」
道案内をしてもらっているので怒らないと決めていたミネルヴァだったが調子に乗ったハルトに彼女の眉がはねる。提げている剣の柄に手を置いてギロリと睨み上げ、ハルトを威圧する。思わずハルトは全身が凍りつき、真っ青な顔をした。
「み、右ですッ! 右に行けばアカルス鉱山ですッ! はいッ!」
ハルトは殺気を感じ取り、敬語になる。
「そうですか。では進みましょう―――――」
ミネルヴァは再び、前へ振り向いて、言われた通りに右の道へ歩き始めた。危機が去って、ハルトは安堵のため息をつくと嫌々ついていく事にした。しばらく歩いていると、アカルス鉱山の入り口に辿り着いた。その場で妙な物が二人の目に入る。戦闘があった様子なのか、血溜りと馬の数頭がうろうろと歩き回っていたのである。ハルトがその光景に息をゴクリとのむ。
(―――――――――生存者はいない……ここで何があっただろうか?)
ミネルヴァは辺りを警戒しながら探った。
「……こ、これはやばいと思うよ」
「……?」
その言葉にミネルヴァは振り返ると彼がある場所を指差していた。そこには大きな足跡があった。ミネルヴァには何の足跡か検討もつかなかったが、ハルトは良く知っていた。
「トロールだ」
ミネルヴァが小首を傾げる。ハルトが見た目を説明する。
「巨大な化け物。これは引き返すべきだぜ……。うん、そうしょう!」
「無理です」
ミネルヴァは即答する。そんなとき、鉱山の奥から悲鳴が響き渡った。
「ぎゃああああああああああ――――――――ッ!!!!」
「ひぃ!?」
ハルトはビクついた。ミネルヴァは敏感に反応する。彼女は何を思ったのかその鉱山の中に走り込む。
「あっ、えっ?!! ちょっと?!」
ハルトは一人になってしまった。さっきの鉱山からの悲鳴は明らかに誰かが殺されたという事がわかる。つまり危険。しかし、ここに一人で留まるのも危険だ。ハルトは再び、息をのみこみ決意した。はらをくくった。そして、ミネルヴァの側に居る方が安全と判断したのである。
「おいらを置いていくな――――こ、このろくでなしッ!!」
ミネルヴァの後を追うように走り出す。
「がはっ」
兵士が岩壁に叩きつけら鎧がへしゃげる。目の前に三・四メートルほどもあるトロールがこん棒を振り回していた。この兵士たちはプルクテス国からの捜索隊である。として偶然遭遇してしまったトロールと戦闘になり、ようやくここまで追い詰めた。だが、苦戦を強いられていた。
「何というおぞましい化け物だッ!」
捜索隊の隊長が顔を渋らせる。トロールは岩肌のようにゴツゴツとした体に黒くて長い髪の毛。剛力さは異常で、下手に近づくこともできない。
トロールが近くに落ちていた大岩を投げつけてきた。大盾を持った兵士が三人、一瞬で潰される。
「た、隊長!! こいつは太古の魔物でありましょうか?! こんなトロール、見たことがありません!!!」
深刻な面立ちの兵士が訴えかける。口にはしなかったが、撤退を進言したが。
「退いてはならん。こんな化け物を街に行かせてはならんのだっ!」
「こんな、狭い場所では不利です! せめて、援軍を――――」
「ぐぬぬ……」
捜索隊の隊長がぐぐもった声を出す。彼は国に従順で、務めを重んじることを大切にしているが、流石に今回ばかりは脚が竦み、震えていた。
(――――――こんな化け物……我々には敵わない……)




