表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/280

犬猿の仲

 男の子の名はハルト。プルクテスで有名なスラム街の出身で親も知らない。一人でその過酷な世界にここまで生きていた。一日いちにちを食い繋ぐためには殺し以外はなんでもした。それしか彼には選択がなかったからだ。


 そして、いつも通り、大きな屋敷に忍び込み、実っていた葡萄を盗み出そうとした。だが、有能な番犬がいた。


 ヨハンネの好意で、ミネルヴァの師弟として命を救ってもらう。助けたハルトを彼女は冷たく当たり、邪魔者の様に扱う。主の頼みだから仕方ない、と思っているようだ。


「でさ、でさこの前にさぁトレチカって奴が盗賊に襲われて、勇敢に闘ったんだけど、集団でリンチされたんだ。そして身包みを剥がれて、残されたのはパンツ一丁だったらしいよ。受けるよね! アハハハ」


 手を叩いて大笑いした。


 トレチカとは男爵の息子で中肉中背。いつも片手には干し肉とかを持っていて、食べ歩く食いしん坊だ。典型的な貴族といった所だろう。


「それは……可哀想に。……同情するよ。何か贈り物でもするべきかな……?」


 その話を真面目に聞くヨハンネに、優し過ぎる、とそうハルトはそう思い苦笑いする。


「いいじゃね別に、弱いのが悪いんだよ」


 ハルトは弱い奴は強い奴に負ける。という弱肉強食の世界で生き抜いてきた。優しさや同情を見せた瞬間、命はないと思ったほうがいい。そのため同情なんて意味がなく対価がない事をよく知っていた。


「……そう言う言い方はよくないよ」


 ヨハンネは深刻な顔をして、視線を送る。それにはハルトは苦笑いする。そんなときにそこ、邪魔です、と後ろからやって来たミネルヴァがハルトを肘で横に押し退けた。


「な、なんだよ?!」


 ミネルヴァはハルトを完全無視しながら自分の主の前に立ち、礼儀正しく一礼する。


「ご主人様。ただいま帰りました」


 ハルトには目も止めず、ヨハンネだけを見ている。ヨハンネが手をあげて彼女を労う。


「ご苦労様。買って来てくれた?」

「はい。頼まれた通りに」


 と言うと、脇に挟んでいたロール状になった紙をヨハンネに渡した。


「そうそう。これこれ。ありがとう!」


 ヨハンネは無邪気に喜び、早速、ロール状の紙を机の上に広げる。彼にとって待ちに待った品物の様だ。とても、嬉しそうにしている。


 ハルトは気になり覗き込む。


「あんちゃんこれはなんなんだ?」

「ん? これはね、幻のソリアっていう花について書き記されたものなんだよ」

「は、花? そこら辺に咲いている花の事か?」

「ハルト。これはただの花じゃあないよ。これは太古の時代から咲き続ける安らぎと平和の象徴の花なんだ」


 描かれた所を指差す。


「……これは?」


 眉を顰めて、ミネルヴァがつぶやいた。


「これが王の花だよ」

「へ~」


 ハルトはあまり興味がなさそうだったが、ミネルヴァが言った。


「ご主人様にとても似合いそうな花ですね」

「そうかな? 僕にはその器は無いと思うけどなぁ」


 そんなことはありませんと、ミネルヴァがそう言った。ヨハンネは彼女にお礼を述べた。そのあと、もう一度、描かれた白い花に目を落とす。


「……まぁ……もう何処にも咲いてないだけどね。これは飾るだけにしておこうかな」


 ミネルヴァが興味深そうにその絵を覗き込む。そこには色彩豊かに描かれており、花の形やそれが咲いていた場所まで、描かれていたのであった。ミネルヴァは目を細めた。


「ご主人様。これはもしかして、プルクテス国ではないですか?」

「ん~確かに場所的にはプルクテスかもしれないね」


 古い地図の為、文字がかすれて読めなかったが、場所的にはプルクテスだったため、ヨハンネは不安そうにそう答えた。


「ではここは?」

「方向では……そう、アカルス鉱山の様だね多分……」

「ならば、行けそうです」


 ミネルヴァは身体を起こし胸を張る。彼女の言葉の意味がわからず、ヨハンネが訊ねる。


「えっと……どういうこと?」

「ご主人様の為に、私たちで探しに行って来ます」


 それに素早く反応したのがハルトだった。


「ちょ、待て。私たちって何で複数形?」

「決まっています。ハルトも行くんです」

「いや。おいらは遠慮する。アカルス鉱山は問題が多すぎて廃坑になっているはずだ」


 アカルス鉱山はプルクテス国の金山として、採掘が行なわれていたが過去に落盤事故が多く、結果、採掘は中止され、そのまま放棄された所だった。このプルクテスでは珍しくはない。放棄された鉱山は現在、魔物の住処となっている事が多い。


「僕も、お勧めできないよ。ましてや、あるかもしれない幻のソリアの花を探しに行くなんて」

「ご主人様。必ず見つけます!」


 珍しく強気に言う。


「いやいいよ……」

「私はご主人様に喜んでもらいたいんです」


 小さく一礼する。


「マジで言ってんのかよ?! おいらはごめんだね」

「うるさいです。ハルトの意見は必要ない」


 ハルトの襟を掴み、引きずりながら扉の方に向かう。


「いやだー! あんな所、行きたくないぃぃ!!」


暴れて逃げようとするが、ミネルヴァからは逃げられない。


「ちょと、待ってよ。せめて僕も一緒に」


 ヨハンネは自分の荷物を急いで準備しょうとしたが、その言葉にミネルヴァは振り返り、圧力を掛けるように言った。


「大人しくしてください。ご主人様。い、い、で、す、か?」

「あ、はい。大人しくしています……」


(―――――――なんか……殺気を感じた……)


 そして、彼女らはその場を後にしたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ