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小さな泥棒 その4

 ヨハンネが逃げるように立ち去った後、二人だけの沈黙が続く。男の子は顔を引きつりながら、ミネルヴァを横目で見た。それに気がついたミネルヴァが質問してくる。


「そう言えば、名前?」


 ミネルヴァは名前は必要最低限、聞かなければならないと思った。


「え、おいらか? おいらはハルトって言うんだ」

「ハルト。では一つだけ忠告しておきますが、もしも、ご主人様に迷惑を掛けたら考え直す時間は与えません」


 ハルトはミネルヴァから殺気を感じた。今でも殺すと言わんばかりだ。一歩下がると必死、自分が出来る事を主張した。


「おいらはむ、むしろ役に立つ! ほら、小柄だからあんちゃんの命令さえあれば邸宅とかに侵入できるし、密偵は大の得意なんだ」

「それは、いずれわかる事です」


 ミネルヴァはヨハンネの居る所へ足早に向かうのであった。





==========================================================================





―――――――――帝都マキシリアンにある皇城の皇の広間にて――――――――


 フェザールは一枚の絵に目を輝かし上機嫌に笑みをこぼす。大きな絵を両手で持ち上げ、細かく確認していた。


「……うむ。実に素晴らしい」


 手にするその一枚の絵には皇城が黄金色に輝くように描かれていた。現実の皇城とは形も規模も全く違う。左下には、“黄金都市計画”と書かれている。フェザールは帝都を丸ごと黄金都市とする計画を立てていた。その構想は城中を隅々まで金箔に塗り、柱も床も天井も更には玉座もすべてを黄金にするつもりである。その莫大な金はどこから手に入れるのだろうか?


「主様。只今、リッセルの粛清から帰って参りました」


 先ほどまで居なかった二人の美少女がフェザールの背後から影のように現れる。


「早かったではないか。今回は誰がやったんだ?」


 それにポニーテールの女は小さく手を挙げた。フェザールがいつもは釣り上がった目を緩ませ褒め称える。


「あぁレイラかぁ。よくやった。で、どうだった久々の殺しは?」


 レイラと呼ばれる少女にそう述べたあと、彼女へ顔を向ける。レイラはそれに微笑み、久々の殺しが出来て楽しかったようだ。


 レイラ・ラレイ。ポニーテールで茶髪。ホワイト・スネーク隊所属。斬り込み隊長。幹部である四人衆の一員である。性格は短気で、口調が荒い。人を殺す事を好むが顔立ちが悪い男を嫌う。また、同じく顔立ちが悪い男の血を浴びるのを極度に嫌う。


 レイラはどこか残念そうな素振りをして返事した。


「なぁあいつら、弱すぎて退屈だったわ。それよりさぁ? てめえを殺させてくれないかな?」


 そう言って怪しい笑みと白い歯を見せる。


「バカを言え。バルカスに新しいターゲットでも見つけてもらうのだ」

「ちぇ。はいはい。りょーかいしました」


 不貞腐れた態度で、手の平をひらひらさせる。


「ロナス? 奴の動きはどうなっている」


 レイラの隣にいた貴婦人のような落ち着きのある面立ちをしている女性にフェザールが話に掛ける。


ダリア・ロナス。ロングヘアに蒼い髪。髪は後ろに束ねて団子にしている。ホワイト・スネーク隊所属。密偵及び工作員。四人の衆の一人である。彼女は見た目通り元々は貴族の婦人だった。しかし、夫は戦場で戦死した。路頭に迷っていた所をフェザールに拾われた。ちなみに、ヨハンネな少し前に出会った町娘は彼女である。


「主様。順調に動いているようで、アレーは現在のところプルクテス内部に潜伏中ですわ。決起は、まだかまだかと尋ねてきています」


 その言葉にフェザールが大きく頷いた。


「うむ。君はやはり優秀だなぁ~あんな危険な所でも密偵を完遂するなんて」

「いえいえ。これも主様の根回しが効いているのですよ」

「あと二人はどうした?」


 椅子の肘置きで頬杖をつく。


「あいつらは、手下を率いて北部戦線に参加しているぜ」


 レイラはフェザールの前に回り込み、手にする地図を覗き込む。


「それよりよぉ。なんだよ? その絵は」

「レイラったら。そんな事も知らないのかしら」


 呆れたような顔でレイラを注意した。


「うるせぇ。ババァ」


 レイラはダリアに噛み付く勢いで応える。


「ここでは怒るな」


 フェザールが手の平を掲げて、レイラを静止させる。ダリアもレイラに指を立てて、絵の説明した。


「いいレイラ? これは主様の黄金都市。富みと権力の象徴として帝国の強大さを海外に知らしめる為なのよ」


 それにレイラは腕組みをして聞いていたが頭を傾げる。


「俺にはよくわかんねぇな。力こそ全てとか言ってなかったか? なら武力さえありゃあ問題無くないか?」

「政治と戦略は違うぞ。それに、植民地化した国を抑圧するにはこれが必要なのだ」

「主様は常に未来を考えておられるのよ」

「プルクテスさえ、攻略してしまえば、この大陸は私が掌握した事になる」


 フェザールの野望、それは大陸を統一した後、海外に進出し、植民地にする事である。しかし、プルクテスは違う。全て根絶やしにする予定だ。理由はフェザールの母親がプルクテス人に暗殺したからである。誰かはわからない。プルクテス人の誰かが、フェザールの母親を殺したのは間違いなかった。過去に調べた事があったが、ジャバ王の手下までで行き詰まってしまい、犯人は不明のまま。ジャバ王の王宮は警備が厳重であり、海に囲まれた離れ島に建設されいる為、一つしかない石橋を通らなければ、そこには行けない。


 よって、根絶やしが手っ取り早い事になる。作戦は全帝国軍による完全に包囲による総攻撃である。親衛隊も参加予定。しかし完全包囲には兵力は足りない。そこで、今、大陸の隅々に流れている“奴隷解放戦争”の合言葉である。それはフェザールから流した情報工作であった。


(――――――――駒は揃った。後は、待つのみ……か、クククク…)

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