吟遊詩人 その2
「やぁ。こん、にちはぁ―」
詩っていた少女が陽気にヨハンネに話しかけた。知らない人が突然、話しかけてきたため、戸惑うも会釈して応えた。
「あ、こんにちは」
「わたーしのあー名前、ジェシカ……え――言葉、あってまーすかー?」
典型的な片語とでヨハンネは苦笑いになった。笑ってはいけないと思い堪える。
(――――――あはは……この人は何処の国の人なんだろうか……?)
正直、凄く言葉がうまくない。ジェシカの肌を見るに色白のなので東洋出身ではなさそうだった。となると西の海洋国家あたりとヨハンネは考えた。
「あ~もしもし? きーてますか?」
「あっ、えっと僕の名前はヨハンネ・キンブレイト。それから僕の隣に居るがミネルヴァ。彼女はその、僕の護衛的役割です」
公の前では、ミネルヴァの事を護衛官としないと監視委員会に怪しまれる。ミネルヴァは小さく会釈すると共に少しだけ警戒しているようだ。睨みつけるような視線を送るミネルヴァにジェシカが顔を覗き込ませて、黒い髪を不思議そうに見つめ小首を傾げた。そして、触ろうとする。ミネルヴァが触られるのが嫌だったのか反射的に後ろへさがった。
「おおぅ……残念――――――彼女、ジパルグ人ですー? ……あっですよーね?」
「えぇそうです。流石ですね。彼女がジパルグ人って一目でわかるなんて」
ヨハンネは関心しながら言う。照れながら応える。
「あははっ。当たーり前です。これでも、私、世界を―旅してま―すからね―」
そういうと片目をパチリとした。なんの意味があってしたのかはわからなかったが、自慢したかったのかとヨハンネはそう思った。どこかで歯軋りがしていたがヨハンネは気が付かなかった。
(―――――なんか、慣れないな。このやり取り……)
「あの、良かったら、世界で何が起きているか僕に教えてもらえませんか?」
「おー! 良いね。探究心ってやつよーそれ。感心感心。では、何から話そうか―?」
「じゃあミネルヴァの故郷については?」
ヨハンネが言った。それにミネルヴァは彼の横顔を見る。
「わかりました。ではでは……」
―――――――遥か遠くに小さな島国がある。大小の異なる大きさの島々があり、それらが統制された統一国家。それがジパルグの国。民族的に忠誠と礼儀を重んじる傾向があり、そのお陰で、とても平和な国らしい。そこで、見た兵士の姿はこことは異なる。勇ましく、凛々しい戦士たちは、死を恐れない。それよりも死を美化し、いかにして、華やかな死を遂げるかを重視しているようだ。彼らは人々からこう呼ばれている。“サムライ”と。闘う姿はまるで騎士の様で、分厚い甲冑で身を包み、戦場を駆けまわる。また気候が良く、花は珍しい物ばかり。島の三分の二は美しい森が広がる。人が住む、家は木製で建てられて、とても丈夫だそうだ。
「お~い! ジェシカ行くぞ。そろそろ移動だ」
話の途中で、大柄の男が遠くからジェシカを呼んだ。
「マース、了解よ―。 じゃあまた、どこかであいましょう――――ねぇ。お二人さん。バイバイよ」
「もう行ってしまうのですか?」
「私、忙しいよ。とても」
「そうですか。ではまたどこかで。ジェシカさん」
ヨハンネが別れの挨拶を送るとジェシカはニッコリと笑い、可愛らしく手を振った。
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ヨハンネは名残惜しそうにしていた。そんな時、ミネルヴァが思っていた事があった。
(――――――――今日はなぜか、私の故郷の事を言っていた。もしかして……)
「ご主人様?もしや、私に為に吟遊詩人に会いに行ったんですか?」
それにビクついたヨハンネは笑いながら振り返る。
「ハハハ。バレちゃった?」
「そんな気がしていました」
ヨハンネは頬を人差し指でポリポリと掻いて目線を逸らした。
「いや……そのミネルヴァに故郷はどんな所かなって思って……」
「わざわざ、ありがとうございます」
深々と頭を下げた。それに焦りながらヨハンネが言った。
「お、お礼は僕がすべきだよ。ミネルヴァにはいつもお世話してもらっているし」
ヨハンネは彼女の肩に手を置いたのであった。ピクッと彼女の身体が敏感に反応する。
「さぁ。帰ろうか?」
「は、はい。ご主人様」
(―――――――あれ、なんか、動揺している……?)
疑問に思いつつも二人は来た道を帰り始める。帰り道、先ほど、通りすぎた雑貨屋がヨハンネの瞳に入った。
「あっ!! あれはもしや、ドーラ王の大冒険?!」
吸い込まれるように雑貨屋に走りこむ。
「らっしゃい!旦那」
「この紋章、この分厚さ、そしてこの文字!!!」
「えっ旦那? それは写本だよ」
雑貨屋の店主が言った。
「写本でも凄い。これは買う価値があるよ」
それに店主が怪訝する。
「えぇ……そうですかね? 曲がり物にしか思えませんが……?」
品を売り込む店の者がお勧めしないという事は、信頼が出来ないことになるがヨハンネには関係なかった。
(――――――僕はもうこれを買う以外ない………)
ヨハンネは思っているようだ。店主が言う通り写本には間違いないが文章は同じだから問題ない。そこは別にこだわらない。真の愛好家には原本が読みたいものだがそこは妥協だ。
「あ、ついでにここにある本全部僕に下さい」
店主の目が点になる。
「だ、旦那、そりゃあ本当ですかッ?!!」
「お金ならあるよ」
財布からプルクではなく金貨を出した。
「どひゃあ―――――こりゃあすげ――!!! あ、ありがとうごぜいます。いやーお目が高い」
店主は満面の笑顔で言った。
(――――――――ご主人様は本当に本が好きですね、呆れるほどにと言うべきか……)
ミネルヴァは心でつぶやいた。だが、主人の喜ぶ姿を見ていたミネルヴァはどこか自身でもなぜか嬉しくなっていた。思わず、口端が緩みそうになった。




