ワインを輸送せよ! その4
「―――――――なら、安心しました。では、これまでやって来た悪行をあの世で悔やんでください」
すこし胸を撫で下ろしたミネルヴァは後始末をするため剣の柄を握り直す。殺されると悟った首領は自分がどれだけ、生活に困っているかを説明し始めた。
「待ってくれ。聞いてくれ頼む」
必死に訴えかけられたミネルヴァは聞いてみるだけなら、と言って盗賊などをする理由を聞く。
「お、俺には小さい子供が居るんだ! わかるだろ? う、家で俺の帰りを待ってる。俺だってやりたくて、やってんじゃあねぇ。生きるにはこれしか無いんだ。な?頼むよ見逃してくれ。もう足を洗う絶対だ。頼む」
その真剣な眼差しにミネルヴァは負けたのか剣を鞘に納めた。
「……では貴方が変わる事を願います」
そう言い残し、立ち去ろうとした。だが、ミネルヴァが後ろ姿を見せた瞬間、首領はニカっと薄く黄ばんだ歯を見せる。
「ブハハハハハ! 詰めが甘いぜ。死ねぇぇええええ―――――――ッ!!!!」
近くに落ちてあった鉄斧を振り上げた。しかし、ミネルヴァは直ぐさま剣を抜き、頭上で鉄斧を食い止める。首領引き下がらずそのまま追い込むように受け止められた鉄斧に全体重を掛けた。だが、一向に動かない。力を入れても、びくともしないのだ。
「残念です。ご主人様の脅威は排除します」
「てめぇ! なんで動かん! この怪力野郎がぁあああ―――――――!!!!」
首領は今の状況に違和感を見つけた。それは、彼女が右腕だけで自分の攻撃を防いでいるからだ。
「あ、ありえねぇ。なんなんだよ。お前は」
ミネルヴァは何も答えず、右から左へと振り返るように回転し、そのまま、頭の露出した腹部をえぐる。ずしゃんと鈍い音がした。
「ほんと、あ、ありえねぇ……」
後ろへ手を付くことなく倒れ込んだ。闘いは終わった。ミネルヴァの完全勝利といえるだろう。一度、生存者が居ないかを確認した後、再び剣を鞘に納めヨハンネが向かった方向へ走る。近くに主人を失った馬が居た。
「これからご主人様の所に行きます」
そう言うと馬の方から膝を落とし座り込む。乗りやすいようにしたのだろうか。それにまたがると馬は立ち上がる。腹を蹴りそのまま駆けた。
数分後、ヨハンネの後ろから馬の蹄の音が近づいてくるのがわかった。グレイゴスはまた焦る。
「新手か?! 逃げるぞヨハンネ」
鞭を打とうとするとそれをヨハンネが口で止めた。
「待ってください! 父上。彼女です」
「ミネルヴァが?」
振り向くと確かにミネルヴァの姿が見えた。グレイゴスは驚愕する
(――――――こんな短時間で、追いついて来たのか?!)
「グレイゴス様、ご主人様。ただいま戻りました」
ミネルヴァがそう二人を交互に見たあと、頭を下げた。
「彼らは?」
「今後、ご主人様の脅威になると思い、全員排除しました。逃した者いません」
「そ、そうなんだ……出来れば殺したくなかったけど……。他の人が悲しい思いをするよりは良いと思うからね」
そうヨハンネは自分に言い聞かせるように言った。
「にしてもだ。助かった。感謝するぞ!」
「では、行きましょう! 父上、ミネルヴァ」
「うむ!」
グレイゴスは機嫌良く言った。ミネルヴァの方は声は出さなかったが大きく頷いた。こうして、キンブレイト商会の極上ワインはニカラの館に無事に届いたのである。
数日後にはミネルヴァが壊滅させた盗賊団の噂は各地に広まった。“黒髪の少女が無慈悲に極悪の盗賊団を皆殺しにした”、と酒場などを通じて再び有名人となった。ニカラが治める地域と王都ニブラスへ続く街道では盗賊は一人も出なくなったのであった。
そんなミネルヴァのことが書かれた貼られた紙を偶然見かけた二人の少女がそれを読んで感心していた。
「へ~黒髪の女か。噂は聞いてるけど、強いのか?」
「さぁ。どうだろうね。盗賊って雑魚ばかりだからね」
「やりあってみてぇーな」
茶髪の女はそう余裕の笑みを見せたのであった。




