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陥落した東部 その5

「はぁ……そろそろ動きますか」


 ヨハンネがつぶやいた。身体を起こそうとしたとき、部屋がノックされた。それにどうぞと言って入ることを促す。メイドらが着替えの服を抱えて入ってくる。そして彼の前で一礼すると寝間着を剥ぎ取り、普段着を着せられる。別のメイドが頭に巻いてある包帯を付け替え、そして無理矢理テーブルに座らされた。ヨハンネはされるがまま。まるで、人形の着せ替えみたいだ。脱力した顔をして、抵抗もみせない。一通り終わるとメイドらが一歩後ろに下がった。


「では、我々は朝の業務がありますので、これにて失礼します」


 一人のメイドがそう言うと他のメイドらも同じく姿勢を正し足を揃えてお辞儀する。


「「「失礼します!」」」


 嵐の如く、去っていくメイドらだったが、代わりに今度はミネルヴァが入って来る。前にも言ったが、彼女はヨハンネの専属メイドとなったようだ。まぁ彼女の場合は私兵とする方が正しいかもしれない。素手で正規兵を制圧出来ると僕は思う。


(――――――昨日なんか凄かったし……)


 ミネルヴァが側に居るだけで凄く安心になる。前まで盗賊や侵入者にビクついていた自分が不思議な感じに思えた。


「あれ?」


 よく見ると、ミネルヴァの手には、陶器の水差しと料理らしきものが見えた。湯気をあげている。


「あの、それはなんですか?」

「お粥です。ロベッタさんに作り方を教えてもらったので、早速作ってみました」

「あ、そうなんだ……」


 ミネルヴァは彼の前にそのお粥をゆっくりと置いた。


(――――――もう食べれない)


 しかしなぜか食欲がわいてきた。数秒の間、どうしてだろうと凝視していると彼女が気に掛ける。


「ご主人様、私が食事のお手伝いを致しましよう」

「え?」


 見上げるとミネルヴァは既に彼の直ぐ側に来ていた。ヨハンネの肩に彼女の胸が近くにある。


(―――――――うわぁ……いつの間に……)


 木のスプーンでお粥をすくい上げ、自分の口元へ持ってくると、小さな息を吹きかけて、熱を冷ます。どこでそんなこと覚えたのかと疑問していた。尋ねようとしたがミネルヴァが、ヨハンネの口元へ木のスプーンを持ってくる。


「どうぞ。食べやすくなったと思います」


 それになぜかヨハンネの胸が熱くなる。


「あ、ありがとう……」


 ヨハンネはそう言って一口頂く。とてもおいしかった。思わずどんな薬味が入れられているのか気になり見入ってしまう。


「どう、ですか?」

「うん、凄くおいしいよ。君も食べてみたら?朝飯まだ食べてないでしょ?」


 しかし、ミネルヴァは首を横に振った。


「私はいりません」


 彼女は続ける。


「ご主人様は怪我をなされた為、いち早く回復するには、たくさん食べなくてはいけないとロベッタさんが言ってました」

「はい、はい。じゃあミネルヴァ? 目を閉じて、口を開けて」

「はい?」


 怪訝する。ヨハンネが何をするのかわからないようだ。


「ほら早く」


 急かすと、彼女は不思議な顔をして、口を開け、目を深く閉じた。その間にヨハンネは、彼女の手から木スプーンを取ると、彼女がやったように。お粥を冷まして、彼女の口へ運ぶ。彼女は口を閉じると少し驚いた。


「ん?」


 目を開けてヨハンネが何をしたのかやっと気がついた。


「どう? 美味しいでしよう」


 ヨハンネがニコッと笑うとミネルヴァは美味しいです、と答えた。 自然な形で見つめ合う二人はまるで、恋人同士のようだった。


「よう! ヨハンネ。怪我したんだって?」


 いきなりヨハンネの部屋にダマスが入っていた。


「え!? ダマス?!」


 ヨハンネは顔を赤らめる。


「あっ俺、お邪魔だった?」


 ダマスはとぼけるような顔でニヤニヤしながら言った。


「邪魔な訳ないよ!」

「へ~何かさっきのは、良いムードだったと思うけどなぁ」


(―――――――ダマスはどこから見ていたのだろうか?)


「と、言っても、彼女にはそんな気は一つもないんだろうけど――――お。これうめぇな」


 貴族生まれのダマスは手が汚れる事など御構い無しに素手で食べた。


「もう少し、貴族らしくしてよ」

「まぁまぁそう言うな。あっいけねぇ。忘れてた。また帝国が動き出したぞ」

「本当?」


 ヨハンネは真剣な顔をして言った。ミネルヴァも帝国のキーワードにピクリと反応を見せた。彼女なりに帝国を警戒をしているのだろう。


「あぁ間違いない。近い内に北部を攻め落とすつもりだ。ヨハンネ?そろそろ南部も危なくなって来た。そこでだ。俺に考えがある」

「考え?」

「国外に逃げる」

「そう……」


 目線を下におろした。ヨハンネはずっとその事を考えていた。驚く事はなかった。


「ありゃあ?リアクションが低いな」


 反応が薄い事にダマスは驚いた。


(――――――――いつもなら、かなり驚くんだが今日は違う。お前は最近、難しい顔して一体、何を考えてる?)


 とダマスはヨハンネに心の中で問いかけた。当然、口に出していないので返事は返ってこない。


「ねぇダマス? 帝国は何で今頃、統一戦争なんてしているんだろうね」

「さぁ……まぁ俺から見たらフェザールは時代遅れの征服者とかじゃないか?」


(――――――征服者か)


 帝国は不思議な事に奴隷は殺さず、貴族や富裕層を容赦無く殺している。それは、異常なぐらいに徹底されていた。ヨハンネには貴族や富裕層に対してフェザールは憎悪感があるように思えた。


(―――――――もしも殺されるならミネルヴァに殺して欲しいかもしれない)


 その時が来たら彼女にお願いしよう。そうヨハンネは決めた。


(―――――――優しく、苦痛がないように……)


 黙って殺されるのを待つのは嫌だったヨハンネはダマスに質問する。


「国外逃亡の計画とか、あったりとかする?」

「おう一応あるにはある。がまだ準備出来てない。なにせ一から造ってるからな」

「へっ? 何を造ってるの?」

「はぁ? なにって、船に決まってるだろ」

「船ッ?!」


 ヨハンネが驚いた。勢いよく立ち上がり身を乗り出す。


「そうそう。そのリアクションを待ってました! すげーだろ? 驚きだろ」


 自慢げに胸を張った。ダマスは国外逃亡するとき、足がつかないようにする為に自分の船を造っていたのである。それはプルクテスでは船の管理が厳重で出港と入港の時には荷物、乗員数、目的を徹底している。


「でもさ。港からは出られないよ」

「ご安心下さい!実は――」


ヨハンネの耳ど小さい声で話し始めた。


「それ、凄い! 今度見に行ってもいい?」

「ダメ! 秘密基地の意味がなくなるだろ」

「ちぇ。ケチ」


ヨハンネは再び椅子に座った。


「ケチで悪かったな。じゃあ俺は帰るぜ」

「もう帰るの? ゆっくりすればいいのに」

「貴族は忙しんだぜ」


 親指を立てて笑った。


「はい、はい。気をつけて」


呆れた感じでヨハンネは手を振った。ミネルヴァもダマスに一礼する。

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