反撃戦開始! その3
―――――――――――ところで、ルベアの本隊はというと――――――――――想定した作戦通りに敵を誘い込む事に成功していた。帝国軍親衛隊はまさか自らが誘い込まれたとは思わず、しめしめと後退するルベアの第一分隊を追撃していたのだが。
ふっと親衛隊将校が異様な光景に気がついた。長年の戦いから得た勘という奴だろう。それは少し遅かったといえる。左右を確認すると敵部隊が両脇に展開しており、後方を見れば、退路が味方で塞がれているのである。これでは、味方と敵に囲い込まれたも同様だった。しかも、前線は敵と戦いで既に疲労困憊の状態。後方では未だに血気盛んな親衛隊員が、今か今かと武者震いしながら、目の前に居る味方の背中を押す。
それを見て、ルベアは腹を抱えなが大笑いする。親衛隊の前列が敵に嵌められた事を悟り、動揺している事に彼女には、相手が惨めに思えた。
「さて、そろそろ、暴れるかな?」
そう言うと後ろに控えていた部下に言った。
「あれ持って来て」
「はっ!」
返事よく部下の一人がそういうと、三メートル程もある長槍を彼女の元へと運び込んだ。それを受け取った彼女は次に伝令隊に拳を振り上げ合図を出した。それは“総攻撃開始”の合図だ。合図を目で確認した伝令兵らは深く頷くと左右に展開している第二分隊と第三分隊の方へと馬に鞭を打った。それをルベアが目で見送ると―――――突然、大声を出した。
「第一分隊前進ッ!あたしに続きなッ!」
馬の横腹を蹴る蒼い鎧を着た彼女が眼下で壁を作る味方兵士らを無理矢理退かせ、一人で陣列から飛び出した。ルベアの後方へ待機していた軽装歩兵隊があっと驚く。大将が敵軍の群れに突っ込んだからだ。当然、相手の親衛隊も驚いた。馬の前足で親衛隊の顔面を踏みつけ、槍を振り回す。
「ル、ルベア団長の後に続けッ!全部隊突撃ぃいいいいいい―――――――ッ!!」
部隊の隊長格らが声を荒げ、疲れていた兵士に怒号する。
「遅れを取るな!団長を守れッ!」
数人の隊長格が冷や汗を出していた。なにせ、自分達の団長が目の前で戦っているのだから。後退していた第一分隊が一斉に前進を開始し第二、第三分隊もその伝令が伝わると、焦るように敵を挟み込むように攻撃した。
ローネブは目の前に広がる戦場に自分の目を疑った。敵が寄せ集めの部隊が、反撃してきているのである。一度、崩壊した陣形はそうは簡単に戻せない。戻らないはずなのに。例え、そこに優秀な指揮官、将軍がいたとしても止められないはずだ。それをこの戦場で、自分の目の前で意図も簡単にやって見せた。あまりにも出来すぎている。
「有り得ん、もはや奇跡にしか―――――?」
ローネブは、ある考えに辿り着く。
(―――――まさか、これは、用意されていた事だったら…?これが茶番だったら…?となれば、黒猪騎士団の行動もお見通しなのか?)
ルベアの策略を察したローネブが焦る。
「い、いかんッ!黒猪騎士団を呼び戻せ」
その必死の訴えに部下らは困り顔になる。
「し、しかし、閣下、既に四マイルほど離れておりますが?」
「えぇいいいいッ!!」
なんともいえない気持ちが抑えきれないローネブは地図が置かれている長机を両拳で思いっきり叩いた。それに近くで控えていた衛兵がビクつく。その振動で長机の上に置いてあった作戦駒が転げ落ちる。剣幕の凄まじいローネブに衛兵らが息を呑む。
「か、閣下…?一体、どうされたのですか?」
恐る恐る訊く。振り返ったローネブの目は血走っていた。
「わしの行動が全て読まれておる…嵌められた。小娘に。このわしの得意な戦術で、わしが負けたのだ…」
握った拳を小刻みに震わせて、肩をどっと落とした。ローネブは、引っかかっていた疑問が一気に確信となり、ルベアの考えを理解した時にはもはや、取り返しがつかない状態までに陥っていた事を悟った。長年のお供していた部下らもルベアの企みまでは理解出来ずも、ローネブの初めて目にする動揺ぶりに目を泳がせた。親衛隊の将校も青ざめていた。作戦を委ねたが失敗した。それは自分たちの失敗に繋がる事をわかっていた。となれば、皇帝陛下の逆鱗に触れる事になってしまう。
「な、なんとかならんのか?!」
「ほ、本陣を後方に下げよう。近くに古い砦があるはずだ。そこなら援軍が来るまでに、持ち堪えられる」
親衛隊将校らが、駆け込むように置いてあった木箱の中から、周辺地図を引っ張り出し、荒々しく長机に広げた。中年の親衛隊将校が力強く手の平でたたきつけて、言った。
「ここだ!ここに後退し、援軍を待とう!」
「だが、皇帝陛下にはどう説明する?いや誰がこの事を伝える?私はご免だぞ」
「そんなものローネブに決まっておるッ!この失態はローネブ将軍が悪い。我々はあくまで、支援しろと言われた身だ」
「だが、我々も責任逃れは出来ない―――――――」




