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極東の魔王(挿絵あり)

少年は彼女に出会う(表紙です)

挿絵(By みてみん)

※やさぐれ様の提供。

―――――――剣闘士となった黒髪の少女は毎日同じ時間に起きて、訓練をこなし相手を倒す。それが日課のように、決められた時間が続く。プルクテスも彼女と同じく相変わらず、奴隷売買の盛んに行なわれていた。


「ヨハンネ! 早く、早く」


 茶髪の少年を貴族風の少年が狭い路地を走る。茶髪の少年は腕を掴まれ、無理矢理走らされていた。


「ちょっダマス。そんなに引っ張ると痛いよ。何だよ急に! あっ靴が――」

「そんなのいいから。急ぐぞ!」


 片方の靴を放ったらかしにそのまま走り続ける。そして少年らの目的地に着いた。ヨハンネが疲れた顔で尋ねる。


「な、何なんだよ……ここ闘技場じゃん……」

「えへへ。実は昨日、初めて父ちゃんと一緒に闘技を観に行ったんだけど、五級出身の女剣闘士が魔獣や野獣をバッサバッサと斬り殺してたんだ。あれはもぉ化け物だよ。だからお前にも観せたかったんだ」

「それ本当!? それも魔獣まで」

「あぁ本当さぁ。観たら驚くぜ」


 そう言うとダマスが闘技場に入ろうとした。しかし、入口を守る番兵に止められる。止められるのも当たり前だ。闘技は残虐で殺戮の雨を降らせる。そんな場所に少年がくる所ではない。


 この前の闘技では男剣闘士が野獣に喰われた。その光景を少年が一部始終観るのはまだ早い。


「立ち去れ!」


 番兵が槍で入口を塞ぎ、高圧的な態度で門前払いする。それにダンスが腕組をして胸を張ると言った。


「へーいいのかい? 俺はダマス・サルサットだぞ?」


 その名前を聞いた瞬間、番兵らがビクつく。


「な、ナデル卿のご子息様!? こ、これはも、申し訳ありませんでした!!!!」


 番兵が顔を真っ青にしてダマスに頭を下げた。


 ダマスの父親はナデル・サルサット。この闘技場を運営するオーナーであり、プルクテスの貴族。爵位は公爵である。プルクテスの大貴族の長男に無礼をしたとあると、すぐさま首をはねられてもおかしくない。


「全く。無礼にもほどがある。ヨハンネ! 行こう」

「うん!」


 彼ら二人は石で出来た階段を駆け上がる。すると出口に向かうにつれて徐々に歓声の声が聞こえて来た。そして出口を出た瞬間、円形型をした闘技場が現れた。


「すっげー! 闘技場の中ってこんな感じなんだ」


(―――――――数十万人の観客が収容出来る広さはあるだろうか)


 段々状になった観覧席には、熱狂により汗ばんだ人々で溢れかえっていた。建物の壮大さに心を奪われたヨハンネは驚きと感動した。


「おーい! ヨハンネ。こっちこっち!」


 ダマスがそう手招きする。闘技場の一番観やすい場所、最前列にヨハンネの席が用意されていた。


(――――――マジで!ここ凄い)


 しかもここの辺りに座っている人達って一級国民ばかり。


「―――――はは……僕は二級国民なんだけど……」

「おっ! まだ始まって無かったぜ。ちなみに、ここは親父に特等席を用意してもらったんだ。凄いだろ?」

「う、うん! これなら全体が見渡せるね」


 そして、闘技が遂に始まった。


「―――――紳士淑女の皆様! 大変お待たせしました―――――――っ!」


 観衆が静まり返り、話しを聞き漏らさないようにしている。


「え――本日の剣闘士は三年前に突如と現れた極東のジパルグ民族の女。現在まで、なんと連戦連勝っ! そんな冷血で、無慈悲で、残虐な彼女に付いた称号は“極東の魔王!”」

「―――――ではでは皆さん。お待ち兼ね、極東の魔王のご登場です!!!」


 その声と同時に鉄格子が動く音がし“彼女”が暗闇の中から現れる。


挿絵(By みてみん)

※やさぐれ様提供挿絵


 闘技場が一斉に沸き立った。


「おぉ――――――っ!!!」

「なんて可愛いんだ」

「今日もバッサリとやっちまえ!」


 ヨハンネも驚いていた。


(――――――あの人、軽装!?)


 一発でも攻撃をくらってしまえば、深手を負うのは間違いない。


(―――――それになんて言うかか弱いように見える……)


 彼が想像してたアマゾネスのような屈強な女戦士とは違っていた。ここから観ても身体が細過ぎる。どう見ても剣闘士には見えなかった。


 彼が驚いているのをよそに、闘技の準備が進む。


「――――本日の相手は、なんと暗黒の大地で捕獲された、暴食とキメラっ! さぁ皆様。怖がらないで下さいよ。気絶しないで下さいよ」


 司会の男がわざと間をあける。そして―――……


「では、開門ですっ!」


 すると一段に大きい鉄門が勢い良く内側に開いた。建物の奥から重々しい足音が聞こえる。


「グォオオオオ――――――っ!!!」


 鼓膜が痛くなるほどの咆哮と異形の身体をしたキメラが悠々と登場した。吼えたキメラの声は闘技場が円状になっているせいで地響きがし観客らの体を揺らす。キメラとは頭が獅子、背中に羊、尻尾が蛇になっている魔獣である。


「あんなの、どうやって捕まえたんだ!?」

「すげー! 本物だぁ」


 観客席はさらに沸き立つ。ヨハンネは女剣闘士が心配になった。女の人だから怯えているんだろうと思った。しかし、彼女は違った。剣を鞘から抜いて、闘う気満々。


「嘘でしょ!? 何で? 怖くないの?!」

「馬鹿だな。ジパルグ民族は戦闘民族なんだ。恐るというような感情なんて存在しないよ」


 キメラが獲物を捕らえるかのように身体を低くする。彼女はそれを見ても動じない。キメラがよだれを垂らしながら駆け出す。それは徐々に、速度をあげ、目では追いつけないほどの速さで、女剣闘士に体当たりしようとした。


「剣闘士さん! 逃げてっ!」


 ヨハンネが身を乗り出して言った。しかし、ヨハンネの声は歓声の声でかき消される。だが、驚く事に彼女は一つだけ違う呼びかけをしたヨハンネの声に反応し、顔を向けたのである。その瞬間にキメラが頭突きをする形で石壁まで走り込んだ。


 石壁でズドンと衝撃の凄まじさを物語る異音をあげ、砂埃が舞いあげた。


 黒髪の少女がどうなったのか確認できない。普通に考えて、あの猛然の勢いで石壁にぶち当たれば、挟まれた彼女の身体は骨は粉砕され内臓が破裂し即死しているだろう。

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