第一話 「少年・瑛太」
ーその夜、御手洗瑛太少年はひとり、眠い目を擦りながらも部屋で机に向かっていた。時間は深夜の2時。まだ中学2年生だが、彼は3年くらい前から夜更かしと友達になっている。小学6年生に彼の父親が一戸建てを購入し、その時に自分の部屋をあてがわれてからはほとんどだ。翌日学校があってもお構い無しに起きている。
なぜかというと彼には、人生の中で最も大切な"趣味"があり、毎夜それに没頭しているからなのだ。
その趣味とは「物語を作ること」であり、市販の大学ノートに自作の小説を書くことである。
瑛太少年にはこれが楽しくてしょうがない。
昔から勉強が苦手で人よりも物覚えの悪かった彼であるが、この"小説作り"には世間の小難しい知識などいらなかった。
好きなように自分の考えたキャラをしゃべらせ、動かし、敵対する悪役と闘わせる。瑛太は特にファンタジーものを好んで書いていた。
昔、クラスメートの友達にこんなことを言ったことがある。
「完全なるフィクションは筆が進みやすいよ。だって世界観とかキャラとか、自分で好きなように設定できるじゃん。これがリアルにあるものや現実の歴史に沿ったものを扱ってしまうと、途端におれは書くのがつまらなくなるんだ。おれは頭が悪いけどさ、これだけは人には負ける気がしないよ」
"創作物語"には無限の魅力が詰まっている。
瑛太少年はそう言うのだ。
彼はルールと言うものに縛られるのが大の苦手だったため、尚更この世界に惹かれた。
彼にとって創作物語の飽くなき魅力とは、「自分の好きなように出来る」、その"ルール無用"のやり方にあったのかもしれない。