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業という名の  作者: ラズベリー
2/4

動物病院に行ってきました。



 ──土曜日の午前9時半。


「…黒猫、寒くない?」


『みー』


「寒かったらカイロあるからね。毛布は保温性の高いものをチョイスしたから、くるまってれば少しはましだと思うけれど」


 やって来ました、動物病院。

 周りには犬やインコ、たまに猫。

 病気なのか高齢なのか、具合の悪そうな大型犬(種類は知らない)と、喧しいインコに両側を囲まれております。

 黒猫は、周りを一切気にせずに膝の上で大人しくしてくれてる。ゲージなんてものには入れません。これ、マイポリシー。…周りの迷惑になりそうならゲージに入れるけどね。


「……ほんとに大人しいな、キミは」


 昨夜のお風呂の一件以外、全然騒がないじゃないか。

 鳴いてはいるけど、あんまり動かないし。


「っていうか、キミは一体何才なの? 提出用のカルテには、捨て猫としか書かなかったけど。ほとんどの項目、分からなかったからね」


 年齢は愚か、性別も不明──…見たって分からないものは仕方がないじゃないか。動物を飼うのは初めてなんだよ。

 色んな検査するのかな、とか考えつつ、黒猫を撫でていると、



西島伽乃にしじまかの様ー」


「はい」


 呼ばれた。

 黒猫を落とさないように抱き直して立ち上がり、診察室へと入る。


「──西島伽乃さんですね?」


「はい」


 ドアを開けて入ると、そこには優しげな男の先生。先生と私の間には白いベッドが一つ。


 どんなことを質問されるのだろうかと、緊張してしまう。自分が診察を受けるわけではないんだけどなー…。

 獣医さんの指示通りに、診察ベッドへと黒猫を下ろす。



「初めてですよね。ええっと…」


 カルテらしいものをちらりと見て、獣医は数秒固まって。


「──名前は、黒猫…ですか?」


「性別が分かりませんので、つけられませんでした」


 困惑したようにそう問われたので、そう返答する。すると、納得したように頷いた。


「ああ、なるほど。…オスですね」


 一瞬で判定する先生。

 え、なにその神業。どうやってんの?


「……じゃあ、名前は翡翠ひすいで。瞳が綺麗な緑なので」


「捨てられていた、ということですが…そういうことを鑑みても、生後2ヶ月はたっているかと。瞳が固有の色に変化するのは生後2ヶ月頃ですから。

 ──どのくらいの間、捨てられていたか分かりますか?」


「あ、はい。えっと…昨日見つけたんですけど、その二日前にはまだ居ませんでした」


 あの場所はしょっちゅう行くから、そういうことは分かりますとも!


「そうですか…。見つけてもらえて良かったですね」


 先生の、翡翠を見る目は子供を見るように優しげで、好感が持てた。



「──見たところ、怪我はありませんし、痩せているとは言っても入院が必要なほどではありません。それに、肺炎の心配もないようです」


「よかった…」


 猫の気持ちは分からないから、苦しんでいたらどうしようかと思った。

 いや、ミルク飲んでたから大丈夫かなーとは思ってたけどさ。


「子猫用のキャットフードを与えてもいい頃です。トイレのしつけもしておいた方が賢明でしょう。あと──」


『にぃ…』


 先生から説明を受けている途中で、翡翠が鳴いた。飽きてきたのか、かけていた毛布で遊び始める。


「……翡翠、暇なんだね?」


 気持ちは分かるけど、もう少しじっとしていてくれたら嬉しかったな。翡翠に必要なことを聞いてるんだよ?


『にゃ』


「……。(え、可愛すぎる…!)」


 ──先生! レクチャーも大切ですが、子猫とはコミュニケーションをとることも大切だと思うんですよ。……ってことで、今すぐ家に帰って翡翠とゴロゴロしたいです。



「──お大事に」


「本当にありがとうございましたー」


 ──診察を終え、受付で予防注射の説明を受け、抗生物質だかの薬を処方してもらってから、帰宅した。

 あ、受付で売ってた、猫についての本も買ったよ。猫の生態とかが詳しく書かれているし、猫を飼うのが初心者な者にとってはすごくためになりそうだったからね。



***



『翡翠、私は今から買い物行ってくるよー』


 仮の寝床である毛布でくつろぐ翡翠にそう声をかけてから家を出てきた。

 今は、近所のスーパーにいる。

 ここは、ペット用品や日用雑貨、食品売場やカフェ、なんでもござれの大型スーパーだ。


「(ええっと、まず翡翠のを…)」


 子猫用のキャットフードはすぐに見つかった。種類が多く、何を選べばよいのか分からなかったので、『当店オススメ』の札が張ってあるものにした。


「おもちゃもいるかな…」


 猫じゃらしなら近所に生えてるけど、流石にそれだけだと寂しいだろうし。

 適当に楽しげなものを購入し、次に向かうのは、


「寝床ー」


 言わずもがな、今は秋だ。

 じきに冬が訪れるからか、寝床はあったかそうなものばかりが並んでいた。


「どれがいいかな…」


 この黄色いドット柄の家、可愛いなー。でも、こっちの方がもこもこしてて肌触りがいいし。

 冬は寒くなるし雪が降るから、見た目より機能性を重視すべきかな? 我が家(一人暮らし用)にはこたつが無いからなぁ…。ヒーターはあるけど。

 あ、やっぱこたつ買おうかなー。でも、あんまり無駄遣いしたくないんだよね。高校卒業したら働くつもりだから、それまでに貯金が尽きなければ良いんだけど。 …翡翠? あの子は私の家族だよ。翡翠のために買うもので、無駄なものなんてないよ?


「流石に床暖房式のは高いなー…。光熱費も半端じゃないし」


 ──あれこれ考える。

 結局、購入したのはピンクの家型の寝床。この大きさなら翡翠が大きくなっても使えそうだし、なんせすごくふかふかしてる。保温性が高そうなのが、最大のポイントだ。


「あとは爪とぎも買っておこうっと」


 猫の習性で壁に穴があいたらシャレにならん。



「……あとは食品売場っと」


 特売品のものは必ず購入し、あとは献立を考えつつ買い物かごに入れていく。

 あと、お刺身。これは翡翠の快気祝いを兼ねての、私の夕食だ。


「(こんなもんかな…)」


 自問自答して頷き、会計をすませる。

 お会計は、翡翠のと一括だ。それぞれの売場で経営者が違うわけではないから、レジは全て同じところで構わないらしい。

 こういうときに便利だな、と感じるよ。いちいち違うレジに並ぶのは面倒だから。


「…さて。帰ろっと」


 けっこう沢山買ったから重いけど。



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