猫を拾いました。
『みー』
「……」
『にゃあ』
「…か、」
『に?』
「かわいい、何この生き物!」
思わず抱き上げて頬ずりする。腕の中のその生物は大人しく抱かれるがままになっていた。
「こんなに冷たくなって…」
今日は朝から雨が降り続いている。しかも、どしゃ降り。天気予報で言っていた、秋特有の台風のせいだ。
「寒いよね」
その生物──改め、黒猫は、私の声に呼応するかのように小さく鳴いた。
「…うちくる? 私は一人暮らしだから、全然構わないんだよ。むしろ大歓迎。一人で夜過ごすのは怖すぎる」
会話から察した方もいらっしゃるとは思いますが、この猫は捨て猫。学校の裏で段ボールに入って置かれてたのを、ついさっき発見した。
段ボールには、黒いマジックで、誰か拾ってあげて下さいという趣旨の言葉が書かれていた。
「キミさえよければ、私の家くる? …といっても、小さい一軒家ですが」
生家はここから結構遠いところにあるんだ。…仮に近かったとしても、帰る気さらさらないけど。
「衣食住は保証するよ。…衣がいるのかは不明だけども」
『…みぃ』
そう呟いていると、黒猫が頭をすりすりと、制服に擦り付けてきた。
「いいの、かな?」
再び短く嘶く黒猫。猫語は分からなかったけど、肯定してくれたものと見なした。
***
「…お、意外に艶やかな毛並みじゃないか。色も、漆黒と呼ぶに相応しいものだし」
家に帰ってから、すぐにお風呂に入れた。濡れていて冷たかったし、なにしろ汚れていたから。
そして、お風呂では。やはりというか何というか、猫故に水は嫌いなようで、盛大に暴れてくださった。
弱っている身体のどこからそんな力が出てくるんだか…。いや、もちろん、そんなのにはめげずに洗ったけど。
──今その子は、平たいお皿に入れたホットミルクを舐めている。
よほどお腹がすいていたのだろう。多めに注いだそれも、瞬く間に黒猫のお腹の中に消えていった。
「はいはい、今日はおしまいだよー」
まだ欲しいとねだる黒猫を宥める。…本当は、飲ませていいのかも分からないんだよね。普通の猫なら大丈夫だろうけど、なんせこの子は捨て猫。あんな寒いところにいたんだから、肺炎の可能性もあるわけだし。ほかに弱っているところがあってもなんら不思議じゃない。
「明日動物病院に行こうね」
幸い、明日は土曜日だ。
さっき調べたら、近所の動物病院は土曜でもしているらしいし、学校の授業もないから好都合。
…休みの日だけど早く起きないといけないなー。別にいいけども。