月の輝く夜に
久々に短編書いてみました。つたない文章ですがお手柔らかにお願いします。
月。
闇夜に青白く光るその存在感を醸し出しているものを見たらだれもが美しいと思うだろう。
あるいはそのやさしい光に癒されるのかもしれない。
夜人気のない野道を歩いていた灰髪の黒装束の男がふと月を見上げ思わず立ち止った。
(月…。オレが故郷を離れた日もこのような満月だったなぁ。)
それは全ての始まりであり、自分の人生が人並みな幸せを望めるようなものではなくなった日の夜。
ある日。故郷が野党に襲われ、10歳のオレだけが生き残ってしまった日。オレを見つけた敵は容赦なくうつろな笑いでかかってきたが、どういうことかオレの得体のしれない力で相手を返りうちにしてしまったのだ。それからオレに秘められた力が魔の力と呼ばれる物と旅でしり、その力を高めることによって、
オレを狂わせた者たちの運命を屠る準備を進めていったのである。その本願を果たした相手の返り血を浴びまた軽い傷を負って血まみれになったオレは朦朧とした意識の中でそれを見上げておもわずほろりと見とれてしまったのだ。まるで月が穢れた自分自身を浄化してくれるような気になってしまい、その時のどす黒い気持が少しずつ消えていってしまったのである。
「あの時の月は格別に明るかったなぁ。」
男は小さくつぶやいた。そして月を眺めるのをやめ、今日の宿場に行こうと思い立ち止った。
「どうした?オレに何の用だ?」と誰にともなく誰何の声をかけて後ろを振り返った。
すると後ろの木陰から紫の髪の少年~あたりが青白く光っている気がするがーおずおずと現れた。
近くの村でみかけた村人の服と似たような感じである。
「お兄ちゃんどうしてこんな暗い所にいるの?」
「それはお前には関係ないことだろう。オレをつけるとはどういうつもりか?」
何気なく平然としているが、しっかりいつでも少年と戦えるように準備していた。
見たところかよわいが油断しないほうがよい。と男は経験から判断した。
「お兄ちゃんの気に誘われてきた。お兄ちゃんはなにものなんだろう?」
その声は幼くとてもかよわい。声を発するたびに自分の体から抜け出てくるような気がした。
「お前の知ったところではない。だがお前は一度死んでいるようだな。たまにいるんだよ。心のこりがあって死ぬ奴がお前みたいに青白くてなぁ」と男は答えず切り返した。
「ぼく気がついたらここの近くでお月さまを見ながら倒れていたんだ。きっとお兄ちゃんの言う通りならば死んでいるよね。」と乾いた笑い声を上げた。何もかも諦めているようなその眼。
どこか男はその眼をどこかで見たように思えてきたが、何も言わなかった。
その代わり
「お前いつまでついていくつもりだ?」
深いため息をついて男は問いかけた。
「僕の気が済むまでかな?お兄ちゃんについていくと何かあるような気がする。」
「好きにしろ。」
何でおれが幽霊に憑かれないといけないんだ。全く困った。だが体を持たない幽霊はある意味
男にとって倒しにくい相手である。だがら物質的なダメージではなく、自分の持つ負の力をたたきつけて
相手の存在をけしてしまうしかない。やろうと思えばできるのだが、あの害のない様子の者を殺す趣味はないし気持が悪くなる。だから無視することにした。地縛霊なんだろうからきっとついてこれなくなるだろう。
そんな男の煩悶と裏腹に少年はいくつもといかけた。
「お兄ちゃん一体いくつなの?若いくせに老成しているね。」
「知らん。とうの昔にオレは年を数えるのを忘れてしまった。」
「へぇ。見かけによらずか…。ところでどうしていつも負の気をまとっているの?」
「お前には関係ない。」
キャッチボールするように淡々と会話を交わす。少年は時折納得したように頷きつつ聞き込んだ。
ここまでうるさいと厄介だ。それにしてもいつまでついてくるか?
10分後に男のイライラが頂点に立った。
「お前いい加減にしろ!お前は何故オレに付きまとうんだ?取り付くなら他の奴にあたれ」
いらだった声で怒鳴った。
「他にここの近く通る人がいなかったからで…。でもお兄ちゃんと一緒にいれば何か僕がこうして存在している理由が分かるのではないかとおもったの。お兄ちゃんは僕と同じ境遇の人ではないかという気がしてね…。」
しゅんと顔を曇らせて少年は答えた。きがつけば誰もいなくて一人ぼっちだった。あてもなくさまよっていたときに男に出会ったのだ。男なら自分が近づいてもおびえないなぜか確信を持つことができ近づいたのである。
男は何を根拠にと反論しようとして振り返ったが、少年の瞳~曇りなき闇色~を見て言葉をひっこめた。この目を見ていると自分の心の底にしまって封印していたのがわき出てしまいそうな気がする。
何故だろう?
この少年も戦とかで孤独のままに死んだのか?
だが近年においてそのような争いはここの近くで聞いた覚えがない。人を襲う魔物がいるとは聞かないし
また気配もしない。
「そうか…。オレは気の遠くなるような昔。魔物にオレの家族や村を滅ぼされた。」「えっ?」
何を思ってか自分の生い立ちを人しれず語りだした。
「ただ一人生き残って…。数年かけてそいつらに復讐した。その時の夜がお前と出会った夜と同じように月が明るく輝いていたなぁ。いつもはたいして気にしないものだが…。お前と出会ったのも何かの縁かもしれないな。」と自嘲しながら男はかたり、少年は黙って聞いた。
「でもお兄ちゃんその時とても心の中がスッとしたんでしょ?僕も気がついたとき月を見てそう感じたからそんな気がする。」とぽつりと神妙になって聞いてきた。なにかおもう所があるのか静かだ。
「そうだなぁ。月はある意味オレの特別だ。」
とひとりごちた。思えばあの時がオレの運命が大きく動いた日の初めての夜だった。
オレの目標が達せられて何もかもが終わったと感じた日。その日まで復讐に燃えていた自分はこれからどう生きようかと虚無感に襲われた。このままどうやって生きようか?血まみれになりながら何を思って何を願い生きようかその決断に焚きつけられた日でもあったのである。
けど月を見ることで焦らなくてもいいのだと自分の心のどす黒い物が静まって行くのを感じたことを
男は思い出した。
「オレは死んでいないから分からんが、お前気ままにそんざいしつづければいいんじゃないんか?」とポツリとつぶやいた。「そうかな?」と不安そうに問いかけた。
「オレは少なくともそうして生きていた。存在し続けていればきっとお前の死んだ理由が分かると思うぞ。」それを聞き何かを考えるそぶりをする。
「だがここから先は自分で考えろ。ここでお前とお別れしてもらう」
そういうとテレポートの準備に取り掛かった。ここで二人と一緒にいるのはとても具合が悪い。
オレは元々つれあうのは苦手な達だから力をつかってでも実行してくれる。
さっきまでとは違って少年は別れることを受け入れた。
少年は「分かった。ねぇ、またどこかで会えるかな?」「さぁな」
男は何も言わずに消えていった。その姿を見ながら少年は意味深に笑ってつぶやいた。
「もう大丈夫みたいだね。どうか僕たちの分も生き抜いて」
そして肌が透明になって消えてしまった。
その後どこからかこだまのような声が聞こえた。
意外とあいつ大丈夫だったよ。
もう平気みたいだね。
だからもう行こうよ
男は今日の宿となる安宿についた後、「結局あいつ何だったんだろう?」と首をかしげた。
姿形もどこかで見たことあるような姿だった。記憶をたどっても思い出せない。
まぁいい。今日はいつにもまして眠れそうだ。
そう思い男は宿の扉を叩いてあけた・
(完)