百合の次女は喧しい
「桂木さんはさぁ、あたしたちの病の事何にも知らないから、いちいちトンチンカンな物売りつけようとするんだよ」
楡の治療をしながら二葉が愚痴をこぼす。分かるけど、彼だって人間相手の仕事しかした事がないんだから当たり前だろう。
「先生が処置してくださいよう」
うちの看護婦さんは少々うるさい。
「怒るなって。じゃあ二葉は人間の病気を治せるのかい?」
「先生はいっつも人間の肩を持つんだから」
だって今でこそ植物病院を開いているけど、私だって元は人間だもの。百合の君にはこのアウェー感が分かるまい。それにしても君、ちょっと香水がキツイよ。
「体臭です!」
「百合の季節だものね」
楡さんが苦笑しながら口を挟む。
「それに、桂木さんはいい人よ。私たちのお使いで肥料とか新入りの苗を買ってくれるし。桂木さんが人間やめたら結婚してもいいわ」
なるほど、木々が彼に色目を使う理由はそれだったのか。
「そうやってモノで取り入ろうとするのが気に食わないのよ!」
「あらぁ、あなたのお父さんだって似たような事してたわよ?」
あ、楡さん、それは、
「お父さん⁉…いや、先生!その話初耳なんだけど!」
「あの、それはあとでお母さんに聞いて」
「自分で言えないような事したの⁈」
「いや、デート用に鉢買ったりしたけど」
「確かにお母さん美人だけど!てっきり人間やめてから出会ったのかと思ってた!」
今日はもう仕事にならないな。ごめん桂木さん、商談はまた今度にしよう。
「さ、楡さん、お見送りします」
「お父さん!逃げるな!」
看護士の登場する話。台詞は「怒るなって」。