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霧の日はさよなら日和
「このまま落ちて死んじゃうのも素敵だと思うんだけど」
りつ子はニヤニヤしながら必死で腕をつかむ僕を見上げる。うるさい、僕が困るんだ!食いしばった歯が変な音を立てる。
「飛べ!」
怒鳴り声に怯む様子もなく、りつ子はおよそ子供らしくない憎たらしい笑みを浮かべて僕を見る、そしてパッと手を離し、飛んだ。
言葉どおり、りつ子は飛んでいた。重力だとか空気抵抗だとか、そんな単語が冗談でしかないようにするする空中を動く。僕は崖っぷちからぼんやりとそれを見た。りつ子が霧に溶ける寸前「また明日」と言うのも見た。
「もう山から降りちゃダメだったら」
僕はどうやら薄ら笑いを浮かべながら泣いている。りつ子の冒険譚はこれでおしまい。
「そんな話はいいから、早くあたしを街に連れて行きなさい!」
りつ子は僕の脛を思いきり蹴り飛ばした。でもねりつ子、妖怪と人間のお話はだいたい同じ結末なんだよ。
霧の山が舞台のハッピーエンド。台詞は「飛べ!」