第5話 父の執務室にて
前回のカリンとの会話から数日して、いつものように朝食を食べていると父さんから後で執務室に来るように言われました。
「父上、アイザックです。」
「入りなさい。」
「失礼します。」
未だに開けるのに力が足りないのか、全身で押すようにしないと開かない扉を開け中に入り閉めます。
「そこに座りなさい。」
ドアが閉まるのを待って父さんは執務を行う机から立ち上がり、簡易的な応接テーブルに向かい合ったソファーの片方を指します。
「はい。」
先にソファーに座って父さんを見ていると、書類を机の隅にまとめて道具を片付けて僕の座っているソファーの対面に来て座りました。
「今日お前を呼んだのは、お前が今度入ることになる学院の事について話し合おうと思ってな。」
ちなみに学院は魔法剣士科・魔術科・魔法技術科の3科からなり、各科4年間学ぶことで最低でも中級の商人を超える年俸を得る仕事に就くことが出来る。
ただし才能や努力が足りないと見られたり、学校側が一方的に被害を被るような事をした場合はどのような上級貴族の子どもの場合でも強制的に辞めさせられる。
・・・というのが前々から僕が行くことになっている王都の学院の話だ。
「何か大きな変更があったのですか?」
小さな変更だと食事中に話すことがあり、このように執務室に呼び出して話すという事はこれまでなかったので大きな変更が生じた、もしくは生じるという事だろう。
「うむ。お前には何度も言っていたが、私はお前に魔術科に入ってもらいたいと思っている。理由はお前の魔力が平均より高いからだ。」
「はい。わかっています。」
随分前に魔術師の初歩の初歩の初歩、自分や相手の魔力を感じるというものを教えてもらい、父さんが治める土地の守護兵団の魔術を扱う人たちを集めてもらい、自分と周りを比べると自分のほうが魔力が高いという結果が得られた。
「だがお前は最近、魔道具を作っているとケティーから聞いた。まあ、簡単なものならば私も作った経験があると何か役立つだろうと思い見守ろうと思った。しかしお前は、本格的なものが作ってみたいと一昨日の夕食の時に言ったな?」
「はい。」
「あれから妻と悩んだよ。そして結論を出した。通常、学院は16歳からだ。なぜならそれ以下の子どもたちには、あそこでの努力はきつすぎるからだ。だが、私たちはお前を信じることにしようと思う。」
ということは16歳以下で入学するという事だろう。
「何歳で入学するんですか?」
「まあ、そう焦るな。先に学院の王族と上級貴族しか知らない決まりをお前に伝えようと思う。」
「はい。」
なぜ父が知っているかは置いておくとしよう。
「学院は在学中にある一定の基準を超え、2年間首席という結果を出すと4年生にならずとも卒業することが出来る。」
「一定基準ですか?」
「うむ。それは2度目の転職を1度目の転職をした後から120日以内に転職することだ。それも在学中に2度目はしなくてはならない。」
2度目というと、剣士だとさらに地上の戦闘に有利になる戦士と空中戦が可能となる騎獣騎士になる。
それぞれ、戦士の50レベルと60レベルが転職平均レベルだったと思うが。
「まあ、これはお前が学院にいる時間を短くしたいと思うならするがいい。だが、もう1つ学院には決まりがある。」
「なんでしょう?」
「学院は1度卒業すると、もう1度別の学科を修める権利が与えられる。つまり卒業すると同時に別の学科に入学することが出来るのだ。」
「という事は魔法剣士科と魔法技術科の両方を学ぶことが出来るのですね?」
「そうだ。だが通常は12歳になると政務や貴族同士の礼儀などの貴族には欠かせないものを家で学ばせる。だから、2つ以上の学科を修める者は全くと言っていいほどいない。」
「はい。」
でも父さんがこの話をしたという事は、僕は2学科修めてもいいと見たんだろう。
「しかし、お前は普通の子よりは頭の出来がいいと私は思っている。そこで、お前には2つの学科を修めてもいいと思った。ただし、2つの学科を修めるにあたって条件がある。」
「条件とは?」
「うむ。条件は片方の学科を短縮して卒業すること。つまりお前が2つの学科を卒業するころには2回目の転職を終えているという事になる。」
「それは2回目の学科で行ってもいいのでしょうか?」
「いいだろう。ただし、2回とも4年間かけた場合は冒険者として名を遺すしたのちに領主になってもらう。」
「それが出来なかったらどうなるのですか?」
「その時はお前を勘当してお前の妹のアリアを次期領主とする。まあ、勘当した後は領内の守護兵団に入ってもらうがな。」
それって平穏ないってことだろう。
まあ、どちらにしても平穏はないが血を見ることは避けたい。
「さて。私がお前に伝えることは全て伝えた。お前はどうしたい。」
「僕は・・・僕は2つの学科を修めます。そして必ず父上との約束を果たしましょう。」
平穏で過ごすためには無力では駄目だろう。
特に貴族という立場では無力な者こそ捨て駒に使われる。
ならば力をつけるためにも2学科修めようと思う。
「そうか・・・分かった。お前の意見を取り入れよう。ならば来週からは早いが貴族としたの勉強をしてもらう。そして、1度目の入学は13歳とする。」
「はい。分かりました。」
「では、私は教師役を見つけることにする。お前はもう部屋に戻っていいぞ。」
「はい、失礼します。」
席を立って扉を開け外に出る。
・・・これから忙しくなりそうだ。
5話でした。
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