表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
transcendence person of endless fate ~果て無き宿命の超越者~  作者: ヘルメス・トリスメギストス
3/3

Episode 02 AW

AWは異世界。APは元の世界。

――ファルセナール大陸/ヴァレンディナ王国/アルガ村痕



「さて――、此れから如何様に動いたものか」


 予定では、この世界の何れかの大国にでも入り込み、その組織力を持ってあの異形を探し出し、然るべき報復を与えるつもりであったが、此処で非常に予想外の事態が起こってしまった。

 最後に異形の放った大魔術。その破壊から身を守らんと、僅か残った魔力をも無理に放出した。恐らくはそれが原因だろう。

 不老不死を得る際に取り込んだ『生命のエリクシール』。

 老人の姿を奪われ、本来の姿へと強制的に戻された直後に無理矢理行った魔力の放出。其れが身体や魂と同化した『エリクシール』に干渉し、身体構成を狂わせたのだ。

 異形には此方が死んだと錯覚させるためとは言え、迂闊すぎたやもしれない。

 戦艦用のエナジーフィールドを使っていれば、この様な事態に陥ってはいなかったであろうが、如何に周囲の大気に満ちた魔力で魔力放出を誤魔化せたとしても、此れでは余り意味がない。

 エナジーフィールドならば、容易く異形の大魔術を防げるであろうが、此方の生存を知られ警戒されるは必定。此方も直ぐに反撃できぬ以上、攻撃の聞かぬと見た異形が逃走するのを防ぐ事はできない。

 異形とて、未だ奪い取った魔力に慣れてはいないのだから、無理に止めを誘うとはしないだろう。何れ魔力のすべてを使いこなせるようになってからでも、遅くはないのだから。


(―――過ぎた事を悔やんでも仕方あるまいが、この外見では融通も効かぬな)


 現在の姿は十二歳前後の少年。この姿で大国に地位を持つのは、かなりの至難を極めるだろう。

 然し、ある程度の組織力無くば、あの異形の追跡もままならない。せめて今の数十倍の魔力が有れば、『エリクシール』の狂いも正せたのだが。


(高々一般的な魔術師の数倍程度では、『エリクシール』への干渉には足りぬな。加えて奴の魔術を防ぐのに使った魔力、快復には時間が掛かるか……)


 こと魔術に関しては、呆れるほど才の無い己が恨めしくなる。無才と遅速な魔力快復速度を補うための魔力量だったが、使い果たしてしまえば意味は無い。

 此れから魔力の快復を待つにせよ、其れまでは大きく動く事は出来ないだろう。だが、何もせずに只快復を待つなど有り得ぬことだ。


(差し当たって必要なのは、金と身分か。此れからどう動くにせよ、一文無しに加え庶民の身分ではな。金は手持ちの宝石か貴金属を売ればよいが、身分は――、最低でも勲爵士は有った方が融通も利くか。騎士階級であれば、国の内部にも入り込みやすかろう)


 ならば行動するとしよう。此の侭此処に残れど、町の様子を気取った輩に見付かるは必定。生存者として保護してもらうも一策ではあるが、無い腹を探られるのも不愉快だ。


(さて、最も近き街は何処に在るか―――)



――ファルセナール大陸/ヴァレンディナ王国/交易都市アルイード/装飾店



 ――交易都市アルイード。

 通商の要所に造られた此の都市は、ファルセナール大陸屈指の交易都市として、大陸中のあらゆる商品が集まっている。其れこそ、この都市で買えぬ物等無いとまで言われるほどだ。

 其の交易都市の大通りに在る装飾品店で、一人の少女が店主と言い合っていた。


「何故だ! これは亡き父上が集めていた宝石の一つだぞ! その様な安値など、納得いくものか!」

「そう言われましてもですね。お持ちいただいたこの宝石、見た目は宜しいですが、宝石としての価値となりますと――。いえ、私どもと致しましても、それなりの値段で買い取らせて頂きたいと思っておりますが、流石に……」


 仕立ての良いドレスを着た、貴族と思しき其の少女に、申し訳なさそうに語尾を濁す店主。

 一見すれば下手に出ていても、買取値段は一切譲らないと言うその雰囲気に、店主に食って掛かっていた少女は、悔しそうに拳を握る。

 其の姿を見て、もう1人のメイド服を着た少女が心配そうに其の少女に話し掛けた。


「お嬢様……、ここでもうアルイードにある装飾品店最後です。これ以上は――」

「分かっている、分かっているが……!」


 幼くして母を失った少女にとって、今は亡き父は唯一の肉親であり、騎士として目指すべき目標でもあった。其の父の遺品に価値が無いといわれたのだ。少女にとって、到底受け入れられるものではない。

 力なくうな垂れた少女が、提示された値段での取引を終えようとした其の瞬間、店に来客を知らせるベルが鳴り響いた。


「邪魔するぞ、店主はおるか」


 入ってきたのは、1人の少年であった。

 年の頃は十と二つ程。黄金の髪に紺碧の眼を持った、非常に端整な顔立ちの其の少年は、カウンターの向こうの店主を見つけるや否や、少女二人など目に入らぬかのように無視して店主に話し掛けた。


「店主。物を売りたいのじゃが、良いか」

「は、はあ……。お売りになられる品物はどちらで?」

「此れじゃ」


 宛ら、老人のような口調の少年に、困惑の色を隠せぬ店主であったが、少年がカウンターに乗せた宝石を見て、其の表情を一変させた。

 途端に難しげな顔で品を鑑定する店主。

 恐らく、所詮子供の持ち込んだ品と軽視していたであろう店主は、次々とその宝石を手に取るたびに、驚愕の色に顔を染めていく。

 一頻り品物を手にとった後、店主は真剣な表情で少年に話し掛けた。


「お客様。お売りになられる宝石は、これらで全てに御座いますか?」

「全てじゃ。――ああ、無用な事と思うが、よもやわしを謀ろうなどと考えてはおるまいな?」

「『っ!?』」

 装飾店の店主と少女二人が息を飲む音が響き渡る。店主の鼻先には巨大な武器が突き付けられていた。

 ハルバートの刃を巨大化させ、柄を極端に短くしたような異形の大斧は、少年の華奢な片腕により店主に其の切っ先を向けていた。

 異様と言えば余りにも異様な光景。何せ、見た目十二の小柄な少年が、己が身の丈程もある鉄塊を片手で持っているのだ。其れも、明らかに重さを感じていないかのように、軽々と持ち上げている。

 其れを向けられている店主は、到底平常ではいられまい。


「店主。何をしておる? 早う見積もらぬか」

「は、はいぃ!」


 僅かに不機嫌そうな色を滲ませた其の声に、呆然としていた店主は、慌てて料金の計算を始める。

 その間も、一切切っ先を揺らす事なく、少年は大斧を店主に向けつづけている。


「お、終わりました……。これら全て併せまして、七百三十万ダルドで如何でしょうか?」


 料金の計算を終えた店主が、恐る恐るといった体で、少年に伺いを立てる。

 側でそのやり取りを見ていた二人の少女は、店主の提示した金額に息を呑んだ。

 何せ、少年が出した宝石からすれば、素人目に見ても其の金額にはかなりの色がついているのが分かる。命には変えられないという事だろうが、それにしても随分と思い切ったものだ。

 少年は二人其の反応を横目で見た後、考えるように僅か視線を落とし、暫くの後店主の言葉に頷いた。


「……代金はこちらに。お確かめください」

「ふん。邪魔したな店主」


 差し出された革袋の中身を確認する事なく、少年は引っ手繰るように店主の手から革袋を受け取り、店主に人声掛けると店を出て行った。其の手に持っていた大斧は、何時の間にか消えている。

 ドンッと音がした方を少女二人が振り向くと、腰でも抜けたのか、店主がカウンターの向こうで尻餅をついていた。其の顔には、安堵の色が広がっている。

 対応を誤れば、殺されていたかもしれないのだ。当然の反応だろう。


「……行くぞ」

「あ、待ってくださいお嬢様!」


 ドレスを着た少女がメイド服の少女を促し、装飾店を後にする。残った店主は、抜けた腰も治らぬまま、暫く呆然と天井を見上げていた。



――ファルセナール大陸/ヴァレンディナ王国/交易都市アルイード/大通り



 アルイードの商店建ち並ぶ大通りを、彼は歩いていた。

 当初の予定通り金銭の入手は成った訳だが、問題となるのは此れからだ。


(身分か。何ぞ足掛かりと為るモノでも在れば良いが、そうそう何度も上手くも行かぬな。……まあ良い、はした金だが金銭も手に入ったのだ。そう急く事も無い)


 とは言え、矢張り切欠は欲しいものだ。国に強いコネクションを持つ誰ぞと知り合えれば、言う事は無いのであるが。

 最も効率よく事が成せるのは、果たして如何様に動いた時か。大した事の無いような選択肢であろうとも、結果が大きく異なる事もある。あの異形がどう動くか分からぬ以上、慎重に然し速やかに行動せねばなるまい。


(一先ずは宿を取らねばな。今後の方針は其れから考えるとするかの)


 思考を中断し、宿を探そうと顔を上げた其のとき、背後より彼を呼び止める声が響いた。


「君っ! 待ってくれ!」

「お、お嬢様――っ」


 振り向けば、其処には先の装飾店に居た少女二人が此方に向かい走ってくる。


「主等はあの店に居た―――、わしに何ぞ用でも有るのか?」

「君に……頼みたいことがある」


 頼み事とは、恐らくあの店で店主と言い合っていた事と関わりが有るのであろうが、態々その様な些事に此方が付き合う必要などない。だが、其処で彼はふと目の前の少女の服装を見る。


(貴族……か? ならば、使えるやも知れぬな。頼みとやらを聞き入れるかは別としても、内容を聞くだけならば問題もない)


 何れにせよ、次の行動を決めかねていた身としては、此れは好機であろう。ならば、其の好機を最大限にまで生かすまでのことだ。


「……道端で話すこともなかろう。何所ぞ宿でも取りたいのだが」

「其れならば私が案内しよう。安くて良い宿を知っている」

「任せよう」


 前を行く少女達の後を歩きながら、彼は中断していた思考を再開し、今後の計画を練り直す。其の口元に冷笑を浮かべながら。



―――ファルセナール大陸/???/???/神殿



 薄暗い蝋燭の明かりに照らされて、数人のローブを纏った人影が魔法陣を取り囲んでいた。その魔法陣の中には、白衣を着た一人の男性の姿があった。

 其の男性は、自身を見て感嘆の声を漏らす周囲の人影を、冷ややかに眺めている。


「……で、此処は何所でお前らは誰だ?」


 何処か蔑む様な口調で、男性が口を開く。周囲の人影が男性の其の口調に気づいた様子はなく、男性の其の質問に自分達の中の一人を振り向いた。

 其の人影が男性のほうへと歩みを進める。


「お前が説明してくれるのか?」

「はい。まず、貴方に知っておいて頂きたい事が一つ有ります」


 聞こえて来たのは女性の声。男性の様子を伺う様に言葉を切った其の声に、男性は無言で続きを促した。


「この大陸の名はファルセナール。そしてこの世界は、貴方の居た世界ではありません―――」



Episode 02 The end

契約者が微妙にスランプ気味なので息抜きに更新しました。次は未定。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ