十四と十五
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それでは、どうぞお楽しみください。
翌朝、俺はいつもより少し早く目が覚めた。
レベルが14に上がったからといって、身体そのものが突然別人になったわけじゃない。それでも昨日より力が入りやすい。足も軽い気がする。思い込みかもしれないので、朝の鍛錬では普段と同じ動きを一つずつ確かめた。
町の外周を三周。
脇腹に痛みは出ない。
走る速度を少し上げても問題ない。
そのあと素振りを千回。最初の百回は速度を上げず、剣の軌道と身体の感覚を確認する。肩、肘、手首、腰、足。以前より少しだけ木剣が軽く感じた。
百一回目から速度を上げる。
違う。
少し速い。
でも、速く振れるからといって雑にしていいわけじゃない。
百五十。
二百。
二百五十。
途中で一度止まる。
呼吸を整えてから再開した。
前なら、調子がいい日はそのまま回数を増やしていた。
今日は増やさない。
千回。
そこで終わり。
身体を休ませ、水を飲んでから訓練場へ向かった。
ラウルはもういた。
「遅い」
「いつもより早い」
「俺より遅い」
「ラウルが早い」
「そういうことにしとくか」
ラウルは木剣を一本投げてくる。
受け取る。
今日は十本。
前回は五本全部負けた。
その前も負けている。
一度だけ勝ったあと、またずっと負けている。
でも今日は少し違う。
レベルが上がった。
それだけじゃない。
相手を動かすこと。
必要な情報だけを見ること。
予想と確認を分けること。
最近覚えたものを全部試せる。
「準備いいか?」
「うん」
向かい合う。
ラウルはLv15。
俺はLv14。
数字だけなら、一つ差。
でも。
数字が近いから勝てるわけじゃない。
それも分かってる。
「始めるぞ」
一戦目。
ラウルが先に来た。
速い。
昨日までより遅く見えるわけじゃない。ただ、自分の身体が少し速く動く分だけ、判断したあとに使える時間が増えた。
右から木剣。
俺は半歩下がる。
避ける。
すぐに前へ。
胴を狙う。
ラウルが剣を立てて受ける。
弾かれる。
でも離れない。
左。
ラウルの外側へ回る。
追ってくる。
位置。
俺。
ラウル。
訓練場の壁。
木柱。
他の訓練者。
全部はいらない。
今必要なのはラウルと、その後ろの空間。
俺は右側を少し空ける。
ラウルは来ない。
見られてる。
じゃあ普通に行く。
踏み込む。
上段。
途中で止める。
下。
ラウルが下がる。
一歩。
そこへもう一歩。
追う。
ラウルが横へ。
俺も。
さらに前。
今度はラウルが攻める。
剣。
避ける。
二撃目。
受ける。
重い。
腕が少し痺れる。
三撃目。
来る。
俺は下がらない。
左へ入る。
剣の内側。
近い。
木剣を振る場所がない。
だから肩。
身体ごとぶつける。
ラウルが半歩崩れる。
今。
剣を短く振る。
胸。
触れる。
「一本」
俺が言う。
ラウルが止まる。
自分の胸を見る。
それから俺を見る。
「……取ったな」
一戦目。
勝った。
前は四十戦目で初めて勝った。
それからまた負け続けた。
今日は一戦目。
少し嬉しい。
でも。
「次」
「余韻とかないのか?」
「十本だから」
「知ってるよ」
二戦目。
負けた。
ラウルが最初から距離を変えた。
近づかせない。
俺が前へ出れば、斜め後ろへ。
追えば止まって攻める。
追わなければ自分から来る。
さっき俺が近距離へ入ったから、それを嫌がっている。
対応が早い。
最後は俺が踏み込みすぎたところへ剣を置かれた。
胸。
一本。
「一勝一敗」
ラウルが言う。
「次」
三戦目。
今度は俺が追わない。
ラウルも来ない。
数秒。
見合う。
「来ないの?」
「来てほしいのか?」
「別に」
だったら。
俺が行く。
でも真っすぐ行かない。
右。
少し。
左。
また右。
距離だけ詰める。
ラウルは剣先を動かさない。
目。
肩。
腰。
足。
どこを見る。
全部じゃない。
重心。
右足。
少し前。
来る。
俺は踏み込むふりをして止まる。
ラウルの木剣が動いた。
早い。
でも空振り。
今。
左から入る。
胴。
ラウルが身体を捻る。
浅い。
当たらない。
そのまま剣が返ってくる。
俺の肩。
「一本」
また負け。
「今の読んだ?」
俺が聞く。
「途中でな」
「いつ?」
「お前が止まったとき」
止まることまで読まれた。
四戦目。
五戦目。
負け。
六戦目。
負け。
一勝五敗。
レベルが近づいても、簡単には変わらない。
でも。
前より全然違う。
全部、一方的じゃない。
五戦目は肩に触れる直前までいった。
六戦目はラウルを壁際まで動かした。
まだ勝てない。
でも届く。
「休憩」
ラウルが言う。
「まだ四本」
「知ってる。休憩してから」
俺も息が上がっている。
反対しない。
二人で壁際へ座る。
水を飲む。
「14ってどんな感じ?」
ラウルが聞く。
「少し速い」
「力は?」
「少し」
「俺との差、かなり減ったな」
「レベルだけなら一」
「レベルだけならな」
ラウルが自分の手を見る。
「俺、お前より三つ上だった時もあったよな」
そうだった。
最初に戦った頃。
俺は12。
ラウルは15。
今。
俺が14。
ラウルは15。
「追いつく」
「追いつかせねえよ」
すぐ返ってくる。
俺はラウルを見る。
「ラウルも上がる?」
「そりゃな」
「いつ?」
「知らねえよ」
「経験値足りない?」
「分かったら苦労しねえ」
昨日ディルとも同じ話をした。
ラウルは笑う。
「お前が14になったなら、俺もそろそろ上げたいな」
「焦る?」
「少しはな」
意外。
「なんで?」
「お前が追ってくるからだよ」
俺は少し黙る。
追ってるのは俺だけだと思っていた。
でも。
ラウルも見ている。
俺を。
「強くなるのは、お前だけじゃないって言っただろ」
前にも言われた。
その通り。
俺が成長している間、相手も止まっていない。
「休憩終わり」
ラウルが立つ。
俺も立つ。
残り四本。
◇
七戦目。
俺は勝った。
今度は誘導を一度しか使わなかった。
最初からラウルを動かそうとすると気づかれる。だから普通に戦い、その途中で一瞬だけ右側を空けた。
ラウルがそこへ動く。
その先には訓練用の木柱。
でも狙いは柱じゃない。
右へ動いたラウルの左足。
踏み直し。
そこ。
一瞬だけ動きが遅くなる。
俺はその瞬間に前へ出た。
剣。
胸。
触れる。
「二本目」
ラウルが舌打ちする。
「今の嫌だな」
「何が?」
「俺が動くところ決められた感じ」
成功。
でも。
八戦目。
同じことをしようとして負けた。
ラウルは空いている方へ行かなかった。
逆。
狭い方へ入ってきた。
俺が少し驚いた瞬間に肩を取られる。
九戦目も負け。
二勝七敗。
最後。
十戦目。
向かい合う。
疲れてる。
ラウルも少し呼吸が荒い。
俺の方が疲れている。
持久力はまだ負けてる。
剣を握り直す。
最後だからって特別なことはしない。
見る。
必要なものだけ。
ラウルが前へ。
俺も。
剣同士が当たる。
一回。
二回。
三回。
受ける。
避ける。
離れる。
また入る。
ラウルの剣が右肩。
俺は左へ。
そこへ追撃。
読まれてる。
下がる。
壁。
近い。
前なら避ける方向を変える。
今日は。
変えない。
壁まで行く。
あと二歩。
ラウルが追う。
一歩。
剣。
俺は壁際でしゃがむ。
木剣が頭の上を通る。
ラウルが止まる。
柵を蹴る?
前にやられた。
俺はそれを待つ。
ラウルの左足が上がる。
来る。
でも。
蹴らない。
足が下がる。
フェイント。
俺の意識が足へ落ちた。
剣。
胸。
当たる。
「一本」
負け。
俺は止まる。
ラウルが笑う。
「前に一回やっただけで待ってたろ」
「うん」
「だからやらなかった」
また。
予想を利用された。
俺は息を整える。
二勝八敗。
負け。
でも最初の十連敗とは全然違う。
「もう一本」
「十本終わった」
「十一」
「昨日まで五って言ってただろ」
「傷治った」
「そういう問題じゃねえ」
まだできる。
でも。
腕が重い。
脚も。
今日は朝も走った。
素振りもした。
これ以上やれば、たぶん質が落ちる。
俺は少し考える。
「……明日」
ラウルが黙った。
「何?」
「いや。お前が止めると気持ち悪いな」
失礼。
◇
訓練のあと、俺は一人で結果を考えた。
二勝。
八敗。
レベル14。
前より速い。
前より力もある。
でも、それだけでは勝てない。
むしろ数字が近づいたからこそ、技術の差が分かる。
ラウルは対応が早い。
一度見たものを次に変える。
俺が誘導を覚えれば、その誘導を利用する。
俺が攻め方を変えれば、距離を変える。
「十四になったのに二勝だけか」
声に出す。
少ない?
いや。
前は十戦して一度も触れなかった。
今は二回勝った。
なら成長してる。
そこで終わりじゃない。
何が足りない。
考える。
体力。
剣。
経験。
誘導の見せ方。
相手が対応したあとの対応。
一個覚えたら終わりじゃない。
相手がそれを知っている状態でも使えるようにする。
それが必要。
「いた」
リナの声。
振り返る。
リナとディル。
二人とも依頼帰りらしい。
「ラウルとやってた?」
「うん」
「何勝?」
ディルがすぐ聞く。
「二」
「十本?」
「うん」
「おお」
思ったより普通の反応。
「少ない?」
「いや」
ディルが首を振る。
「あのラウルに二本だろ?」
リナも頷く。
「前、全然勝てなかったよね」
「一回勝った」
「そのあとまた負け続けてたでしょ」
そう。
だから。
二勝。
ちゃんと増えてる。
「何の依頼?」
俺が聞く。
「荷物運び」
ディルが嫌そうな顔をする。
「戦闘なし」
「経験値入る」
「それは入るけどさ」
俺は知ってる。
運ぶのも経験になる。
奴隷の頃から。
「明日は三人で依頼?」
リナが聞く。
「うん」
「何がいい?」
ディルがすぐ答える。
「戦うやつ」
「昨日も戦ったでしょ」
「荷物よりいい」
三人でギルドへ向かう。
依頼板を見る。
いくつか戻っている。
街道警戒。
ゴブリン討伐。
小型魔物の巣の確認。
薬草採取。
俺は一枚ずつ読む。
昔なら一番危険そうなものを選びたかった。
今は違う。
何を鍛えたいか。
何が必要か。
三人でできるか。
そういうことも考える。
「これ」
一枚取る。
街道警戒。
最近、南側で魔物の目撃が増えているため、二つの農村を結ぶ道の巡回。戦闘になるとは限らない。
ディルが顔をしかめる。
「地味」
「広い範囲見られる」
《戦域把握》の練習になる。
それだけじゃない。
魔物が本当に増えているなら、痕跡を見る。
北側の異変と関係があるのかもしれない。
「私はいいよ」
リナが言う。
「二対一」
ディルが負けた。
受付へ持っていく。
◇
街道警戒は翌日からだった。
その日は依頼を受けるだけで終わり、午後はそれぞれ自由になった。
俺はゼノを探した。
ギルドにはいない。
宿にもいない。
どこだろう。
受付で聞く。
「ゼノ・グレイヴさんでしたら、東側の訓練場にいらっしゃいましたよ」
東。
町には訓練場がいくつかある。
いつもの場所じゃない。
行く。
そこは兵士がよく使う広い訓練場だった。
入口近くで止まる。
ゼノがいる。
一人じゃない。
相手がいる。
見たことのない男。
いや。
ギルドで何度か見たかもしれない。
三十代くらい。
ゼノより少し低い。
短い銀灰色の髪。
日に焼けた肌。
がっしりした身体。
紺色の軽装鎧。
武器は長槍。
周囲に何人か兵士と冒険者がいる。
模擬戦?
俺は邪魔にならない場所へ移動する。
始まる。
最初に動いたのは槍の男だった。
速い。
長い。
突き。
ゼノが半歩だけ横へ。
避ける。
次。
槍が横薙ぎ。
ゼノは下がらない。
身体を沈める。
頭上。
そのまま前へ。
長槍の内側。
俺なら入りたい場所。
でも槍の男はすぐに柄を短く持ち直した。
石突き。
ゼノの脇腹。
ゼノが剣の鞘で受ける。
音。
離れる。
速い。
俺とラウルの比じゃない。
一つの攻撃が終わる前に、次が始まっている。
槍の男が距離を取る。
ゼノは追わない。
また。
突き。
今度は一つじゃない。
顔。
胸。
脚。
三回。
全部違う。
ゼノは避ける。
最低限。
大きく動かない。
俺は見る。
位置。
二人。
槍の間合い。
壁。
周囲。
でも。
追えない。
速すぎる。
《戦域把握》を使っても、情報をまとめる前に次へ行く。
これ。
自分で弱点として言った。
速い相手。
身体だけじゃない。
頭も間に合わない。
槍の男が踏み込む。
深い。
ゼノが初めて剣を抜いた。
一瞬。
金属音。
槍が上へ弾かれる。
ゼノの剣先が男の喉元で止まった。
終わり。
静か。
「一本」
男が言う。
ゼノが剣を収める。
「前より速いな」
「それでも届かないか」
男は笑っている。
強い人。
たぶんかなり。
でもゼノには負けた。
俺は近づく。
ゼノが気づく。
「見てたか」
「うん」
「ラウルは?」
「十本やった」
「結果」
「二勝八敗」
ゼノは一度頷く。
「増えたな」
分かるんだ。
隣の槍の男が俺を見る。
近くで見ると、顔には細い傷が何本かある。灰色の瞳。少し怖そうに見えるが、表情は柔らかい。
「この子か?」
「そうだ」
何の話。
男が槍を肩へ乗せる。
「レオン?」
「うん」
「俺はガレス。ガレス・ヴァーン。ここの兵士どもに槍を教えてる」
兵士?
冒険者じゃない。
「強い」
言う。
ガレスが笑う。
「子供に言われると素直に嬉しいな」
「ゼノに負けた」
「余計な一言もついてくるのか」
ゼノが少しだけ口元を動かす。
ガレスは俺を見る。
「剣使うんだろ?」
「うん」
「ゼノの弟子なら大変だな」
「なんで?」
「基準がおかしくなる」
それは分かる。
「ラウルに二勝した」
「ラウル?」
ゼノが説明する。
「ギルドの若い剣士だ。十五歳。レベル15」
「ほう」
ガレスの目が少し変わる。
「レオンは?」
「14」
「何歳だ?」
「八」
止まる。
少し。
「八?」
「もうすぐ九」
「そこじゃない」
よく言われる。
ガレスはゼノを見る。
「育て方間違えてないか?」
「本人が勝手にやる」
「止めろよ」
「止めてる」
二人の会話が少し面白い。
ガレスが槍を地面へ立てる。
「で、何を見てた?」
「戦い」
「それは見れば分かる。何が気になった?」
考える。
いっぱい。
速さ。
間合い。
槍の持ち替え。
ゼノの動き。
一番。
「ゼノが追わなかった」
ガレスが少し眉を上げる。
「そこ?」
「うん」
槍の長さなら、距離を取ったガレスの方が有利。
俺なら近づきたい。
でもゼノは追わなかった。
「なんで?」
ゼノを見る。
「お前はどう思う」
また。
俺は考える。
ガレスが離れた。
槍の間合い。
ゼノが追う。
その途中。
何が起きる。
「追ってくるの待ってた?」
ガレスが笑った。
「正解」
やっぱり。
「何するつもりだった?」
「それは教えない」
「なんで?」
「次ゼノとやるとき使うから」
本気。
強い人も同じ。
隠す。
変える。
試す。
俺とラウルだけじゃない。
「追えば罠」
ゼノが言う。
「追わなければ、相手から来るしかない」
あ。
オーク・リーダー。
オーガを動かした。
同じじゃないけど、考え方は似てる。
自分が行きたい場所へ行くんじゃなく。
相手が来たくなる状況を作る。
ガレスが言う。
「強い奴ほど簡単には動いてくれん。だから、攻撃より先に選択肢を作る」
「選択肢?」
「相手に何を選ばせるかってことだ」
昨日考えていたこと。
さらに先。
右へ動かす。
左へ動かす。
だけじゃない。
攻める。
下がる。
待つ。
その中から。
相手に選ばせる。
そして。
選んだ先を狙う。
「難しい」
「だから面白い」
ガレスが笑う。
俺も。
少し分かる。
「やる?」
聞く。
ガレスが止まる。
「俺と?」
「うん」
ゼノが口を開く前に、ガレスが笑った。
「いいぞ」
「ガレス」
ゼノが低い声。
「何だよ。軽くやるだけだ」
「お前の軽くは信用できん」
さっきディルに同じようなこと言われた。
「怪我させねえよ」
ガレスが訓練用の木槍を取る。
俺も木剣を持つ。
ゼノを見る。
「やっていい?」
「三本だけだ」
「五」
「三」
「四」
「交渉するな」
久しぶり。
三本。
分かった。
◇
一戦目。
何もできなかった。
始まった瞬間。
槍。
胸。
止まる。
「一本」
速い。
見えた。
でも避ける前に来た。
「もう一回」
「待て」
ガレスが言う。
「今、何見た?」
「槍」
「だから遅い」
ゼノと同じようなこと。
「どこ見る?」
「好きなとこ」
教えない。
二戦目。
今度は槍先だけ見ない。
肩。
腕。
腰。
でも全部見ると遅い。
何。
ガレスが少し前へ。
足。
来る。
そう思った瞬間。
槍。
今度は顔。
俺は右へ避ける。
避けた。
でも柄。
横から来る。
肩。
「一本」
二回目。
一撃目は避けた。
「今のは?」
ガレスが聞く。
「足」
「悪くない」
でも次が見えなかった。
「槍は先だけじゃない」
木槍を回す。
「長い武器は、長いから強いんじゃない。長さ全部が武器だ」
三戦目。
最後。
俺は構える。
勝てない。
それは分かる。
なら。
一本でも避ける。
できれば二本。
ガレスが来る。
足。
肩。
突き。
胸。
俺は左へ。
避ける。
次。
柄。
分かってる。
しゃがむ。
避ける。
三つ目。
槍が引かれる。
距離。
次は突き?
違う。
ガレスが前へ。
石突き。
近い。
俺は剣で受ける。
重い。
身体が下がる。
そのまま槍が回る。
上。
避けられない。
頭の直前で止まる。
「一本」
負け。
三敗。
でも。
三回防いだ。
「いいな」
ガレスが言う。
「何が?」
「三本目で変わった」
「勝ってない」
「そりゃ俺が勝つ」
当たり前みたいに言う。
悔しい。
でも。
強い。
「またやる」
「いいぞ」
ゼノが横から言う。
「次は一週間後だ」
「なんで?」
「ラウルとの訓練も依頼もある。槍だけ見て他を崩すな」
正しい。
だから言い返しにくい。
「一週間」
ガレスが言う。
「覚えてたらな」
「覚えてて」
「冗談だ」
たぶん。
◇
帰り道。
ゼノと二人で歩く。
「ガレス強い」
「ああ」
「どれくらい?」
「今のお前が考える必要はない」
「ラウルより?」
「強い」
「ゼノより?」
「弱い」
見れば分かる。
「俺、いつ勝てる?」
ゼノが俺を見る。
「ガレスに?」
「うん」
「知らん」
「十年?」
「だから年数を考えるな」
前にも言われた。
「一週間後は?」
「勝てん」
即答。
「一本取る」
「それなら好きにしろ」
それでいい。
一週間。
一本。
目標。
でも。
その前に明日の依頼。
街道警戒。
リナとディル。
ラウルとの訓練。
剣。
《戦域把握》。
やることが増えた。
「ゼノ」
「何だ」
「時間足りない」
「寝ろ」
「減る」
「寝ないともっと減る」
知ってる。
最近少し。
それも分かってきた。
俺は自分の手を見る。
Lv14。
ラウルは15。
ガレスはもっと強い。
ゼノはさらに上。
一つ近づくと。
その先が見える。
強くなったと思った日に、もっと強い人を見る。
前なら。
遠い。
そう思った。
今は違う。
遠いなら。
やることが多い。
それだけ。
明日は街道へ行く。
明後日はラウルと戦う。
一週間後。
ガレスの槍を。
一本。
取る。
その先は。
取ってから考える。
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