↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第三章 世界への一歩
PR
35/254

勝てない相手の倒し方

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

森の奥から聞こえた二度目の咆哮は、最初より短かった。


俺とゼノは足を止めず、来た道とは少し違う方向へ進んでいた。背後ではまだ何かがぶつかる音が続いている。オークたちがオーガを囲もうとしていた場所から、かなり離れたはずなのに聞こえる。それだけ激しい戦いなのだと思う。


「どっちが勝つと思う?」


歩きながら聞く。


「分からん」


「ゼノでも?」


「見ていない戦いの結果まで分かると思うか?」


「オーガの方が強いって言ってた」


「一体ならな」


ゼノは前を向いたまま答えた。単純な強さならオーガが上。それでもオークたちは戦うことを選び、しかも正面から全員で襲うのではなく、相手を誘い込むために配置まで変えていた。


「オーク・リーダーは勝てると思ったから戦った?」


「少なくとも、勝つ方法があるとは考えてるだろうな」


勝てない相手にも、勝つ方法はある。


その言葉が頭に残った。俺だってずっと同じことをしている。正面から勝てないなら癖を見る。力で負けるなら受けない。複数に囲まれるなら、囲まれない場所へ動く。ラウルにもゼノにも何度も負けながら、どうすれば一度でも届くかを考えてきた。


あのオークも同じなのかもしれない。


もちろん、俺と同じという意味じゃない。あいつは仲間を使う。自分一人で足りない力を、複数のオークの位置と動きで補っている。


「戻らないの?」


「何にだ」


「さっきの場所」


「戻りたいのか?」


「見たい」


「駄目だ」


やっぱり。


「終わったあとなら?」


「状況次第だ」


完全に駄目ではないらしい。


俺たちはそのまま森を進み、かなり離れたところで止まった。周囲を確認したゼノが大きな木の根元へ座る。俺も隣に腰を下ろした。


「待つ」


「何を?」


「静かになるのを」


なるほど。


俺は耳を澄ませた。遠くから聞こえる音は途切れたり、また始まったりしている。何が起きているのかは見えない。それでも、さっき見た配置を頭の中に置くと想像はできた。


オーガは北から来た。オークは左右へ分かれ、南側を空けた。オーガが奥まで入れば、後ろにも回れる。


でも、オーガは速い。


一体ずつ襲えば殺される。


だったら同時に行く?


違う。


同時に行けば棍棒一振りで複数が巻き込まれるかもしれない。


俺ならどうする。


考える。


木。


足場。


人数。


武器。


オーガの大きさ。


「考えるのはいいが、見てないものを事実にするなよ」


突然ゼノが言った。


「してない」


「顔がしてる」


顔で分かるらしい。


「予想してるだけ」


「ならいい。予想と確認を混ぜるな」


俺は頷いた。


予想が当たっていると思い込めば、次に見るものまで都合よく解釈するかもしれない。《戦域把握》があっても、存在しない情報まで分かるわけじゃない。


むしろ、そこは気をつけた方がいい。


しばらく待つ。


やがて音が減っていった。


最後に一度、大きな衝撃音が響いたあと、森が静かになった。


ゼノが立ち上がる。


「行くぞ」


「戻る?」


「ああ。ただし俺より前に出るな」


俺もすぐに立った。



元の場所へ近づくにつれ、血の匂いが濃くなった。


ゼノの歩く速度が落ちる。俺も足音を抑え、周囲を確認しながら進んだ。《戦域把握》を意識するが、分かるのは自分が見たり聞いたりした範囲だけだ。敵が隠れていれば見落とす。


だから技能だけに任せない。


目で見る。


耳で聞く。


足跡を見る。


それから技能でまとめる。


丘の近くまで戻ると、ゼノが先に登った。しばらく周囲を確認したあと、手招きされる。


俺も腹を低くして登る。


さっきオークたちがいた場所を見る。


最初に目に入ったのは、倒れた木だった。何本も折れ、簡単な柵はほとんど壊れている。地面には血が広がり、オークが何体も倒れていた。


一。


二。


三。


数える。


八体。


見える範囲だけで八体。


「死んでる?」


「大半はな」


オーガもいた。


中央より少し南。


巨体が横向きに倒れている。


動かない。


オークが勝った。


俺はしばらくその光景を見る。


単体ならオーガの方が強い。


それでも倒した。


「リーダーは?」


探す。


いない。


生き残ったオークも見当たらない。


「移動した」


ゼノが言う。


「もう?」


「ここに残る理由がない」


俺たちは少し待ってから丘を下りた。ゼノが安全を確認し、戦闘跡へ近づく。


近くで見ると、さらにひどかった。


オークの死体の一体は胸が潰れている。別の個体は腕がおかしな方向へ曲がっていた。オーガの棍棒が当たったのだろう。


勝った。


でも簡単には勝っていない。


俺はオーガの死体へ近づく。巨大な身体には傷がいくつもあった。脚。背中。腕。腹。それぞれ場所が違う。


「どうやって倒したか分かる?」


ゼノが聞いた。


俺はすぐには答えず、周囲を見た。


まずオーガの右脚に深い傷がある。切り傷というより、何度も攻撃されたように見える。近くには折れた槍が二本落ちていた。


少し離れた木には大きな血の跡。


さらに地面。


足跡。


多い。


全部は追えない。


だから必要なものだけを見る。


オーガが入ってきた方向。


最初にいた場所。


倒れた位置。


死んだオークの位置。


壊れた木。


武器。


頭の中で繋ぐ。


「最初に脚を狙った?」


「続けろ」


ゼノは答えを教えない。


俺はしゃがんで足跡を見る。オーガの足跡は大きいから分かりやすい。南へ進んでいる途中で、一度大きく西へずれている。


そこに死んだオークが二体。


「こっちから攻撃した」


西。


だからオーガが向いた。


その間に東側から別のオーク。


たぶん。


さらに進むと、オーガの足跡の間隔が狭くなっている。


「途中から遅くなった」


「なぜだ」


「脚」


傷を見る。


右脚。


何度も攻撃して、動きを落とした。


それから?


オーガは強い。


遅くなっても一撃は重い。


死体が八体もある。


「弱くしてから囲んだ?」


「おそらくな」


ゼノも地面を見る。


「最初から倒そうとはしていない。動かして、削って、疲れさせている」


動かして。


その言葉に引っかかる。


「オーガを?」


「ああ」


敵を動かす。


自分が動くんじゃなく。


俺はこれまで、自分の位置を変えることで敵同士を邪魔させてきた。橋でも、森でも、昨日の町でもそうだった。


でもオーク・リーダーは違う。


自分が動くだけじゃない。


相手を動かした。


オーガが追いたくなるようにオークを下げ、狙った場所へ入れた。


「誘導した」


「ああ」


「最初からここで倒すつもりだった?」


「そこまでは分からん」


ゼノが言う。


「さっきも言っただろ。予想と確認を混ぜるな」


そうだった。


分かっているのは、オークが配置を変えたこと。オーガを南へ入れたこと。戦闘後、オーガが死んでいること。脚に集中して傷があること。


最初から全部計画していたかは分からない。


俺は立ち上がる。


《戦域把握の習熟度が上昇しました》


表示が出た。


最近よく上がる。


でもレベルはまだ1。


それだけ必要な経験が多いということだろう。


「強いな」


俺が言う。


「オーガが?」


「リーダー」


ゼノは何も言わなかった。


俺は倒れたオークたちを見る。


八体死んでいる。


勝った代わりに。


「仲間が死ぬのは気にしない?」


「分からん」


「でも八体」


「人間だって戦えば死ぬ」


昨日の町でも六人死んだ。


同じではない。


でも、死者が出ても戦うことはある。


「あいつが何を考えてるかは、足跡じゃ分からん」


ゼノが言う。


「位置は読めても、頭の中まで読めると思うな」


《戦域把握》の弱点。


昨日、自分でも言ったことだった。


位置が分かる。


動きも予想できる。


でも、なぜそう動くのかまでは分からない。


相手の目的を間違えれば、全部間違えるかもしれない。


「戻るぞ」


「追わない?」


「追わん」


「足跡ある」


「だからだ」


意味が分からない。


ゼノが北西を見る。


俺も見る。


そこには生き残ったオークたちの足跡が続いている。


「分かりやすすぎる」


言われて、もう一度見る。


確かに。


隠していない。


むしろ大量の足跡がそのまま残っている。


「罠?」


「かもしれん」


「違うかもしれない?」


「ああ」


分からない。


だから行かない。


俺なら確かめたくなる。


でもゼノは違う。


必要がなければ危険を増やさない。


「調査は?」


「十分だ。オークがオーガから一方的に逃げているわけではないと分かった。それだけでも昨日より情報は増えた」


全部を知る必要はない。


目的に必要なところまで。


それも覚えておく。



町へ戻ったのは昼を過ぎた頃だった。


ギルドではすぐにゼノが報告へ呼ばれ、俺も一緒に奥の部屋へ入った。そこにはギルド職員だけでなく、町の兵士をまとめているらしい四十代ほどの男と、左腕をまだ吊ったままのセラもいた。


ゼノが見たものを順番に話す。


オークは二十体以上。


斥候を配置。


オーク・リーダーによる明確な指揮。


オーガを誘導するような配置。


戦闘後、オーガ一体死亡。


オーク側も少なくとも八体死亡。


残存群は北西へ移動。


「つまり、オーガから逃げていたわけではない?」


兵士の男が聞く。


「最初は逃げていた可能性もある」


ゼノが答える。


「だが現在は違う。少なくとも、あの個体はオーガを狩れると判断している」


部屋が静かになった。


セラが眉を寄せる。


「オークがオーガを狩るなんて聞いたことないわ」


「俺もほとんどない」


「ほとんど?」


「絶対にないとは言えん。数がいれば不可能じゃない」


それでも珍しいらしい。


職員が地図へ印を付ける。


「問題は目的ですね」


「食料?」


誰かが言う。


「縄張りかもしれない」


別の人間が言う。


俺は黙って聞く。


可能性がいくつも出る。


どれもありそう。


どれも確認できない。


昨日までの俺なら、どれが正しいか考え続けていたかもしれない。


でも今は少し分かる。


分からないものは、分からないまま置いておく。


「レオン」


突然ゼノに呼ばれた。


「何だ」


「お前はどう見た」


部屋にいる大人たちがこっちを見る。


俺?


「何を?」


「配置だ」


俺は少し考える。


見たことだけ。


予想と分ける。


「オーガが来る前に、オークが左右へ分かれました。南側は空けてた。オーガが南へ入ったあと、左右から近づいてた」


「他は?」


「リーダーは前に出てなかった」


「どこにいた?」


「中央より後ろ」


「それをどう思う?」


これは予想。


「全体を見るため……だと思う」


ゼノが頷く。


「そういうことだ」


兵士の男が俺を見る。


「君はいくつだ?」


「八歳」


「……そうか」


もうすぐ九歳だけど。


男はそれ以上聞かなかった。


報告が終わり、部屋を出る。


廊下でゼノに聞く。


「なんで俺に聞いた?」


「お前が見たからだ」


「ゼノも見た」


「同じものを見ても、同じ情報を拾うとは限らん」


それは分かる。


俺が見落としたものをゼノは見ている。


逆もある?


「俺にしか見えてないものあった?」


「さあな」


「教えて」


「自分で考えろ」


やっぱり。



午後。


訓練場へ行った。


ラウルはいなかった。リナとディルも今日はギルドの手伝いをしている。


一人。


俺は木剣を持つ。


でも素振りはしない。


訓練場の端に立って、人を見る。


六人。


二組が模擬戦。


一人が素振り。


一人が走っている。


《戦域把握》を使う。


位置。


移動。


距離。


ここまでは昨日までと同じ。


次。


俺は一人の訓練者を見る。


右へ動く。


なぜ?


相手の剣を避けるため。


次は?


左へ戻る。


なぜ?


壁が近いから。


位置だけじゃない。


理由。


もちろん本当の考えは分からない。


だから仮定する。


外れたら直す。


もう一組。


一人が前へ出る。


相手が下がる。


追う。


さらに下がる。


追う。


その先には訓練用の木柱。


追っている方は気づいている?


分からない。


三歩。


二歩。


下がっていた男が急に横へ避けた。


追っていた男が木柱の直前で止まる。


「……これ」


俺は小さく呟く。


さっき見た。


規模も相手も違う。


でも同じ。


相手を動かす。


自分が欲しい場所へ。


俺は木剣を握り直す。


今までの俺は、相手の攻撃を読もうとしていた。


次に何をするか。


どこから斬るか。


どう避けるか。


それだけじゃない。


相手に次の行動を選ばせることもできる。


右へ行かせたいなら、左を危険にする。


下がらせたいなら、前へ出る。


追わせたいなら、逃げる。


簡単にできるとは思わない。


相手だって考える。


ラウルなら、たぶんすぐ気づく。


ゼノならもっと無理。


でも。


練習はできる。


「ラウル探そう」


立ち上がる。


その瞬間、脇腹が少し痛んだ。


止まる。


朝よりは楽。


でもまだ治っていない。


昨日の疲れも残っている。


ゼノに言われた。


今日は半分。


俺はしばらく考えて、木剣を戻した。


「……明日」


自分で言う。


嫌だ。


今すぐ試したい。


でも身体を壊したら、明日はもっとできない。


訓練場を出ようとしたところで、表示が浮かんだ。


《観察の習熟度が上昇しました》


《対象の行動理由を推測する継続的な観察を確認》


それだけ。


新しい技能はない。


必要ない。


一つ分かっただけで十分だった。



夜。


宿でゼノと食事をしていると、ギルド職員が訪ねてきた。


「ゼノさん、少しよろしいですか」


「何だ」


「北西の監視班から報告です」


俺も顔を上げる。


職員は少し息を整えてから続けた。


「オークの集団を再確認しました。現在確認できているだけで二十六体」


増えている。


朝は二十体以上だった。


「合流したか」


「その可能性が高いです。それと、例の大型個体も確認されています」


「オーガは?」


「確認されていません」


ゼノが食事の手を止める。


「他には」


職員が一瞬黙った。


「オークたちは北西へ逃走しているのではなく、一定の場所に集まり始めています」


俺はゼノを見る。


ゼノの表情は変わらない。


「場所は?」


「旧街道沿いです。十年以上前に放棄された砦の周辺」


砦。


初めて聞く。


「町からは?」


「徒歩で一日半ほどです」


すぐに襲われる距離ではない。


でも遠くもない。


「ギルドは?」


「明日、偵察隊を出す予定です。討伐については、その報告を待って判断します」


職員が帰ったあと、俺はゼノを見る。


「行く?」


「お前は行かん」


即答。


「今日行った」


「今日は痕跡調査だ。明日は拠点の偵察になる」


危険度が違う。


「ゼノは?」


「まだ決まってない」


俺はパンを食べながら考える。


二十六体。


オーク・リーダー。


放棄された砦。


もし砦を使うなら。


壁。


入口。


高い場所。


狭い道。


橋や森より、もっといろいろ使える。


あのオークなら。


使う。


「考えるなとは言わん」


ゼノが言った。


また顔に出ていたらしい。


「ただし、行くつもりで考えるな」


「違う?」


「違う。自分が現場にいる前提で考えると、都合のいい情報を勝手に足しやすい」


今日だけで何度も同じことを言われている。


予想と確認。


分ける。


俺は頷いた。


分かっていること。


オークは二十六体以上。


大型個体がいる。


旧街道沿いの放棄された砦へ集まり始めている。


分からないこと。


なぜ集まっているのか。


何体まで増えるのか。


オーガはどこにいるのか。


町をもう一度襲うのか。


砦を使うつもりなのか。


まだ、ほとんど分からない。


それでも一つだけ確かなことがある。


昨日まで、オークは町を襲ってきた敵だった。


今日見たのは違う。


罠を作る敵。


斥候を出す敵。


格上のオーガを、自分たちが有利になる場所へ誘い込んで倒す敵。


そして今度は、砦の近くに集まっている。


俺は食事を続けながら、昼間に見たオーガの死体を思い出した。


強い方が勝つとは限らない。


俺はそれを、ずっと自分に言い聞かせてきた。


今日初めて。


敵に教えられた。

お読みいただきありがとうございました!

「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、画面の下(または目次ページなど)にある**【ブックマーク登録】と、【★★★★★評価】**で応援していただけると本当に嬉しいです!


感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。