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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第三章 世界への一歩
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33/250

指揮する者

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

翌朝、目を覚ましたときには身体のあちこちが重かった。


昨日は走って、荷車を押して、怪我人を運び、オークとも戦った。脇腹の傷は開いていないが、押すと少し痛む。腕や脚にも疲れが残っている。


それでも起きる。


身体を軽く動かして状態を確認する。


走れる。


剣も振れる。


でも全力ではない。


昨日ゼノに言われたことを思い出し、朝の鍛錬はいつもの半分にした。


走るのは町の外周一周。


素振りは五百回。


終わる頃には身体が温まり、重さも少し減った。


宿へ戻ると、ゼノがすでに朝食を食べていた。


「少ないな」


俺を見るなり言った。


「半分」


「珍しい」


「疲れてるから」


ゼノの手が止まる。


「学習したか」


「前からしてる」


「そうだったか?」


たぶんしてる。


少なくとも自分ではそう思う。


俺も席に座り、朝食を食べる。昨日かなり動いたせいか、普段より腹が減っていた。


パンを二つ。


肉。


スープ。


それでも足りない。


「もう一つ」


宿の主人に頼む。


ゼノがこっちを見る。


「食うな」


「足りない」


「違う。食え」


言い直した。


「身体を使った分は戻せ。鍛錬だけ増やして食事を減らすな」


「分かってる」


パンを追加する。


こういうところは細かい。


でも多分、必要なんだと思う。


食事を終えると、ゼノが立ち上がった。


「今日はギルドへ行く」


「依頼?」


「報告」


昨日の襲撃についてだ。


俺も一緒に向かった。



ギルドへ入ると、昨日とは違う意味で騒がしかった。


戦闘そのものは終わっている。


それでも冒険者や兵士、ギルド職員が何人も行き来していて、壁には新しい紙が何枚も貼られていた。


死亡者。


負傷者。


討伐数。


被害区域。


北門周辺の一部は修理中。


町の北側では家が何軒か壊されたらしい。


俺は数字を見る。


兵士三名。


冒険者二名。


住民一名。


死者。


六人。


少ないのか、多いのか分からない。


四十七体以上のオークとオーガが来た。


それを考えれば少ないのかもしれない。


でも六人死んだ。


それは変わらない。


「昨日、南側へ回された意味は分かったか?」


ゼノが横で言った。


「うん」


戦える人間が全員北へ行ったら、避難する人間が足りなくなる。


昨日、俺たちが動かした人だけでもかなりいた。


もし誰もいなかったら。


考えれば分かる。


「敵を倒すだけが戦いじゃない」


ゼノはそれだけ言った。


俺は壁から目を離す。


受付の奥にはリナとディルもいた。


二人も俺を見つける。


「レオン!」


リナが手を上げる。


近づくと、ディルが机の上の紙を指した。


「昨日のまとめ出てるぞ」


見る。


オーク討伐三十一。


逃走確認十一。


行方不明推定五以上。


数が合わない。


最初の四十七体が全部ではなかった可能性もある。


オーガは一体討伐。


一体逃走。


一体所在不明。


それから。


大型オーク。


生存。


北へ逃走。


「こいつ、まだいるんだな」


ディルが言う。


「うん」


俺も紙を見る。


大型。


通常個体より一回り大きい。


装備は革鎧と鉄製防具の混成。


武器は長柄の斧。


複数のオークへ明確な指示を出す。


退却時にも隊列を維持。


追撃への牽制を実施。


書いてあることは、セラとゼノから聞いた内容とほぼ同じだった。


その下に、新しい項目が追加されていた。


暫定分類。


《オーク・リーダー》


「名前ついた」


俺が言う。


「仮だってさ」


リナが紙を読む。


「正式な種別じゃなくて、ギルドが区別するための呼び方みたい」


なら、まだ種族として別物と決まったわけではない。


「上位種じゃないの?」


ディルが聞く。


近くにいた職員が答えた。


「現時点では不明です。同じオークが成長した個体なのか、別種なのか、特殊な変異個体なのかも判断できていません」


「倒せば分かる?」


俺が聞く。


職員が少し嫌そうな顔をした。


「できれば生きたまま観察したいところですが、あれを捕獲しようという話は今のところ出ていません」


「危ないから?」


「危ないからです」


即答だった。


その横でゼノが紙を見る。


「妥当だ」


「ゼノでも捕まえられない?」


「できるかもしれん」


「じゃあ――」


「やらん」


「なんで?」


「捕獲は討伐より難しい」


相手を殺さず、逃がさず、こちらも死なない。


確かに難しい。


「それに今は追う理由がない」


ゼノは地図を見る。


「町から離れている。追えば森の中で向こうの得意な場所に入る」


それも昨日聞いた。


逃げるふりをして誘う。


相手が考えているなら、追う方が危険になる。


俺は《オーク・リーダー》と書かれた紙をもう一度見た。


単体ならオーガより弱い。


でも周りを使う。


そういう相手。


少しだけ興味が強くなった。



昼前。


ギルドの訓練場。


ラウルがいた。


昨日の襲撃では北側の予備隊に入っていたらしい。大きな怪我はなく、右腕に浅い切り傷があるだけだった。


「お前、生きてたな」


ラウルが言う。


「そっちも」


「俺は普通に戦ってたからな」


「俺も戦った」


「聞いた。二体だろ?」


「三体とも戦った」


「倒したのは二体だろ」


そう。


一体目の三体は時間稼ぎ。


二体は診療所。


「それで、新しい技能覚えたんだって?」


「うん」


「見せてみろ」


俺は《戦域把握》の説明を見せる。


ラウルは読んだあと、少し眉を上げた。


「これ、面倒くさそうだな」


「便利」


「お前、それ昨日も言ったらしいな」


誰から聞いたんだろう。


リナを見る。


目を逸らした。


「試す?」


ラウルが木剣を取る。


「やる」


俺も木剣を持った。


ただし今日は身体が重い。


そのことは分かっている。


「五本だけ」


俺が言うと、ラウルが笑った。


「本当に学習したな」


たぶん。


構える。


一戦目。


ラウルが踏み込む。


以前なら、まず剣と身体を見る。


今は少し違う。


ラウル。


壁。


周囲の訓練者。


空いている場所。


自分が動ける範囲。


《戦域把握》を意識すると、それらを同時に頭へ置きやすい。


ただし。


ラウルの剣が来る。


遅れた。


俺は慌てて身体を引く。


木剣が胸を掠めた。


「一本」


早い。


周りを見た分、目の前が遅れた。


昨日よりはマシ。


でもまだ駄目。


「もう一回」


二戦目。


今度はラウルを中心にする。


周囲は全部見ない。


必要なところだけ。


右後ろに人。


左は空いている。


前はラウル。


踏み込む。


横薙ぎ。


避ける。


追撃。


後ろへ下がる。


そのまま下がると右後ろの訓練者にぶつかる。


だから左。


ラウルも追う。


そこまでは読めた。


でも次の突きで肩を取られた。


「一本」


負け。


それでも一戦目より長い。


三戦目。


四戦目。


全部負けた。


五戦目。


ラウルが最初から速く来る。


俺が周囲を見る余裕を作らせないつもりらしい。


剣。


避ける。


もう一度。


下がる。


追う。


ラウルは俺が左へ逃げると思っている。


だから右。


でも右には壁。


壁まで三歩。


そこで止まる。


いや。


止まらない。


壁を使う。


二歩下がる。


ラウルが踏み込む。


あと一歩。


俺は壁際で身体を左へずらした。


ラウルの踏み込みが少し浅くなる。


壁へぶつからないため。


その瞬間に俺が前へ出る。


木剣を振る。


ラウルの肩。


届く。


そう思った。


でもラウルの剣が先に俺の腹へ触れた。


「一本」


負けた。


「……惜しい」


俺が言う。


「自分で言うな」


ラウルが笑った。


「でも前より嫌だな」


「何が?」


「戦う位置まで考えてる」


「前から」


「前より早い」


それは《戦域把握》のおかげかもしれない。


でもまだ勝てない。


「もう一回」


「五本って言っただろ」


「あと一回」


「駄目」


「一回だけ」


「ゼノさん呼ぶぞ」


やめた。



午後は三人で町の外へ出た。


依頼ではない。


昨日の戦闘跡を見るためだった。


もちろん北門から遠く離れない。


ギルドが安全確認を済ませた範囲だけ。


地面には戦闘の跡が残っていた。


折れた槍。


血。


踏み荒らされた草。


壊れた柵。


オークの死体はすでに回収されているが、地面の跡までは消えない。


「何見るの?」


リナが聞く。


「動き」


「昨日の?」


「うん」


実際の戦闘はほとんど見ていない。


でも跡は残る。


足跡。


武器が当たった場所。


血。


どこで誰が倒れたか。


全部分かるわけじゃない。


それでも考えることはできる。


俺は地面を見る。


大きな足跡が何本もある。


一方向じゃない。


北から南。


南から北。


途中で横へ分かれている。


「ここ」


俺が言う。


ディルが近づく。


「何?」


「分かれてる」


「そりゃ戦ってたからだろ」


「違うかも」


足跡の向きが揃っている。


四体くらい。


同じ方向へ曲がっている。


その先には壊れた柵。


さらに向こう。


別の足跡。


「囲んだ?」


リナが言う。


「たぶん」


俺が昨日やったのと同じ。


正面から一体。


横から二体。


逃げ道側に一体。


たぶん。


確証はない。


でも位置を見ると、そう見える。


《戦域把握》を使う。


昨日ここにいたと仮定する。


敵。


味方。


道。


柵。


建物。


逃げる方向。


どこへ置けば囲めるか。


頭の中で作る。


「嫌だな」


ディルが言う。


「何が?」


「オークがこんなこと考えてるの」


俺もそう思う。


ゴブリンは群れる。


でも、ここまで意図的に配置する感じはなかった。


「指示する奴がいるから」


リナが言う。


「たぶんね」


そのとき。


《戦域把握の習熟度が上昇しました》


表示が出た。


戦っていない。


昨日の避難と同じ。


跡を見るだけでも上がる。


使い方は一つじゃない。


「また上がった?」


リナが聞く。


「うん」


「何してたの?」


「昨日の位置考えてた」


「それで上がるんだ」


俺も少し驚いた。


でも考えてみれば、観察もそうだった。


戦闘だけじゃない。


見る。


考える。


予測する。


それも練習になる。


俺はもう一度地面を見る。


まだかなり分からない。


だから面白い。



夕方、ギルドへ戻ると、新しい報告が入っていた。


北へ逃げたオークの一部が、さらに森の奥へ移動している。


オーガも同じ方向。


ただし。


完全に一緒ではない。


距離を取っている。


「仲間じゃない?」


ディルが言う。


「少なくとも、一緒に動いてはいないみたい」


リナが地図を見る。


俺も見る。


オーク。


オーガ。


同じ北。


でも離れている。


「やっぱり逃げてた?」


ディルが言う。


可能性はある。


でも。


何か引っかかる。


そのとき、受付の奥からゼノが出てきた。


「ちょうどいい」


俺を見る。


「何?」


「明日、北へ行く」


「俺も?」


「ああ」


一瞬、聞き間違えたかと思った。


「戦う?」


「調査だ」


ゼノが地図の北側を指す。


「町の近くまで来た理由を確認する。オーガとオーク・リーダーの位置も見る」


「近づく?」


「必要なら」


リナとディルが顔を見合わせる。


「俺たちも?」


ディルが聞く。


ゼノは首を振った。


「今回はレオンだけだ」


「なんで?」


俺も聞く。


「《戦域把握》を覚えたんだろ」


そう。


「使え」


ゼノはそれだけ言った。


実戦。


でも戦闘じゃない。


観察。


調査。


位置。


動き。


まさに今覚えた技能を使う場所。


「分かった」


俺は頷く。


その夜。


剣を磨きながら、明日のことを考えた。


オーク・リーダー。


逃げたオーガ。


森の奥。


戦うなと言われるのは分かっている。


それでも近くまで行く。


怖くないわけじゃない。


ホーンウルフのときも。


オーガを初めて見たときも。


怖かった。


今も同じだ。


でも、怖いから知らなくていいとは思わない。


知らなければ、逃げることもできない。


勝てないなら、まず見る。


見るだけで分からないなら、考える。


それでも分からなければ、また見る。


俺は剣を鞘へ戻した。


明日は戦わない。


たぶん。


でも。


戦わなくても、強くなれる。


今はそれが分かっていた。


お読みいただきありがとうございました!

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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