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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第三章 世界への一歩
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戦わない戦場

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

町へ出た瞬間、普段とはまるで違う景色が広がっていた。


北へ向かう冒険者と兵士、その反対に南へ急ぐ住民。ギルド職員が道の中央を走り回り、避難を促す声や馬の鳴き声、荷車の車輪が石畳を叩く音があちこちから重なっている。俺は人の流れに逆らわないよう位置を見ながら走り、ゼノに言われた通り、まずリナとディルを探した。


「レオン!」


先に俺を見つけたのはリナだった。栗色の髪を揺らしながら駆けてきて、その後ろにはディルもいる。二人とも町の様子が普段と違うことには気づいているようだった。


「何があったの?」


「オークが来る。確認されたのは四十七体」


リナの表情が強張り、ディルもすぐに北へ目を向けた。


「四十七……。俺たちも戦うのか?」


「違う。俺たちは避難を手伝う。南門へ誘導する」


「ゼノさんの指示?」


「うん」


ディルは一度だけ頷いた。


「なら、それに従おう」


三人で南へ向かいながら、途中にいたギルド職員から避難の状況を聞く。北側の住民を優先して南門へ逃がし、自力で移動できない者がいれば荷車を使う。門の外には、すでに一時的な避難場所が作られているという。


俺たちはまず、まだ人が多く残っている北西の住宅区へ向かった。



「南門へ避難してください! 荷物は最低限でお願いします!」


リナの声が通りに響く。


こういう役目は俺よりリナの方が向いている。俺は無理に大声を出すより、家から出てくる人や道の状態を《観察 Lv3》で見ながら、流れが悪くなっている場所を探した。


老人や子供を連れた家族、両手いっぱいに荷物を抱えた人、何を持っていけばいいのか分からず戸口で立ち尽くしている人もいる。それぞれが南を目指しているが、人が増えるにつれて道の流れは少しずつ悪くなっていた。


曲がり角の先で、一台の荷車が止まっている。


後ろから来た人たちがそこで詰まり、狭い道に人が溜まり始めていた。


「ディル、あれ」


二人で近づくと、荷車を引いていた男が焦った声を上げた。


「車輪が溝に落ちたんだ!」


右側の車輪が道路脇の溝へ深く嵌まっている。荷台には家財が積まれていて、その重さのせいで簡単には動きそうにない。


「荷物を減らして」


「だが、これは全部――」


「オークが来る。今は動ける方が大事」


男は荷台と俺を見比べ、唇を噛んだ。


「……分かった」


ディルがすぐ荷台へ上がり、俺も男と一緒に必要性の低い荷物を下ろす。ある程度軽くなったところで車輪の横へ回り、腰を落とした。


腕だけで持たない。


脚と腰を使う。


《運搬》で何度も身につけてきた身体の使い方を意識し、ディルと男が押すタイミングに合わせて力を入れる。重い車体が僅かに浮き、もう一度力を合わせると、車輪がようやく溝から抜けた。


「行って」


「あ、ああ! 助かった!」


荷車が動き出すと、その後ろで止まっていた人の流れも一緒に動き始めた。


俺はそれを見ながら、少しだけ引っかかるものを感じた。


一人ずつを急がせたわけじゃない。


止まっている場所を一つ動かしただけで、その後ろにいた何十人も進めるようになった。


七体のゴブリンを相手にしたときにも、似たことを考えた。全員を同時に相手にするのではなく、位置を見て、一度に相手をする数を減らす。


人の流れも同じなのかもしれない。


誰がどこにいるかを見るだけでは足りない。どこで流れが止まり、その影響がどこまで広がっているのかまで考えれば、一か所を動かすだけで全体を変えられる。


俺は動き始めた人々を見届けてから、次の場所へ向かった。



住宅区をさらに回ると、一軒の家で足の悪い老婆が見つかった。


俺は背中を向けてしゃがみ、老婆を背負う。重さはあるが、運べないほどではない。ディルが先に道を確認し、リナが周囲に声をかけながら、混雑した大通りを避けて細い道を使うことにした。


途中で、二人の子供が道端に立って泣いていた。


リナがすぐにしゃがみ込む。


「お父さんとお母さんは?」


「わ、わかんない……」


「どこではぐれたの?」


「おうち……みんな走って……」


今から家まで戻って親を探せば、避難そのものが遅れる。この子たちだけをここに残すわけにもいかない。


「一緒に連れていこう」


リナとディルが頷いた。


俺たちは老婆と子供二人を連れ、南門を目指した。老婆を背負っている俺は速く走れず、子供たちも大人と同じ速度では動けないため、全員の状態を見ながら進む必要がある。


《観察 Lv3》で周囲を見る。


前を歩く人の向き、子供の足元、老婆の呼吸、道幅、横道から出てくる人影。細かな変化を拾うのは、これまで何度も使ってきた《観察》の役目だった。


ただ、それだけでは足りない。


さっき通った大通りは混んでいた。西側の細道にはまだ余裕があり、次の角では荷車が通っていた。リナは後方、ディルは子供の横、俺は老婆を背負っている。


目の前にある情報と、少し前に見たものを頭の中で繋げる。


「次、右に行こう」


「右?」


「そっちの方が人が少なかった」


角を曲がる。


予想通り、道は空いていた。


しばらく進むと、正面から別の荷車が現れた。今いる道のままではすれ違えないが、その手前には左へ抜ける路地がある。


「一回、左」


早めに路地へ入る。


荷車が通り過ぎるのを待ち、再び南へ向かう。


今までなら、目の前に来たものを見てから動いていた。


今は少し違う。


自分たちの位置と周囲の人間、道の形、それまでに見た流れを覚えておけば、問題が起きる前に進む場所を選べる。


戦っていないのに、頭はずっと動いていた。



南門へ老婆と子供たちを送り届けると、俺たちはすぐ町へ戻った。


それから何度も往復した。自力で歩ける者には道を伝え、遅れている者がいれば手を貸す。時間が経つほど町の状況は変わり、南へ逃げる住民だけでなく、前線へ向かう兵士や武器を運ぶ荷車、北から運ばれてくる負傷者も増えていった。


遠くから金属音が聞こえた。


続いて、微かに叫び声。


「……始まったのかな」


リナが北を見る。


戦闘が始まった。


俺も足を止めそうになった。


オークが四十七体いる。今の俺がどれだけ戦えるのか知りたいし、実際の戦場で何が起きるのかも見てみたい。


そのとき、道の端で老人が転んだ。


俺はすぐそちらへ走る。


今やることはこっちだ。


ゼノは俺を戦わせるために残したんじゃない。


町の人間を逃がすために残した。



何度目かの往復で、南門へ続く道が急に進まなくなった。


まだ門までは距離がある。それなのに、人の流れが完全に止まっている。


俺は人の隙間から前方を《観察 Lv3》で確認した。


道の中央に二台の荷車がある。


一台は南へ向かい、老人と怪我人を乗せている。もう一台は北向きで、武器や木箱を大量に積んでいた。前線へ補給する荷車が避難の流れと正面からぶつかり、狭い道で互いに動けなくなっている。


その後ろから、さらに人が増えていた。


このまま押し合えば危ない。


「リナ、後ろの人を止めて」


「分かった!」


「ディルは来て」


二人で人の間を抜け、荷車まで進む。


「北へ行く方を、一回下げて」


御者の男が首を振った。


「無理だ! 前線へ急げと言われてる!」


「このままなら前にも行けない」


「だからって――」


俺は横の路地を見る。


北向きの荷車なら、少し戻せばそこへ入れられる。ただし入口に木箱が二つ置かれている。


「少しだけでいい。路地に避ければ両方動ける」


御者もようやく路地を見る。


「……入るか?」


「木箱を退かせば」


ディルと一緒に走り、二つの木箱を移す。御者と協力して荷車を少しずつ下げ、後輪が路地へ入るよう角度を調整すると、南へ向かう荷車が通れるだけの幅ができた。


「進んで!」


リナの声が後方へ届く。


最初の荷車が動く。


その後ろの人々も続く。


避難する人間が抜ければ、路地へ入った補給の荷車も再び北へ向かえる。


一つの場所を変えただけで、二つの流れが動いた。


その瞬間、視界の端に文字が浮かんだ。


《多数の対象が存在する環境下における継続的な状況判断を確認》


《複数対象の位置・移動方向の継続把握を確認》


《地形および移動経路を含む状況整理を確認》


《観察情報を利用した複数対象への対応経験を確認》


システムが反応している。


《観察》を使ったこと自体に反応しているわけじゃない。


見つけた一つ一つの情報を覚え、それぞれの位置や動き、地形と結びつけながら全体を考えたことに反応している。


続きを確認しようとしたとき、リナの声が響いた。


「レオン!」


声の調子が違う。


俺は表示から目を外した。


北から、血を流した冒険者が走ってくる。


「下がれ! 北門が破られた!」


空気が変わった。



悲鳴が上がった。


それまである程度まとまっていた人の流れが一気に崩れ、住民たちが南へ殺到する。前の人を押す者まで現れ、足元では子供が転びかけていた。


俺は近くの子供を支えながら周囲を見る。


「走らないで!」


声を出す。


届かない。


こういうときはリナだ。


「リナ! 南門はまだ使えるって伝えて!」


「分かった!」


リナが息を吸う。


「走らないでください! 南門は開いています! 押さないで! 左の道も使えます!」


俺はその間も《観察 Lv3》で人の流れを見る。


右側へ人が集中している。一方で左へ伸びる路地にはまだ余裕があり、リナの声を聞いた何人かがそちらへ入り始めた。


一か所へ集まっていた人が分かれる。


流れが少し戻る。


さっきの表示が頭をよぎった。


目の前の人だけじゃない。


自分の周りに誰がいて、どこへ向かっているのか。どこが詰まり、どこなら動けるのか。


それを頭の中から消さない。


そのとき、ディルが短剣を抜いた。


「レオン」


北を見る。


人の流れの向こうから、冒険者と兵士が後退してくる。そのさらに奥に、大きな影が三つ見えた。


緑がかった灰色の肌。


オーク。


もう町の中まで入っている。


後ろには、まだ逃げ切れていない住民がいる。


ここで俺たちだけ逃げれば、オークはそのまま住民へ向かう。


俺は剣を抜いた。


「リナは住民をそのまま南へ。ディルは左をお願い」


「レオンは?」


「前で止める。倒さなくていい。逃げる時間を作る」


二人が頷く。


三体を倒す必要はない。


必要なのは時間だ。



三体のオークが走ってくる。


先頭は棍棒、その後ろに槍。斧を持った個体だけが少し左へ膨らみ、三体同時にこちらへ入ろうとしていた。


正面から受ければ囲まれる。


俺は荷車の横へ移動した。


棍棒のオークがそのまま俺を追い、武器を振り下ろしてくる。肩と腰の動きを《観察 Lv3》で捉えて右へずれると、棍棒が地面を叩いた。


重い。


ゴブリンとは比べものにならない。


反撃できる距離だった。


でも斬らない。


俺は荷車の側面に沿ってさらに下がり、棍棒のオークをこちらへ引き込む。後ろから来た槍の個体は荷車に進路を塞がれ、先頭と横に並べない。


一対三じゃない。


少なくとも今、俺へ直接攻撃できるのは一体だけだ。


棍棒が横から薙がれる。俺は間合いの外へ半歩下がり、続く振り下ろしを左へ避けた。攻撃は重いが動きも大きく、その分だけ《観察》で始動を拾いやすい。


後ろを見る余裕はない。


それでも、リナの声は聞こえている。


まだ住民が残っている。


なら、続ける。


棍棒のオークが踏み込んだ直後、荷車の横から槍の穂先が伸びてきた。


さっきまで槍の個体がいた場所を覚えていた。


その記憶があったからこそ、視界の端に穂先が入った瞬間に身体を捻ることができた。服が浅く裂けたが、刃は身体には届かない。


見えなくなったから、いなくなったわけじゃない。


ラウルとの訓練でも、何度もそれで失敗した。


一人だけを見続ければ、他の相手を忘れる。


俺は棍棒のオークの動きを《観察》で追いながら、槍の個体が荷車の向こうにいることを意識から外さないようにする。正確な位置まで分かるわけではないが、最後に見た場所と進んでいた方向を覚えていれば、次に攻撃できそうな場所はある程度絞れる。


左から金属音が鳴った。


ディルが斧の個体を抑えている。


そちらへ意識を向けすぎない。


棍棒の個体がまた踏み込んだ。


俺は左へ動く。


オークも追ってくる。


その位置なら、荷車の向こうにいる槍の個体と直線上に重なる。


槍が伸びた。


しかし、棍棒のオーク自身が邪魔になり、穂先が途中で止まる。


狙った。


偶然じゃない。


目の前の一体を避けただけじゃない。


三体の位置と荷車を意識して、相手同士が邪魔になる場所へ動いた。


視界の端に、再び表示が現れた。


《複数対象の位置・移動方向の継続把握を確認》


《地形を利用した位置関係の調整を確認》


《多数の対象に対する継続的な位置関係の把握を確認》


《新規技能獲得条件を満たしました》


棍棒の次の一撃を避ける。


表示が続く。


《新規技能を獲得しました》


《戦域把握 Lv1》


その瞬間、何もかもが見えるようになったわけではなかった。


目の前のオークの細かな動きを読むには、今まで通り《観察》が必要だった。荷車の向こう側が見えるわけでもなければ、ディルやリナの位置が勝手に頭へ流れ込んでくるわけでもない。


ただ、さっきまで意識して覚えておかなければ崩れていた情報が、少しだけ整理しやすくなった。


目の前には棍棒。


荷車の向こうには槍。


左ではディルが斧の個体を抑えている。


後方ではリナが住民を南へ誘導している。


周囲には荷車と狭い路地があり、三体が横並びで俺たちを囲める場所は少ない。


俺が見て、覚えた情報だ。


《戦域把握 Lv1》が知らないことまで教えてくれているわけじゃない。


それでも、複数の位置関係を同時に考える負担が少しだけ軽くなった。


「レオン!」


後方からリナの声が届く。


今度は振り返る余裕を作り、位置を確認した。


「全員抜けた!」


目的達成。


「逃げる!」


俺は棍棒のオークから一気に距離を取った。ディルも斧の個体から離れ、リナと合流して三人で南へ走る。


オークたちは追ってくる。


俺は走りながら道を見る。


広い道へ出れば三体が並べる。


なら、細い道を使う。


「次、右!」


三人で路地へ入る。


最初の一体は追ってきたが、二体目は大きな身体のせいで曲がるのが遅れた。そこで距離が少し開き、次の角を左へ曲がると三体の間隔がさらに広がる。


《戦域把握 Lv1》は、正しい道を勝手に教えてくれる技能じゃない。


俺が見たもの、覚えたもの、今いる場所や地形を整理する助けになるだけだ。


それでも十分だった。


前より少しだけ、全体を見ながら動ける。


足音が遠ざかり始めた。


このままなら離せる。


そう思ったところで、前方に黒い外套が見えた。


「止まれ」


ゼノだった。


俺たちは足を止める。


ゼノの視線が俺たちの後ろへ向き、追ってきたオークが路地から姿を現した。


ゼノが剣を抜く。


棍棒の個体が踏み込むより早く間合いへ入り、首を斬った。俺が必死に避け続けた相手が、一撃で地面へ倒れる。


遅れて槍と斧の二体も現れた。


槍が突き出される前にゼノが懐へ入り、そのまま一体を斬る。最後の斧が振り上げられたときには、もうゼノの剣が先に届いていた。


数秒だった。


三体とも動かなくなる。


俺は息を整えながら、その光景を見た。


俺が倒せなかった相手。


いや、違う。


俺は倒すことを目的にしなかった。


住民が逃げるまで止めればよかった。


その判断自体は間違っていない。


でも、もし倒さなければならない状況だったとしても、今の俺に三体を数秒で仕留めることなんてできない。


まだ差は大きい。


「怪我は?」


ゼノが聞く。


「ない。服を少し掠っただけ」


ディルとリナも無事だった。


ゼノは俺の抜いたままの剣を見る。


「戦ったな」


「逃げられなかった。後ろにまだ人がいたから、逃げるまで止めた」


「倒そうとしたか?」


「してない」


「なぜ」


「倒す必要がなかったから。時間があればよかった」


ゼノは俺を見たあと、小さく頷いた。


「正解だ」


その一言で、張っていたものが少しだけ緩んだ。


俺はそこでようやく、さっき獲得した技能をきちんと確認した。


《戦域把握 Lv1》


《複数の対象、地形、移動経路などの情報を継続的に整理し、戦場における位置関係の把握を補助する》


《習熟度に応じて把握可能範囲・対象数・精度が向上する》


続けて、自分の技能欄を見る。


《観察 Lv3》


そして、新しく追加された、


《戦域把握 Lv1》


二つともある。


《観察》が別の技能に変わったわけじゃない。


相手の肩や腰の動き、足元、傷、周囲の小さな変化。そうした細かな情報を拾うのは、これまで通り《観察》の役目だ。


《戦域把握》は、俺自身が見たり覚えたりした複数の情報を、位置関係や地形と一緒に整理するための技能。


だから、両方使う。


《観察》で拾い、《戦域把握》で全体の中へ置く。


まだ《戦域把握 Lv1》でできることは少ない。視界から消えた相手の正確な位置が分かるわけでもないし、知らない場所にいる敵を見つけられるわけでもない。


それでも、使い方を覚えればもっと伸ばせる。


「ゼノ」


「なんだ」


「新しい技能、覚えた」


説明を見せる。


ゼノは目を通し、それから俺を見る。


「《戦域把握》か」


「うん」


「ここ数日やってたこと、そのままだな」


ラウルとの訓練を思い出す。


一人だけを見ない。


相手が複数なら、それぞれがどこにいるのかを意識する。


地形も見る。


今日の避難では、そこに住民や荷車の流れまで加わった。


「急に強くなった感じはしない」


「それでいい」


「いいの?」


「技能一つ増えただけで別人になる方がおかしい」


確かに。


《観察》だって、覚えた瞬間から何でも見抜けたわけじゃない。


《戦域把握》も同じだ。


使って、失敗して、また使う。


そうやって上げればいい。


そのとき、北から低い音が響いた。


地面が僅かに震え、続いて遠くで何かが壊れるような音がした。


ゼノの表情が変わる。


「何?」


返事が来るより先に、咆哮が聞こえた。


人間の声ではない。


低く、腹の奥まで響く声。


知っている。


前に森で聞いた。


「……オーガ?」


「ああ」


ゼノが剣を握り直す。


「ここにいろ」


「でも――」


「今度は駄目だ」


声の強さで分かった。


さっきのオークとは違う。


俺は黙って頷いた。


ゼノはそのまま北へ走り、すぐに人混みの向こうへ消えていった。


追わない。


今の俺が行けば、ゼノたちが戦う場所で守られる側になる。


それくらいは分かる。


俺はもう一度、自分の技能を確認した。


《観察 Lv3》。


《戦域把握 Lv1》。


今まで積み上げてきたものが消えたわけじゃない。その上に、今日の経験から新しい技能が一つ増えた。


オーク三体を相手に、俺は倒すことを目的にできるほど強くなかった。その三体をゼノは数秒で倒し、今、そのゼノが表情を変える相手が北にいる。


まだ遠い。


本当に遠い。


それでも、できることは一つ増えた。


俺はゼノを追わず、リナとディルのそばに残った。


遠くから、もう一度オーガの咆哮が響いた。


お読みいただきありがとうございました!

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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