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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第三章 世界への一歩
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知らない戦い方

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

翌朝、ギルドへ行くと、約束通りディルとリナが依頼板の前で待っていた。


「今日は俺が決める」


会って最初の言葉がそれだった。


「まだ昨日のこと気にしてる?」


「気にしてねえ。昨日はレオンが決めたから、今日は俺ってだけだ」


ディルはそう言いながら、依頼板から一枚の紙を剥がした。


《街道沿いに出没するゴブリンの討伐。確認数三体。商人への被害一件。》


場所は町から南へ二時間ほど。昨日より数は少ない。


「これなら三人で余裕だろ」


俺はすぐには答えず、依頼書を確認した。


「確認されたのはいつ?」


「今朝」


「武器は?」


「一体が剣。二体が棍棒」


「他には?」


「ない。受付でも聞いた」


ちゃんと調べていた。少し意外だった。


「何だよ、その顔」


「成長した」


「殴るぞ」


隣でリナが笑っている。


受付でも改めて話を聞いた。今朝町へ来た商人が街道脇で襲われたらしい。護衛が追い払ったため死者はいないが、荷物の一部を奪われ、ゴブリンたちは街道西側の林へ逃げたという。


話を聞き終えると、ディルが先に言った。


「まず襲われた場所を見る。それから足跡を探して数を確認する。見つけてもすぐには突っ込まない」


昨日と全然違う。


「成長した」


「うるせえ」



町を出て南へ向かう。ゼノは今日も同行していたが、昨日よりさらに後ろを歩いている。何度か振り返るたびに距離が開いていた。


「師匠、あんな遠くて大丈夫なの?」


「多分」


「多分って……」


ゼノなら何とかする。そう考えたところで、ホーンウルフのときのことを思い出した。


あのときも、どこかでゼノがいるから大丈夫だと思っていた。


それじゃ駄目だ。


ゼノがいても、いないものとして動く。多分、それも今回の修行の意味なんだと思う。


二時間ほどで襲撃現場へ着いた。街道の端には荷車の轍が残り、その周辺だけ地面が大きく荒れている。少量だが血も落ちていた。


三人で手分けして調べていると、リナが街道から西へ入る草むらに三つの足跡を見つけた。


「本当に三体?」


ディルが俺を見る。


「今のところ」


「昨日のせいで信用できねえ」


「数え間違えたの俺だけど」


「だからだよ」


その通りだった。


足跡を追って林へ入る。途中で一度散らばっていたが、少し先でまた集まっている。隠れるためというより、奪った荷物を持って歩きやすい場所を探していたように見えた。


やがて声が聞こえ、三人で足を止めた。木々の向こうにいたのは三体。剣が一体、棍棒が二体。その近くには、奪ったものらしい箱も置かれている。


「情報通りだな。俺とレオンが前、リナが後ろ。剣の奴は俺がやるから、レオンは棍棒二体」


「俺だけ多い」


「昨日俺が二体やっただろ」


「関係ない」


「じゃあ一体ずつ?」


小声で話していると、リナが呆れたように口を挟んだ。


「普通に一体ずつでいいでしょ」


それで決まった。



先に動いたのは俺だった。木の陰から出ると、三体のゴブリンがこちらに気づいて立ち上がる。俺の相手は棍棒持ちだった。


距離を詰めると、ゴブリンが棍棒を頭上へ振り上げた。縦の攻撃。右へ一歩ずれて振り下ろしを避け、そのまま踏み込んで首を斬る。刃は深く入り、ゴブリンは一撃で倒れた。


《ゴブリンを討伐しました》


昨日より簡単だった。


すぐに二人を見る。リナはもう一体の棍棒持ちと距離を取りながら火球を放っていた。一発目も二発目も避けられたが、適当に撃っているわけではない。少しずつ相手の逃げる方向を限定し、三発目で木の近くへ追い込む。動ける方向が減ったところへ次の火球を当て、胸に直撃を受けたゴブリンが倒れた。


上手い。


一方、ディルは剣を持ったゴブリンを相手に苦戦していた。昨日は自分の戦いで余裕がなかったが、今日は落ち着いて見ることができる。


ゴブリンが右から剣を振り、ディルが左へ避けて短剣の距離まで入ろうとする。しかし相手も一歩下がるため届かない。再び剣が来れば避けて近づく。それでも届かない。


「……相性悪い」


短剣は近づかなければ当たらない。剣はその外から攻撃できる。ディル自身は速いが、あと一歩を入らせてもらえない。


何度目かの攻防で、ゴブリンが右から剣を振った。ディルは左へ避け、そのまま懐へ入ろうとする。だがゴブリンは剣を止めず、身体ごと回して二撃目につなげた。ディルは慌てて下がり、また距離を戻される。


見覚えがある。


俺もゼノに何度もやられている。近づいたと思った瞬間、次の攻撃で外へ戻される。


ディルがもう一度踏み込んだ。今度は剣を避けながら短剣を伸ばし、ゴブリンの腕を浅く切る。しかし反撃を避けて下がった瞬間、踵が木の根に触れた。


体勢が崩れる。


ゴブリンが剣を振り上げた。


俺が動こうとした瞬間、ディルが叫ぶ。


「来るな!」


転びかけたまま、ディルは無理に立て直さなかった。むしろ自分から後ろへ倒れ込み、振り下ろされた剣を頭上へ通す。そのまま地面を蹴って転がるように相手の足元へ入り、短剣を太腿へ深く突き刺した。


ゴブリンの膝が落ちる。ディルはすぐに起き上がり、その首へ短剣を入れた。


「……勝った」


息を切らしながらディルが言う。


「危なかった」


「勝っただろ」


「危なかった」


「そこは褒めろよ!」


リナが笑った。



討伐証明を取り、奪われた箱も回収する。依頼そのものは昨日より簡単だったが、俺は帰り道でもディルの最後の動きが気になっていた。


「さっきの最後、わざと倒れた?」


「そうだけど」


「いつ考えた?」


「剣が来たとき」


「その場で?」


「そう」


俺なら多分、ああはしない。


動きそのものはできる。でも俺なら、まず木の根を確認してそこへ下がらないようにする。もし体勢を崩しても、安全に距離を取って立て直そうとする。


ディルは違った。


崩れた体勢を、立て直さずそのまま攻撃に使った。


「何だよ」


「俺ならやらないと思った」


「悪かったか?」


「違う。面白い」


ゼノならもっと綺麗に避ける。俺も、ゼノに教わったからこそ無駄なく避けようとする。でも、それだけが戦い方じゃない。


「もう一回やって」


「は?」


「さっきの」


「今?」


「うん」


「嫌だよ。死ぬかと思ったんだから!」


それはそうだった。



町へ戻る途中で休憩を取ると、俺は近くに落ちていた木の枝を拾った。さっきゴブリンが使った二連撃を思い出し、剣のつもりで右から振る。その勢いのまま身体を回して左へ返す。


一度止めて戻すより速い。ただ、身体が流れる。


もう一度やる。右から振り、回って左。足の位置を変え、腰の回転を小さくする。肩だけでは遅いが、身体を大きく回せば今度は相手から視線が外れる。


何度か試していると、少し離れたところからゼノの声が飛んできた。


「腰が開いてる」


「こう?」


「自分で考えろ」


教えてくれない。


さらに十回、二十回と試す。


「休憩終わるぞ」


ディルが言った。


「あと十回」


「置いてくぞ」


「五回」


「何で減ったんだよ」


「交渉」


「誰とだよ」


少し離れたところで、ゼノが笑っていた。



ギルドへ戻ると、依頼は問題なく達成になった。討伐したゴブリンは三体。奪われた荷物も回収したため、依頼主から追加の報酬も出た。


怪我はない。昨日よりずっと楽だった。


それでも、学んだことは多い。


宿へ戻ると、ゼノが木剣を二本持ってきて、そのうち一本を俺へ投げた。


「構えろ」


「今?」


「今だ」


疲れてはいたが、木剣を構える。


ゼノが右から木剣を振る。避けた直後に左から二撃目が来る。さらに三撃目。今度は木剣で受けたが、簡単に弾かれた。


「さっき見た動きをやれ」


やっぱり見ていた。


俺は右から振る。ゼノが避ける。そのまま身体を返し、左から二撃目を出す。


ゼノの木剣に止められた。


「遅い」


もう一度。


右、左。


止められる。


何度やっても同じだった。


「何が悪い?」


ゼノが聞く。


「回るときに相手が見えない」


「他」


「重心が流れる」


「他」


少し考える。


「二撃目を出すことだけ考えてる」


「そうだ」


ゼノは木剣を下ろした。


「技を見たら真似する。それ自体は悪くない。だが、形だけ真似しても意味はない。あのゴブリンは、お前より身体が大きい。腕も長い。重心も違う。同じ動きをそのまま使って、お前に合うとは限らん」


分かっているつもりだった。


拳でも同じことをやった。見て、真似して、失敗して、直す。


「なら、俺用に変える」


「やれ」


右から振る。


今度は一撃目を浅くする。身体を回しすぎず、視線をゼノから外さない。その分、二撃目の威力は落ちた。


止められる。


次は足を変える。右足を深く入れすぎない。


また止められる。


三十回。五十回。


少しずつ変える。


途中からディルとリナも見ていた。


「まだやるの?」


リナが聞く。


「うん」


「さっき依頼行ったよな?」


ディルが呆れた顔をする。


「行った」


「疲れてないの?」


「疲れてる」


「じゃあ休めよ」


俺はゼノを見る。


「あと五十回」


「終わりだ」


「三十」


「終わり」


「十」


「交渉するな」


ディルが吹き出した。


「いつもこれなのかよ」


「大体」


「師匠も大変だな」


ゼノが深く頷いた。


「やっと分かる奴が現れた」


ひどい。



それからも、三人で依頼を受けた。


毎回、戦うわけではなかった。荷物を運び、薬草を採り、逃げた家畜を探した。街道を半日歩いたのに何も起きず、そのまま帰った日もある。


それでも、毎日違った。


町に来て十日ほど経つ頃には、俺はギルドにいる冒険者たちを意識して見るようになっていた。


槍を使う人。斧を振る人。盾で攻撃を受けてから反撃する人。二本の短剣で相手の懐へ潜り込む人。大剣をほとんど動かずに構える人。弓で遠くから戦う人。剣と魔法を同時に使う人。


同じ剣を使っていても、全員違う。


大きく振る人もいれば、小さく鋭く振る人もいる。足を絶えず動かす人もいれば、ほとんどその場から動かない人もいる。


俺は見る。


覚えて、試す。


上手くいかなければ理由を考える。


ゼノに止められる。


直す。


また試す。


山にいた頃より、見るものが一気に増えた。



町へ来て十六日目。


ギルドの訓練場で、ディルと模擬戦をしていた。


「今日は勝つ」


ディルが短い木剣を構える。


「昨日も言ってた」


「昨日は昨日だ」


開始と同時にディルが距離を詰めた。短い武器を使う以上、近づかなければ始まらない。俺は下がりながら剣の長さを使って進路を塞ぎ、ディルが右へ回ればこちらも位置を変える。


何度か同じ攻防を繰り返した。


以前なら、そのまま距離を維持し続けただろう。


でも今日は試したいものがある。


ディルがもう一度踏み込んできた瞬間、俺は右から木剣を振った。ディルはそれを読んで外側へ避ける。


そこで剣を止めない。


一撃目を最初から浅くしていた分、身体は流れていない。左足を軸に腰を返し、視線をディルから外さないまま二撃目へつなげる。


ディルが短い木剣で受けた。


当たった。


その瞬間に前へ踏み込む。


ディルの木剣を外側へ弾き、そのまま剣先を首の前で止めた。


静かになる。


ディルが自分の首元にある木剣を見る。


「……負けた」


俺も木剣を見る。


できた。


ゴブリンが使っていた動きとは、もうかなり違う。


でも、始まりはあの動きだった。


《剣術の習熟度が上昇しました》


表示が出る。


さらに続いた。


《成長限界付近での技能習熟の蓄積を確認》


《固有能力【超越】の適用条件を確認》


剣術はまだLv4。


成長効率も極低のまま。


それでも習熟は積み重なっている。


壁にはまだ届いていない。


でも。


近づいている。


「もう一回」


ディルが言った。


「いいよ」


「次は今の使うなよ」


「なんで?」


「ずるい」


「技だから」


「俺が見せたんだぞ」


「ゴブリンが見せた」


「じゃあゴブリンに返せ!」


意味が分からない。


少し離れた場所で、リナが笑っている。


ゼノは何も言わなかった。


ただ、少しだけ口元が上がっていた。


山を出て十六日。


ようやく分かり始めた。


ゼノから学べることは多い。多分、何年かかっても全部は学べない。


でも、強くなるために見るべき相手は、ゼノだけじゃない。


強い人から学ぶ。


自分より弱い人からも学ぶ。


魔物からも学ぶ。


失敗からも学ぶ。


自分とは違う戦い方を見るたびに、自分の中に新しい選択肢が一つ増える。


そのまま使えないなら、自分に合うように変えればいい。


一度でできないなら、できるまで試せばいい。


才能がないなら。


一つずつ拾っていく。


俺には、それを繰り返すことだけはできる。


お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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